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はち ゃめちゃなおわかれがにあう


「……………」

「……………」



鶴丸が還ったことで、本堂に、本丸に、いるのは主と長谷部だけになった。

何か言わなければ、何を言おう、逡巡している間に、相手が先に口を開いた。
「二人っきりだな」
ボッ そんな音を立たせながら、耳まで真っ赤に染まった長谷部の顔を見て主はケラケラと笑った。
二人きりになって、他に誰も話を聞く者がいないからと、つい本音が口をつく。


「本丸解体と刀剣たちの解放を命じられたとき、真っ先に浮かんだ顔がお前だったよ、長谷部」

「……えっ…!?」

「しかも泣き顔を思い浮かべてしまって、抱きしめてやりたくて仕方がなくなってた」

「…!」



正直に言おう。
審神者は、ある一振りの刀を 人の身でありながら、重大な使命を帯びている身でありながら、愛してしまっていた。その銘をへし切長谷部と言った。


「あ、あるじ、俺は、いえ、俺も」


「…追加の懺悔をすると、朝まだ眠っていたお前を寝具に寝かすとき、ついうっかり口付けをしてしまった。すまん」

「!?」


これにはさしもの長谷部もどう反応をすれば困った。無意識のうちに指が己の唇を撫で付けていた。



正直に伝えよう。
へし切長谷部は、己の新たな主であるこの男のことを 神の身でありながら、お互いの立場を嫌と言うほど弁えていながら、とても愛していた。名は知らない。だがそれは関係なかった。「主」と呼びかけられるのなら、名前を教えて貰えずとも幸福だった。


「…あ…主、俺も、ずっと貴方の事を慕って、いました…」

「ああ、知ってたよ。知ってて、知らんふりをし続けててたんだ。悪かった」


気になさらないでくださいと伝えるのが精一杯だった。
気付いていてくれていたことが、嬉しい。
知らないふりをしていてくれたことが、嬉しい。
同じように愛してくれていたことが、こんなにも嬉しい。


けれどもう、この先に待っているのは 離別だ。



「………俺は、また、美術品としてあの箱の中に戻るんですね」


この戦いの為に呼び出されるまでは生まれなかった新たな感情が芽生えた。おそらくこれは、「退屈」と「絶望」というに相応しい。

あの箱のある場所には、主はいらっしゃらない。嗚呼、なんという絶望だろうか。


「そんな顔をするな、長谷部」

「…っ、俺は、もっと貴方にお仕えしたかった。もっと貴方の刃となっていたかった。もっとお役に立ちたかった。もっとお傍にいたかった。 もっと、愛していただきたかった。もっと、もっと、いえ、すみません、たわ言です、申し訳ありません主」

「おいなんで謝る。嬉しいことを言ってくれてるのに」

「主…っ」


長谷部の涙腺はついに決壊した。だって、目の前の主が泣き笑っているのだから仕方がない。釣られるように泣いたが、流す涙の量は遥かに長谷部の方が多かった。せっかくだから、思いっきり泣いておこうと心のどこかで思った。箱の中に戻れば、もうこんなことは起こりっこないのだから。



「……うだうだと、縋ってしまいました。ですが、この長谷部、本当に幸福な日々を主のおかげで送ることが出来ました」

「うん、俺もだ」

「………では、よろしくお願いいたします、主。貴方の手で送られたと思えば、あの箱の中も多少は好きになれることでしょう」

「そうか。まあ、それならよかった」


鼻声の主は、すこし可愛らしいな。 最後の最後に、新しい発見をした。この事実は出来ればずっと覚えておきたいと思う。




「―――主 貴方の武運長久を」

「―――ああ。 待っていろよ、長谷部」

「え―――?」




最後の一振りが光となって消えた。
 後に残された人間は、「さて、と」と肩を回した。
 これからの波乱を予想して、彼は大いに楽しんでいた。彼は元来、障害があるほど燃える性質である。



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