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なな つかぞえるまえにきえるさ


失態だ。


目を開いて見えてきたのが天井だったから、真っ先にその考えが過った。
今の長谷部は、寝具の上で横になっていたからはっきりと理解できた。

何処でって、主の部屋で、
誰のでって、主の寝具で、
今は、一体、何時で、









「ああああああああ 主ーーーーーー!!」


「おっ、やーっと起きてきたか長谷部」

「ふふ、珍しいですな。長谷部殿が寝坊とは」
「ほんとにさ。もう後は俺と一期とお前さんしか残ってないぜ」
「え」



急いで審神者が霊力の使用を許可されている本堂内に飛び込めばそこには主が立っていて、その隣には一期一振が控えていて、入り口近くの壁には鶴丸国永が凭れかかっている。 それだけだ。


「…ま、まさか、他の者たちは…」

「ああ、みんな還したぞ。あとは、お前たち三振りだけだ」

「残念だったなぁ?長谷部。主は一振り一振り、全員に"最後の言葉"をやっていたんだぞ。俺なんか最初からずっとこうして待って聞いていたもんだから、うっかり涙腺がやられちまって、見てくれ水滴が止まらん。止め方を知ってたら早めにご教授願う」
「…………、…」
「そこで黙ってる一期殿は自分用に使ったからとハンカチも貸してくれないんだ。酷いぜ」
「鶴丸、俺の手拭で良ければ貸してやるぞ」
「えっ 本当か 今、君にそんなことを言われたら、俺は墓まで持って行ってずっと返さないぜ?」
「堂々とした借りパク宣言だなぁ。いいぞいいぞ、持ってけ持ってけ」



―――さすがは、主だ。こうして普段と同じように振舞うことで、これから送り出す者たちを不安にさせないようにというご配慮。素晴らしい、さすが、さすがは、俺のあるじ。

締まらない表情をしてしまっていたのだろう、目敏く長谷部の様子に気がついた主は「なんつー顔をしてんだ、長谷部」と言って笑った。目を細めてニヤニヤと笑う、長谷部の大好きな表情の一つだった。



「…じゃあ次は一期だな。構わないか?」

「――はい」


穏やかな様子の一期は、本堂の中央に立つ主と向かい合う形で立つ。
入り口側にいる長谷部と鶴丸には一期の表情はもう見れなかった。


「―― 一期 長い間、お役目ご苦労だった。 お前は、俺たち人間にかかる火の粉を、その身で振り払ってくれた」
「 はい」
「これからは、俺がお前の名を ずっと守って生きて行こう」


――どういう意味だろうか。
長谷部が疑問に思ったのはそこまでだった。

頷いた一期一振。主の手に霊力の渦が出現する。

室内に淡い光が立ち込め始めた。光は一期一振の体を包み込み、彼の姿を攫って消えた。一瞬の出来事だった。光の残滓が、ポロポロと浮遊する。そうか、終わりとはやはりあっけない



「―――ようし、では次は俺か」


長谷部の隣でパン!と強く手のひらを叩いた鶴丸が身を乗りだす。
主は不思議そうに鶴丸を見やった。


「なんだ、意外だな。てっきり鶴丸は最後がいいのかと思っていたが」
「俺も出来れば最後が面白そうだと思うんだが、俺よりも主の最後になりたがっている奴がいるんでな。そっちに譲ることにしたのさ」
「!」
「…そうか」


じゃあ、こっちにおいで鶴丸。
主からの呼びかけに、鶴丸はスキップしそうな足取りで近付いた。片手に、しっかりと主の手拭を握り締めながら。羨ましいと長谷部は思ったが、言わないことにした。空気だって読める。



「……本当にそれを持って行くつもりか」
「勿論さ! めちゃくちゃ大切にしまくって、手拭の付喪神にしてみせる!」
「…………まあ、がんばれ」


ある意味で鶴丸らしい最後の言葉となったのだろうか。主も最後はとてもリラックスした様子になっていたので、長谷部は喜ばしいと思った。別れの時が近づいていることに気付きながら。

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