今日の夕餉は 少しだけ 味付けがしょっぱい。
「当本丸は、明日、1500時をもって解体と相成った」
主の声が、震えている。
口角は上がっているが、目線を少しだけ下にして卓を囲んでいる刀剣全員の誰とも目線を合わせてはいなかった。
短刀たちが堰を切ったように泣き出した。わんわんという泣き声に混じって、和泉守兼定の声も混じる。
じきに、一振り、もう一振りと、その中に加わった。
「あるじ、」
誰かが呼んだ。その誰かの声に、主は応えなかった。
「明日、0600時に全員起床するんだ。そこで一振りずつお前たちを"解放"する。それぞれ遣り残しのないようにな。 俺は明日に備えて早めに寝る!」
最後を一気に捲くし立て、主は勢いよく立ち上がった。その後を追うように短刀たちが続いて、主の袖や裾、手を引いて何事かを訴えている。 殊更、短刀たちには人一倍の愛情を持って接してきていたお人だったので、短刀たちの悲壮さには胸が打たれそうだ。
勿論、それは他の刀たちにも言えることだった。
本当の家族のようであった。
最初で最後であろう人間の姿をして、営めた人としての生活の中心に、主のようなお方がいたことは我々全員の幸福だったと言えるだろう。
「大切なものは、幾つ持っていても構わないんだ」
主は、ずっとそう言い続けてこられた。
大切な言葉だ。
主から賜った数々の言葉の中で、一際我々を支えた言葉。
俺も、主に お伝えしたい言葉が沢山あるのです。
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