とうらぶ | ナノ
×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
はじまり


2200年代において、人間とは"希少品"である。

2000年代に起きた爆発的な人口増加は、急激な人口減少に変わっていた。
減少の理由は幾つか列挙されるが、此度の事によると重要な事柄ではない。


重要であることは、"私"の識別番号は『SNW-01』―――
2199年に死去した、地球最後の『審神者』であった者の頭脳と能力を電脳化――人工知能「SNW」に変換し、それを搭載した人型機巧刀剣システム。 所謂、ロボットである。

死去した審神者の有していた膨大な神力をデータ化させ、蓄積する為に作られたボディは予定されていたサイズよりも大型に建造され、"私"はまず自分のボディに馴染むよう邁進することが最初の任務だと命じられた。

"私"とはSNW-01であり、また、『オリジナルの審神者』本人であるとも言える。死した審神者の、記憶以外の全てのデータを"私"自身の基盤としているが、"私"を造った政府の研究者たちは"私"に"私"を認識させる暇も与えずに、"私"を造り出した理由と目的を手短に「SNW」に学習させる。


「SNW-01 これからお前を、我々が用意した別の時空間へと転移させる」


――そこを拠点とし、その力を以って神を伴い、歴史修正者どもを殺し尽くせ


曰く、"私"は、"ほぼ"人間と同意義な存在である。
曰く、しかし"私"に"人権"の類は存在しない。
曰く、国の重要保護文化財である国宝級の刀剣らを用い、与えられた審神者の力で刀に宿りし神を顕現させ――を―――(データベースに不具合発見)
曰く、歴史修正者を殲滅せぬ限り、この任務に終わりは無い。"私"がこれらの"放棄"を思考した場合、修正者たちの手にかかり自己の生存に難有と「SNW」が判断した場合、審神者の力の悪用を防ぐため「SNW」の全消去が自動的に行われる。
曰く、顕現させる刀剣たちは神ではあるが、同時に臣下であると認識すること。決して、"審神者"よりも自分達が格上であると思わせぬこと。理由は不問。(恐らく歴史修正者たちの発生原因に因る物と推測される)
曰く、
曰く、
曰く、―――




「SNW-01 お前は我々政府が生み出した最後の希望になる。もう、我らの世界に審神者は、お前以外存在していない。歴史修正者どもの跋扈をこのまま許してしまえば、我々人間は須らく存在しなくなるだろう。皮肉な話だ。お前のようなロボットを造る技術はもとより、銃も、戦車も、核も、何もかもを破壊する力を持ち合わせているというのに、"刀以外では殺せぬ敵"が現れたと言うのだからな。だからお前にも、歴史修正者どもを直に殺すことは出来ない。その審神者の力を存分に使え。お前に搭載した人工知能の学習能力は、この時代に現存してあるどんなスーパーコンピューターよりも優秀だ。――どうか、人間を救ってくれ。頼んだぞ」





『――― 御意。』





ブゥン――SNW-01の青いセンサーアイは光を帯び、眼前の捩れた時空の歪みを緩く見据えた。重い金属音を立てながら、立ち上がる。研究者たちが両脇に立ち、心配そうな面持ちで、時空の歪みへと歩を進めるSNW-01……"審神者"の姿を見守っている。



人ではない者たちに立ち向かうため、
人ではない者が、
人ではない者たちの力を借り、
人を救う。



時空の歪みの中へと一歩、金属の足を進める。そして身体が強大な重力と、引力によって前方に引っ張りあげられる感覚。次いで電磁パルスを身体全体に浴びているような、強烈な痛み。なるほど、このような負荷、人間では決して耐えられまい。腕が、間接が、引力の抵抗を受けミシミシと軋めいている筈だが、その音すらも聞こえない。ひたすら無音、無音、しかして轟音、轟音。センサーアイに入って来る風景は黒く淀んだものから一点、人間が直視しようものなら一瞬で両目を焼け焦がすような光の洗礼の中を身体が通り抜けていく。











長い不愉快な浮遊感のあと、降り立った私の視界に入って来たのは、あれほど苛烈な痛みを伴った歪みの様相とは一転し、
緑溢れる野山に囲まれ、足元を覆ってくる柔らかな草花、初めて耳にする野鳥たちの囀る声、長閑な平地に、400年程前にあっただろう日本古来の、立派な、大人数の人間が共同で暮らせそうな木造建造物が建っていた。



私はそこでようやく、自身というものを少しばかり鑑みることが出来た。



『………これは、』



私が暮らすには、少しばかりこの拠点は、小さすぎるような気がするな。



prev / next