!これ設定の二人
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「君も欲のない人だよねぇ」
「なんだ藪から棒に」
文机に向かって提出用の書類を認めていたところへ、入室してきた近侍の青江がどさりと背中越しに抱きついてきた。
やや間延びした口調に合わず、どこか不機嫌であるらしい。どうしたことだろうか、今日はまだ碌に会話も交わしていなかったはずだが。
「『"数珠丸恒次"がいなくても、俺がいるだろ』 ぐらい、言ってくれても罰は当たらないと思うけれど?」
「……ああ、なるほど」
そう言えば確かに、ここ数日の青江はどことなく意気消沈していたような気がする。
表面上は平素どおり取り繕っていたが、青江を取り囲んでいる覇気が薄く感じられたのは、やはり"顕現させた者"の特権だろうか。
「……俺に、そう言って欲しいのか?」
「言ってくれるのなら聞きたいねぇ。兄弟刀が来ると思って愉しみにしていたから、その分余計に悲しい気持ちになってる恋人……恋刀?がいるんだよ?」
「……そうか。…分かった。――青江」
「 うんうん。さ、どうぞ 遠慮なく?」
「お前には俺がいる」
「………………」
「 青江?」
「………もっと」
「言え?」
「うん」
「お前には俺がいる」
「もっと」
「お前には、俺がついてる」
「もう一度」
「……俺が傍にいる」
「…ふふ」
「……お前には、俺だけいればいいだろう」
「 ん、っ?」
「 ……なんてな」
「…………ズルイねぇ、そういうの」
「そうか」
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