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「#幼馴染」のBL小説を読む
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髭切


/審神者と髭切が主の髭の話をしてるだけ











「はじめまして髭切。俺が、お前の言う"今代の主"だ。俺のことは好きに呼んでくれて構わない。 それで来て早々だが今日から暫く、うちの本丸での生活や習慣、役目なんかに逸早く慣れてもらうために、お前に近侍を務めてもらうから。ああ、近侍というのは――……」





そうして、髭切が近侍を任されるようになって一日が経った。
人間の体を得て、主だという男の傍について過ごした一日の感想を上げるならば、「不思議だなぁ」と言ったところだろう。

"主"だという人間に仕えればいいことは薄っすらと理解している。「今日から共に、戦っていこう」と差し出された手を取り、"握手"なるものを交わした男のために刀を振るうのも面白そうだと、良しとした。不便はないか、困ったことはないか、何かあれば気軽に声をかけてくれと言ってくれる周りの刀たちのことも有り難く思っている。初めて口にしたが、食事という行いも中々に楽しい。和気藹々と食卓を囲んでいる、後輩だが、本丸では先輩の刀たちを見ているのも愉快だ。そう、そう言えば、自分には弟がいたような気もする、なんという名前だったかと考えたのもこの時だ。思い出せはしなかったけれど。多分どこかで元気にやっているはずだ。そういう奴だった気がする。




「うーーん…………」


「あれ、どうしたんだ髭切。こんなところで難しい声出して」
「  ああ、君かぁ」

廊下の真ん中で突っ立っていた髭切の背中を押したのは審神者だった。
起き抜けなのか、ボサボサの髪によれよれの寝着な格好のまま、大きく欠伸を零している。

「おはようさん。どうだ、よく眠れたか?」
「うん、お早う。とてもよく眠れたよ。ふかふかのお布団というのは、良い物だねえ」
「そうだろう? よしよし、じゃあ今日もその調子で、近侍の仕事よろしく頼むぞ」


――気安い人間だな。
髭切はそう思った。しかしこれは別に、悪い意味で思ったことではないような気がする。何だろう。人間は、"こんな風に"刀に接してくるものだっただろうか、と。昔と照らし合わせてみようとしたけれど、どうにもその昔を、上手く思い出せなかった。



「 なんだ?」

「――ん? どうしたんだい?」
「いや、お前が俺の顔をじっと見てるから………ああ、コレか?」
「え?」

そう言って審神者は、自身の顎を撫でた。黒い、ぽつぽつとしたものがそこに広がっている。

「髭。これから洗面所に行こうとしてたから、まだ今日は剃ってないんだ」
「……いやいや、別にそこを見てはいないよ。でも髭を剃るって…… アレかい? 君はいつも誰を使って髭を切っているのかな?」
「待て待て待て待て。別に髭を剃るのにお前らは使わねぇよ。 いいか現代にはな、電動シェーバーっていう男の朝に欠かせない神器があってな」
「でんどうしぇえばあ」
「俺が愛用してるのはナノエッジにまで加工された三枚刃が搭載された最新モデルでな」
「なのえっぢ」
「毎分13000ストロークで動くリニアモーターもあってこれがまた凄いのなんのって」
「りにあもおたあ」
「マルチフィットアーク刃で俺の肌に吸い付くように当たってなあ。これがまた剃りやすいのなんのって」
「 なるほど。君の言う言葉の半分は分からなかったけれど、その"なんとか刃"というのが凄い切れ味だというんだね?」
「ああそうだな。もう手放せないんだ」

「今度その、でんどうしぇえばあ君に会ってみたいねえ。髭を切った先輩として」
「おい、まだ何か勘違いしていないか髭切?」





――新しい発見。「会話」というのも、なかなかに不思議だ。


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