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燭台切光忠


/※既に主(男審神者)がいるため、やってきた審神者見習いの少女に内心で風当たりがっょぃ












数日前から当本丸へ"審神者見習い"として研修にやってきている人間の少女のことを 刀たちは良く思ってはいませんでした。
いくらその少女が働き者で、気遣いのできる子であったとしても、それが、だから、何? え、人間の眼から見るとあの少女は"かわいい"のですか。へえ。ふうん。 で? そんなものは勘定には入らないでしょう、刀である彼らにとっては。




そう年端も行かぬ少女らしくあどけなさを見せて、当本丸の審神者である主のあとをついて回って、指導されています。手には筆と用紙を持って。
けれど彼女が持っているメモには、懇切丁寧に審神者の在り方や仕事などを教え説いている主の言葉などはほんの少ししか書かれていませんでした。走り書きにしても酷いです。
直接そのメモを見せてもらって確認したから間違いありません。

何とか平静を取り繕って「頑張ってね」と返せた自分を褒めてやりたくなりました。それを見た直後の燭台切光忠の眉間には皺が寄りました。「若い女の子の審神者が勉強をしにやって来る!分かりやすく教えられるよう、話の要点を今から纏めておこうと思うんだ、手伝ってくれるか光忠」と言って乗り気とやる気に満ちていた主の姿を思い返したからです。
 何故この少女は主の後ろについて指導をされながら、妙に励んでいない節があるのだろうとずっと疑問に思っていました。ですが、今日、その理由が判明しました。






見習いの少女が初めて、台所で夕餉の支度をしていた光忠に「私もご飯を作るのお手伝いします!」と手伝いを申し出てきた。
内心で「こんな得体の知れない少女に主の口に入るものを任せることなど出来ない」と思っていた光忠はやんわりと「いいや、ここは人手は足りているから」と拒否したつもりだったが少女はめげず、「ではお皿洗いします!」と食い下がったので、これ以上の問答は面倒くさいだろうし、それくらいならやらせてもいいかと思ったのでオーケーを出す。だから今こうして肩を並べて共に洗い物をしているわけだ。

 少女はあれこれと話題を出しては、光忠に話を振ってくる。
両親が高名な審神者だとか、家が裕福だったので皿洗いなど初めてやったとか、友人はすでに一審神者としてお役目に励んでいるから自分も負けていられないだとか、君には才能があると政府の人に箔を貰ったとか、初めて両親以外の審神者を見たが優しい人でよかったとか。
最後の部分にだけ「そうだろう?」と強く同意を示した以外は少女の話を半分聞き流していた。



「……あ、あの! こんなこと、本人を目の前にして言うのも何なんですけど…!」
「 何かな?」

少女は水に濡れたままの大皿を持って、口元を隠している。 うん、いいから、洗い終わったのならこっちに回して?

「さっき審神者をやっている友達の話しましたよね。その子の本丸にも、あなたと同じ燭台切光忠がいるそうです。わたし、いつもその子の話を聞いてました。光忠さんはいつも格好良くて優しいらしくて、わたし、その話を聞きながらいつも思ってました。その子が言ってる光忠さんに、わたしも会ってみたいなぁって」

「ありがとう、光栄だな」

お皿、渡してくれないかなぁ。君のせいで作業の流れが止まっちゃってるんだよね。時間管理もスマートにこなしたいのに、なんでこういうことしちゃうのかな。

「この本丸に来て直接光忠さんを見た時はその、想像以上に格好良くて、驚いちゃいました」

「あはは、嬉しいな」

うん、お皿。

「だからぁ、その……私がいつか審神者として自分の本丸を持ったときも、私のところに来てくださいね! わたし、待ってますから!」


 嗚呼、ようやく理解した。なぜこの少女が不真面目に見えていたのかが。


少女は、ずっと光忠を見ていたのです。本丸にやってきたその日から、主が皆に少女のことを紹介するため、少女と顔を合わせたあの時から。少女が主のあとをついて回っていた理由も。主の近侍である光忠が、一番主と顔を合わせる刀だから。

それらを理解した光忠は少女から見えないように口元を引き結んだ。
 なんと言う、軽薄。 不純な動機。 何を要求しているんだこの少女は。


『私のところに来てくださいね!』と、少女は言った。
それを、"この本丸にいる燭台切光忠"に言っても無駄である。
各本丸ごとに刀剣たちは、多少なりとも人格が変遷するものだ。取り巻く環境如何というだろう。

少女の友人のところにいる燭台切光忠がどうなのかは知らないが、
"この本丸にいる燭台切光忠"は



「………そろそろ、お皿をこっちに渡してくれるかな?」

「 え? あ! えっと、はい!どうぞ!」





 "今の主"と"前の主"以外の人間のことは
「どうでもいい」か「斬るべき相手」としか、見ていないのです。








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