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長曽祢虎徹


蜂須賀虎徹率いる第一部隊が厚樫山にて遭遇した検非違使を討伐し、渋い顔をした部隊長が本丸へと連れて帰って来た刀を見て、主はいたく目を輝かせていた。---目撃者:近侍 石切丸






「浦島 一つお前に訊ねたいことがあるんだが、今いいか?」

「おっ!なーに、長曽祢にいちゃん!俺に答えられることだったらいーんだけど!」


「俺は主にどう思われているのだろうか」


長曽祢虎徹が当本丸にやって来てからそう短くない月日が経過した。
真作である弟や、過去の因縁がある陸奥守との間にある軋轢を除けば、慕ってくる弟は可愛いし、新撰組の仲間たちはよくしてくれていた。もちろん、他の刀たちも同様に。

そして肝心の主となる人間のことだが、

「審神者」なる者である主は、幼い少女だった。人の子で言えば、おそらく六歳か七歳くらいだろう。初めて長曽祢が主と対面した際、主のあまりの小ささに己の体躯が怖がらせてしまわないかと危惧さえした程だ。
その心配は杞憂に終わったが、「本物以上に働くつもりだ」と挨拶をする長曽祢を見た主の眼は、確かな輝きを持っていたことが 後日に引っ張るほどの疑問となっている。


「気が付けば主に見られているんだ。鍛錬中、内番中、他の者との会話中……俺が何かしでかしてしまったか、と思ってそれとなく訊ねてみたのだが、首を振られるだけで何も言われないんだ。俺は嫌われているのか?」

真面目な表情で苦悩している兄に、弟は太陽のような笑顔であっけらかんと否定した。

「あははっ!大丈夫だよ、長曽祢にーちゃん!主さんはちょっと口下手ちゃんなだけ、すっごくイイ子だよ!」

口下手と言うよりも、まだ言葉を碌に覚えていないからと言った方が適当だろう。もしくは大柄な男たちに囲まれて萎縮しているか。

「審神者」になれるのに、性別や年齢は不問である。経験を積んだ妙齢の老人から、神の転生体として持て囃された生まれて間もない赤子まで。果てには人間ではないものにまで至る。あのくらいの年齢の少女が、親元を離れ「審神者」になっていても、何ら不思議はないということだ。


「そうか…まあ、お前が言うのだから嫌われてはいないと信じてみてもいいかな。 しかし、主はいつもああやって新しく来た刀をじっと見つめているのか?」
「え? うーん、それはどうだろ。俺も長くここにいるわけじゃないけど、俺が来た時はそんな見られたって気はしなかったな〜。あ、気にかけてはくれるんだけどね?」

 もしかしたら、長曽祢にいちゃんが誰かに似てるとかなんじゃない? よく分かんないけど!


浦島との対話はそこで終わった。遠征に向かうという浦島を見送り、長曽祢は弟の会話で得られた少ない情報を整理してみる。しかし答えは見えてこない。まさか人の身を持って、いきなり対人関係に悩むこととなるとは思ってもみなかった。


「……………うーむ…」
「………」
「……」
「……」

「……主!?」


自室に帰ろうと、本丸の廊下を歩いていた。
そして角を曲がって少し歩いたその先で、主がちょこんと立っていたのだ。


「な、なぜそこで立ち止まっていたんだ主」

急に主が見えていたので、動転した長曽祢はついそんな事を言う。しかし主の方は特に取り乱した様子もなく、こぢんまりとした身体の更に小さな指を重ねて、

「……ろーかの向こうから、足音がきこえたら、手前でたちどまるようにしてるんです。向こうから、わたしのすがたが見えなかったら、その、はちあわせした時に、足にあたっちゃうかもしれないから」

だから、ここで止まってました。


 なるほど。確かにあのまま角で鉢合わせをしていたら、ぶつかってしまうまで長曽祢は主が見えなかっただろう。大柄の男たちとの共同生活を送る上での、背丈の小さな少女が気をつけることに、頭の回らなかった自分に、長曽祢は反省した。
 目線を合わせるためにしゃがみ込み、頭に乗せた手に感じた柔らかな髪の触り心地に不思議な思いを感じながら、主に謝罪する。


「すまんな。これからは気をつけることにしよう。主に怪我がなくてよかっ――…!!?」



 ――主の両目から、大量の水滴がボロっと零れては、大慌てするに決まっているだろうが



「…う……うぇっ……!」

「ななななななななな、なんだ!?どうした主、なぜ泣く!?」

「う、ぇ、ぇええん、…うぅっ…」

「あああすまん、撫でられるのが嫌だったのか?不愉快な気持ちにさせてしまったか?」


泣かせてしまった、泣かせてしまった! どうすればいい、どうすればいい!
無意味に繰り返してしまうほど慌てている、どうすればいい、このままでは、泣き声を聴きつけた過保護組みが飛んできてしまう!


「……やだぁ…!」
「ん!?嫌?やはり頭撫でが嫌だったんだな、すま」

「あた、ま、撫でるの、やめないでぇ、おとうさぁん…!」


「え」













――親元から(強制的に)離れた、碌(な教育を受けさせられないまま)に言葉を知らない少女が、本当の父親の面影を見せた刀に 拙く伝えた懇願の言葉は、あの日(迎えに来た見知らぬ人間に阻まれて)言えなかった言葉でした。
















「………それで? 主の父君に似ているから、主は贋作を見ていたと…?」
「わー!長曽祢にーちゃんと主さん仲良しだー!いいなー!」
「……ずるいぞ贋作!!俺だって、俺だって主を膝に乗せて夕餉を共にしたい!」


他にもありとあらゆる者たちからの好奇な視線やからかいを受けつつ、掻いた胡坐の上に腰掛けてニコニコとご飯を食べている主の旋毛を見下ろしながら、長曽祢は味噌汁を啜った。
"これ"をどう対処したらいいのかなんて、まだ長曽祢には分からなかった。
ただやはり、感じたことのない、不思議な感情に、首を擡げるのである。



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