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一期一振











「好みのタイプぅ? そりゃお前、アヤちゃんみたいに胸がボイーンとでかくて、ケツもバイーンと大きくてそれでいて手に吸い付くような弾力性と若いハリがあって趣味に『お菓子作りですぅ(ハァト』とか言っちゃう黒伊達眼鏡な娘っ子に決まってるだろうが!」




一期一振は自分が今どんな顔をしているのか分からなかった。
必ず、かの品性下劣な男の言葉が弟たちに届く前に口封じをせねばならぬと決意した。
一期一振にはアヤちゃんが何者なのかは分からぬ。
時として品性下劣になる男は、一期一振の今の主である。審神者に就任したあと、敵を退け、刀を集め、着実に戦いの収束へと駒を一歩進めていた。しかし一定の条件下になると、口を開けば「嫁さんが欲しい」、「お前ら刀のためにわざわざ時代背景設定を過去の日本に合わせてるんだから、町娘とか花魁とかとお近づきになりたい」と、一期一振を大いに困らせては笑っている。

因みに冒頭で、さも誰かから「主の好きなタイプは?」と問われたかのように発言をしているが、誰もそのような質問はしていない。主の盛大な独り言である。



「……主 斯様な発言は、あまり感心いたしませぬな」
「あ〜〜〜〜〜? 一期一振さんには 山積された定期報告用書類の処理に四苦八苦してる主サマの姿が見えないのか〜〜〜〜?『手伝いましょうか、主』みたいな気概はないのかな一期一振さんには〜〜〜〜〜?」


もちろん見えている。けれどそれらの書類は全て審神者が記述するものしかない。手伝える内容のものがあるなら、一期も迷わず手を貸している。


「いつもと同様の報告書作成ではないですか。同じ要領で書けばよいのです」
「だって今年の下半期は一挙に色んなことがあっただろうが〜〜〜いい加減覚えてねえよ細かい日数なんぞな〜〜〜〜俺も歳かな〜〜〜」
「そのようですな」
「お前、嫌味なんて覚えやがったな」


主がダーツの矢のように投げてきた筆を最小限の動きで躱した一期は「ええ、今の主の影響でしょうな」と優雅に一笑。
「くそっ、イケメンめ」と主は渋い顔で吐き棄てた。文字と睨めっこし続けていた両目に強烈な光は毒だ。



「 まったく、お前は"前の主"だけじゃなく俺の影響まで受けてんのか。付き合った相手によって態度変える女子高生か。もっとしっかり自分を持てよこの野郎」
「ふむ 主の仰られるジョシコーセーというものが如何様なものであるかは存じませぬが、これでも"一期一振"として曲げぬ信念は持ち合わせているつもりでございます」
「…はあ、格好いいこって。心配して損したわ」

「……心配、ですか? 今のは、して頂けていたのですか」
「ほんのちょっとだけだ!杞憂だっただけみたいだし、この話題は終わりな、終わり!」


一期から返してもらった筆を持って、しっしっと手で払う真似をした主は、ほんのりと目尻を赤らめている。虫の居所が悪くなったようだ。

 そんな主の様子を見てしまっては、一期一振も座りが悪い。
心配。そう、確かに言葉を反芻してみれば、不器用ながらも心配の色を滲ませた内容であった。


「主 先ほどのお言葉は"あまり持ち主に左右されず、しかと己を保てよ"という主からの忠言と受け取ってよろしいのでしょうか?」
「だーー!なんで穿り返すかなぁお前は!言葉なんてテメェの方でどうとでも解釈しやがれ!せっかく俺がお前に物事を考えられる頭つけてやってんだからなぁ!」


確定だ。主がそう仰られたときは、大体正鵠を射られ返す言葉に窮した時だから。

もう主は、一期と話すのはこれで仕舞い!と言うように、目線を机の上の書類に固定した。
一期も、主がちょっかいを掛けてきたり、主命を賜らない限りは、黙って静かに脇に控えている。


"あまり持ち主に左右されず、しかと己を保てよ"
 そのお言葉、真意と共に 一期一振、しかと拝領致します。



けしからぬ




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