「謹んで、新年の御慶びを申し上げる」
障子を開き、膝をついて礼儀正しく新年の挨拶を述べた一期に
「ああ、今年もよろしくな一期」と声をかける。
年を越して早々、きちんと挨拶をしに来た我が近侍の行動を褒めてやろうとしたが、一期は「さて」と立ち上がり、足早に部屋を退出していこうとする。一期にしては珍しく、性急な様子だ。
何かあったのか、これから何かあるのだとうかと不思議に思い、訊ねた言葉に返って来た返事はなんとも和やかで。
「弟たちに、お年玉をくばってこなくては」
強請られているから仕方がない、と言いたげなのに、どこか楽しそうであるのは明白だろう。堅苦しくもキチンと新年の挨拶をした割に、一期は一期で、初めての「人の体をもって過ごす年明け」を楽しんでいるようだ。
懐から取り出した、兄弟分あるポチ袋を眺めている目が、そう告げている。此方まで、微笑ましくなるほどに。
そんな一期の顔を見ているうちに、此方にもある思いが横切った。
礼をして退出しようとする一期をあと少し待ってくれと引き止めて、文机の棚を探り、お目当ての物を取り出して、
「 これは俺からだよ、一期」
「………えっ」
日の出のマークが描かれた、シンプルなポチ袋
差し出されたそれを、驚きの声を上げつつ恐る恐る受け取った一期は「よ、よいのでしょうか」とうろたえている。
「どうした。嬉しくないのか?」
「い、いえっ!そのようなことは決して。ですが、その…"お年玉"と言うのは本来、幼子に渡すものなのでは……」
「なんだ、遠慮しているのか」
なんとも一期らしい遠慮だ。
しかし、それならなんら気にする事はない。
「お前にあげたいからあげるんだ。そのお金は、一期が自分の為に使いなさい」
そう言うと一期はハッと目を見開いて、そして次に頬を赤く染めた。
恭しく手に持って、「……拝領いたします」と、これまた大袈裟だ。
「 …じゃあ他の兄弟たちのところに行っておいで。きっとあいつらも、一期からのお年玉を楽しみにしているだろう。皆に配り終えたら、あとで大広間へおいで。みなで餅をつこうと、光忠たちが張り切っていたんだ」
「はい!」
退出していく間際の一期は、あげたお年玉が余程嬉しかったのか、心なしか先程よりも浮き足立っている。
文字にすれば、「ルンルン」と言ったところだろうか。
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