とうらぶ | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
秋田藤四郎


夏が終わり、めっきりと冷え込みを見せ始めた秋の最中。本丸内にある紅葉や銀杏の木には色鮮やかな葉が生い茂り、名所さながらの見所を見せている。
実際、俺も資料以外でここまで立派な秋の紅葉を肉眼で見るのは初めてだった。埋め立てや、高速道路の開通工事、都市開発の為に山林は次々に取り潰されて行っている2205年の現代では、まずお目にかかれない光景である。"紅葉狩り"という言葉は無くなり、バーチャル映像でわざわざ観賞する人間も多くいるのだそうだ。俺も興味がないでは無かったが、いざ目にするとこれは美しい。赤々しい色過ぎるような気もするが、中々風流だ。これが"雅"という奴だろう。歌仙の奴も、朝起きてこの光景を目にした途端に筆と紙を取りに走ったほどだ。俺も記念に写真を撮っておこうか、なんて思ったが、残念 カメラは支給されていない。


「 主クン〜!」
「…お、どうした光忠」

ドタドタドタ。
雅じゃない足音を立てながら、廊下を走って来た光忠が弱り顔で「困ったことになったよ」と頼んでくる。

「空気の入れ替えをしようと思ってお昼に開けておいた各部屋の中に、結構な量の紅葉が入り来んじゃってたんだよ!」

そりゃまた。
今日の掃除当番組が庭の紅葉に見惚れていたから、掃除が終わった後も戸を閉めずそのままにしていたらしい。午後過ぎに吹いた強い通り風が、絨毯のように庭中敷き詰められていた葉を舞い上がらせ、本丸の中にまで運んでしまったようだ。これにはさすがの歌仙も渋い顔をしたらしい。

「そりゃあ大変だ。部屋の中に入り込んだのを、掃き出せばいいんだな?」
「そう!主クン、お願いしてもいいかな?」
「ああ。暇そうにしてる奴を見つけて、一緒にやっておくよ」

二つ返事で請け負えば、「良かったぁ!」じゃあ、よろしく頼むよ。そう言うと、光忠は廊下に落ちている紅葉の掃除に向かった。途中で堀川と合流し、何やらテキパキと指示を出しているところを見ると、こっちの指揮も執って欲しかったが、まあ、ここは主としての名目を保たねばならない。俺にも誰か手伝ってくれるやつはおらんか、と視線を彷徨わせたところで……



「お掃除ですか? はい!僕もお手伝いします!」

「うんうん、頑張ろうな〜秋田」

「はい主君!」


庭の紅葉の絨毯に目を輝かせていたところを――天使かな?――呼んだらすぐに応えてくれた秋田と一緒に掃除をすることにした。
小振りの箒と塵取りを渡してやり、二人で手分けしてまず、太刀連中が使っている大部屋から始める。
部屋に入り込んだと言っても此処はそれ程多くはなく、さほど苦労することはないだろう。


「紅葉って、こんなに綺麗なんですね、主君!」
「お、秋田もあまり紅葉を見たことが無いクチか?」
「いえ、遠くから見ていたことはありました。でも、手に持って、こんなに近くで見たことはないですから!」

なるほど、それもそうだ。紅葉を持つ秋田の手は、他ならない、俺が与えたものなのだから。
キラキラとした目で、部屋に落ちている紅葉を手に取っては見つめている。折角渡した箒も活用されないままだが、別に構わない。微笑ましいものだ。


「秋って、綺麗な季節ですね!僕、気に入っちゃいました!」
「…ふっ 秋田 それ、春の時にも同じようなことを言ってなかったか?」
「あ、あれ?そうでしたっけ…… で、でも、春も好きですよ!綺麗で、キラキラしてて、見ていて楽しいですもん!」


そんなに喜んでいる様子を見ていると、やはりカメラがあれば良かったなぁと思った。


「しかし、楽しそうにしている秋田にこんな事を言うのも酷だが、最近の冷え込みようと紅葉の散るスピードから言って、秋はすぐに終わって冬がやって来そうな気がするな。この感じだと」
「ええ…?そうなんですか?」


葉の茎を指で摘まんで、クルクルと弄びながら秋田はしょんぼりした表情を見せる。

けれど、それからすぐに顔を上げて


「でも、残念じゃないですよ。だって、また来年も、"秋"はやって来ますよね!」


――なんて満面な笑みでそんないじらしいことを言ってくれるんだ秋田は
そうだな、春夏秋冬は毎年きちんとやって来る。どれか一つが欠けることは決してないのだ。また来年も同じように季節が巡って来るだろう。そしてその度に、はしゃぐ刀たちを見ることが出来る。外の世界のすべてに、楽しそうにする秋田の笑顔も。


「ああ。来年もまた、同じように秋を迎えような、秋田」
「はい!」





掃除を終えた頃、秋田は一番形のよい 気に入った紅葉一枚を俺に見せてきた。何でも"今年の秋"の記念にしたいのだと言う。なにか綺麗に保存しておくことは出来ないかと訊かれ、俺はそれを栞にしてやることにした。押した紅葉を台紙に載せて、秋田の髪色と同じ色をしたリボンを括る。
完成した栞を俺から受け取った秋田は、「ありがとうございます、主君!」と言って大切そうに両手で包む栞を見て、また笑ったのだった。
そして俺は今度現代へ行った時に自分用のカメラをこっそり持ち運ぼうと堅く心に誓った。




prev / next