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陸奥守吉行


今日の陸奥守吉行の内番は畑で農作物の面倒を看ることだった。
そろそろ春になる時分なので、主(あるじ)は野菜の世話に特に力を入れているらしい。
皺の刻まれた厳つい顔が、「瑞々しい胡瓜が食べたい」などと言うので 我らが主の為に、と幼い藤四郎たちが張り切っている。勿論陸奥も同様だ。

「んっ……あ〜〜〜!! つっかれたぜよー!」

農作業用に着替えた着物は土で汚れてしまった。本日の洗濯係になった刀からは文句を言われそうだ。

広い屋敷の廊下をペタペタと歩き、目的の場所に来れば、目的の人物が近付いて来る陸奥に気が付いた。


「おお、陸奥か。内番が終わったのか?」
「勿論じゃ!ぼっちりやったがやき!」
「そうかそうか、ご苦労さん」


平時の顰めっ面が嘘のような笑顔で労ってくれる。それは、長時間の畑仕事の疲労も吹き飛ぶようである。陸奥守吉行――陸奥は、「へへっ」と照れくさそうに笑い、主人である審神者の隣に、少し距離を置いて腰掛けた。――先に審神者の膝を枕にして眠っている今剣がいたからだ。


「今は誰の手入れをやりゆうがで?」
「山姥切国広だ。手入れなんかしなくていい、放っておけと煩かったのをさっき漸く静かにさせられたとこでな」
「あ〜」

拭い紙で砂埃を払われている無言の刀が後ろめたさに沈んでいる気配が感じられた。きっと審神者にガツンと怒られでもしたんだろう。この人は己を卑下するような言葉を吐くことを許さない。しゃんとしろ、と言って、お前は俺が選んだ刀だぞ、と。

「がいに言うたらまたへこむがやない?」
「お前たちは立派な日本刀だろう。そんな事で逐一凹むな。刀匠が泣くぞ」
「いや、そう言う意味じゃないがやけど……ヘヘッ」
「? 何笑ってる陸奥」
「いや、おんしゃあも冗談とか言うがやと思ってのぉ!」
「言うぞ。俺はこう見えて茶目っ気のある人間だからな」
「もうよぉ理解しとるわ!うっはっはっは!」

「ん、ん〜…なに〜? うるさいよぉ…」
「おい、陸奥が喧しいから今剣が起きちまったじゃねぇか」
「おぉ起こしてしもうたか!すまんのぉ!」


勝手の方から「主さーん。昼餉の準備が整いましたよー」呼ぶ堀川国広の声が聞こえて来た。山姥切の手入れも丁度終わった。
審神者は「今行く!」と声をかけ、未だ笑い転げている陸奥の腹に蹴りを入れた。

「ほら、さっさと起きて動かねぇか陸奥」
「おお!任せちょき!」
「なにをだ、まったく」


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