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和泉守兼定


元々は一人きりで住んでいた屋敷だった。大きさばかりが取り得で、内には人間が住んでいるような温かみのない、物寂しい家屋、それが今ではどうだ。年恰好で言うならば息子、あるいは孫。大勢の人ならざる人たちに囲まれた大家族生活が、気が付けばこの屋敷に存在していた。
歴史改竄を目論む歴史修正主義者どもを打ち斃し、あるべき歴史を守るという拝命を賜ってはいるが、幾ら歴戦を潜り抜けてきた強き付喪神の刀たちと言えど、生活を共に過ごしてみればやはり感じられるのは残酷なまでの"人間味"である。

今朝もまた多くの付喪神たちが我が屋敷の門を潜り、力を貸してくれることを誓ってもらった。そこで浮上した問題は、寝具の不足だ。刀たちはこれまた要望や我侭の多い者たちばかりで、やれ羽毛がいいだの、掛け布団は3枚欲しいだの、と口やかましい。おかげで何枚も余分に布団を使用してしまっているのだ。長きに渡って蔵へと仕舞っていた分も出して来なければ、今朝来た新入りたちに床で眠ってもらう羽目になる。それは頂けないことだろう。早急に行動を開始しなければなるまい。






「…で、どうしてオレまでこんな雑用を任されなくちゃいけねぇんだ…」
「廊下で寝っ転んで暇そうにしていたじゃないか」
「あれは…………出来る刀ってのはペース配分するんだよ!さっきのは、束の間の休息ってやつで…」
「ほら毛布落とすぞちゃんと受け取れ」
「って、聞けよ! うわっ! バカ主、急に落としてくるヤツがあるか!」


何が束の間の休息だか、 助手である国広が忙しなく世話を焼いてくれているから暇そうにしていたから手伝いに借り出したのだ。「ちゃんと働かないと、夕餉の量を減らすぞ?」脅せば兼定はその端整な顔をこれでもかと歪め、「横暴だぞ!」と吠えた。大きな布団を両手で抱えている、その上に追加の敷布団を二組落とせば後ろによろめきながら重みに耐えている。


「だらしがないぞ兼定。それくらいも持てないような貧弱野郎か?」
「は、はぁ…!? 舐めんじゃねぇ!こんくらい余裕に決まってんだろ!」
「そうか」
「 おいコラぁ!余計増やそうとすんな!」
「勘違いするな、これは俺が持つ分だ」


一先ず、兼定が持っている分と自分が持っている分で暫くは事足りるだろう。いや、足りて貰わなくては困る。布団を買い足さなければならなくなる。
埃臭い蔵の戸を開き、外に出た。布団によって視界の大部分が遮られている兼定は前が見えず覚束無い足取りで蔵の敷居を跨いだ。いや全く、面白い光景だ。こんな事を口にすれば烈火のような怒りが飛んで来るだろう。なのでこの言葉は腹の中に飲み込んで、代わりにありったけの労いの声をかける。


「いやぁ、助かったぞ兼定。有難う」
「へっ……なーに、こんくらい、強くてカッコいい和泉守兼定様にかかりゃあ朝飯前だぜ…」
「ああ、さすがだ。カッコいいぞ兼定〜」
「と、当然だってんだ」

兼定は、意外にも 褒めれば照れる。
何度も受け取ったであろう陳腐な賛美にも、口角を僅かに上げ嬉しそうにしている。威圧感のある美丈夫も、こうして見れば本当にただの人間のようだ。――およそ人らしからぬ神力を持った審神者のものである自分が言うのも妙な話ではあるのだが。


「このお礼に、夕餉のおかずを一品追加してやろう」
「おっ!そうこなくっちゃなぁ!あ〜内番で手合わせしたから腹減ってんだわ」


そう言って兼定は抱えている布団に顔を摺り寄せ空腹を訴えた。

屋敷の母屋へと戻る二人の足取りは軽い。


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