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加州清光


大和守安定 視点


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妙に寝付けない夜となってしまった。
日中、安土桃山時代の関ヶ原で新しい仲間たちの戦力底上げに引率していたせいで、気が昂ぶっているのかも知れない。
同室の者達は設えられた布団の上で大鼾だ。なるべく起こさないようにして部屋の外に出る。まだ冬が続く夜の寒さは凍てつくようだ。薄暗い屋敷の廊下を音を立てずに歩く。裸足である為、足にかかる木板の冷たさが心地好く感じられた。


「………あれ?  加州清光?」

「………ん? ああ、お前か。何やってんのさ」
「それはこちらの台詞さ。こんな夜中にこんな所で何やってるんだよ」


広い庭の池を見るように、縁側で一人腰掛けていたのは加州清光だった。しかし状況の物悲しさとは裏腹に、彼の表情には喜色が溢れている。大和守安定に指摘され必死に何でもない風を装うとしているが、抑え切れない感情に口角がムズムズと動いていた。


「いやぁ…ちょっと、さ…」
「…そう言えば君、別の戦場に出陣してたよね?負傷して帰還してきたって聞いたけど」
「!」


また加州清光の口がムズムズと動いている。遂には両手で顔を覆ってしまった。髪の隙間から覗いて見える耳が、真っ赤だ。間違いなく夜の寒さのせいではない。
曲がりなりにも同じ主に仕えていた仲間として、その加州清光の姿に安定は薄気味悪ささえ感じた。


「……何があったのさ。話してみてよ」

気は進まないが、気にならないわけではない。
話してみろと促せば、加州清光は、その場で勢いよく立ち上がって拳を握った。猛烈な勢いで。


「主さまが、…俺の服を縫い繕ってくださったんだよ…!!」

「……へ?」

服を? だから今もずっと、大事そうに上着を手で押さえていたのか?

「負傷した後に手入部屋に担ぎ込まれてさぁ、そこで刀に戻って手入れされてた俺の許に主さまが訪ねて来て「服に穴が開いてるじゃないか」って…」
「…で?」
「そうしたらどっかから裁縫道具取り出して、その場でチクチク縫い出してんの…!もう、もうさぁ…!」


「主さまへの愛しさで俺刀状態のままどうにかなっちゃうかと思ったもんー!!」
酷く喧しい。何遍も言ったように、今は真夜中で、多くの者が夢の中にいる。そんな大きな声を上げてしまっては目覚めてしまう者も出てくるだろう。
周りが見えていないのか見えているのか、しかしそれでも抑え切れない感情の衝動に負けたのか。加州清光は尚も「幸せ…幸せ……俺こんなに愛されるのとかなくてしあわせすぎてどうしよう」とうわ言のように繰り返している。話、聞くんじゃなかった、と安定は一歩後ずさった。決して、お前ばっかり羨ましいとは思っていない。主に愛されたいと強く願っている加州清光が、彼の欲のまま主に大切にされているという事実が羨ましいというわけでは全くないのだ。
とりあえず



「………加州清光、…首落ちて死ね…!」
「はぁ!? なによ、俺とやる気ってこと!?」


騒ぎを聞き駆けつけた審神者にどやされるまで、彼らの小競り合いは冬の夜半に響いていた。


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