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へし切長谷部


・新参者へし切長谷部さんとデキる男オーラを感じて対抗心メラメラな加州清光


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「主 今日は何をしましょうか? 気に入らぬ家臣の手打ち?それとも、歯向かう寺社の焼き討ち?」

「渋めのお茶を一杯淹れてきてくれ!」

「………主命とあらば」
「温度は温めで頼む」
「…………」










お茶の葉はどこに仕舞っていただろう。
この屋敷に来てまだ日は浅い。勝手に立ったことがない為、どの戸棚に目的のものがあるか分からない。さてどうするか。


「 何ぼうっとやってんのさ」

「ああお前は…」
「加州清光でーす。 目的のものって、これ?」
「あ…」


そこの棚に入っていたのか。丸い茶葉缶を手に取った清光に礼を言って缶を受け取ろうとすれば、手を引っ込められてしまう。


「…何を?」
「主様に頼まれたんでしょ、お茶淹れてって。君にばっかりいい所見せるチャンスあげないからね。俺がとびっきり美味しいのを淹れて持ってってあげます〜」


そう言うと清光はテキパキと急須や湯のみを用意して行く。
あんな爪をしていてよくもあんな繊細にかつ機敏に動けるものだ。
あっと言う間にお茶が淹れられた。温度もぬるめ、清光は「どう?」と得意げである。


「まあ俺にかかればこのくらいお茶の子さいさいなんだよね〜」
「………なら俺は、主様が食べるお茶請けを作るか」
「え゛ なにそれそんなの作れんの?ずるいんだけど!」
「…ずるくなんかない。主様に喜んでもらう為だ」
「ぐぬぬぬ……それ言われたら俺が強く出れないと知ってたの…?」


どうだ、 なんて思ったのは、いつぶりだろうか。
誰かの為に誰かと張り合うなんて以前の主のもとではしなかった。そも、こうして人間の身体のようなものを手に入れるなんて思いもよらない話で、自分はあの審神者の許で何をすればいいのか分からなかった。ただ刀剣として、また誰かをただ斬って行くだけになるのだと。


「………加州清光」
「なにさ」

「お前は何か別の用があって勝手に来たのではないのか?」
「 ――あ!!そうだ、今日の内番で使う桶の補充しようと思ってたんだった!」
「ではさっさと持ち場に戻れ。与えられた職務の怠慢は許さんぞ」
「なんなんだよもう!」


急かされ、ぶつくさと文句を言って裏口から外の畑へと桶を持って出て行く清光の背を見送り、彼が卓上に置いて行ったお茶を盆に乗せてさあ主さまの許へ。お茶請けを作るのは、もう少し勝手の内情をよく知ってからでも構わないだろう。

どうやらここは、昔生きて来た場所よりもなだらかに時が過ぎて行くようだ。



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