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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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燭台切光忠






「僕がいないからって、適当な服を着てたら駄目だよ」


遠征任務の隊長時、燭台切はいつもそう釘を刺してから出立する。それが半日かかる遠征の時も、たった10分で終えられる遠征の時にもだ。皆を各時代に送り届ける為に霊力を消費させてるときに聞くと何とも力が抜ける台詞である。

燭台切は皆の身の回りの世話をするのが好きな奴だ。端整な出たちに似合わず献身的な性格をしている。元は刀剣であったはずなのに料理まで得意とは恐れ入った。あいつの作る味噌汁はとても美味いので大好きだ。けど、俺の服装にまであれこれと口を出してくるのはどうなのか。オカン属性もここまで来ると吃驚だ。




「でも審神者服ってずっと着てると肩凝るんだよな…」

"享保の大飢饉"が発生した時代へと出立して行った燭台切率いる第二部隊を見送って自室へと戻った後、そんなことをぼやいてみる。

刀剣たちが内番時に着用するような身軽な格好で俺も過ごしていたいのだが、燭台切の美的感覚が良しとしないのか、「駄目だよ主!そんな変な格好してゴロゴロするなんて!ださい!」とボロクソに言ってくれる。そりゃあいつもお洒落な燭台切からしてみれば我慢ならないことなのかも知れないが、俺だって


「楽な服着てゴロゴロしたいぞ……」


「主、ご希望の召し物を用意して参りました」


「どうしてお前は時たまそう唐突に部屋に現れる」
「主の御心にいつ何時も沿うのが俺の願いですので」
「おう、そういう事ならいつもありがとな」
「! ありがたき幸せ!」

頭を撫でてやれば嬉しそうに笑うのはよい事だ。
長谷部の髪からは仄かに土の匂いがした。畑仕事に行っていた足で此処へ来たのだろう。

「それで? 手に持ってるのは、まさか」
「はい。"ジャージ"でございます」
「おお…!いつも長谷部が内番時に身につけているじゃあじか…!」

受け取ってみれば、確かに。この何とも言えない形状の軽い服は、ジャージ!

「俺の予備で申し訳御座いませんが、主が欲するのであれば献上致します」
「なに、本当か!? ――もう胸のところに俺の名前を刺繍してあるだと…!」
「気に入って頂けると有り難いのですが…」
「いやいや、嬉しいぞ!どうれ、早速着てみるとするか!燭台切のいぬ間にな!」


着ていた物を脱ぎ、早速ジャージの袖に腕を通す。すごい


「なんだこの軽さは…!すごく動きやすいぞ!」
「着苦しさを与えない軽い材質なのです。お気に召していただけましたか?」
「召した!畳みに寝転んでも皺を気にしないでいいとか最高だな!」

そのまま自室の畳の上を右にゴロゴロ、左にゴロゴロ。「然様で」と言って見守っている長谷部の膝にたまにぶつかってみたり文机の脚に当たってみたり、とにかくジャージってすごい。こんな勢いで部屋の中を寝転がったことない

「最高だ長谷部。最高だよこれ」
「良う御座いました」
「どうれ、このままいっちょ燭台切のいない間に昼寝でも…」


「 僕が、なんだって? 主。」


「しょ、しょ、燭台切ー!!? え、もう1時間半経ってたのか!?おかえり!!」
「た、だ、い、ま! じゃ、ないよね!? ちょっと何て格好して過ごしてるのさ!審神者として、僕らの主としてそんな格好かっこよくないよ!」

長谷部がすごく微妙な顔して燭台切の言葉聞いてるんだけど、おい気にするな長谷部、お前のジャージ姿はとっても似合ってるから、ただちょっと俺が着るとダサいかな、って言うだけの話だから

「そうは言うけど燭台切だって内番時はジャージみたいなのを着てるじゃないか!」
「僕はいいの!格好ついてるから!」
「…ん?お前って実はそういうことサラっと言っちゃうや、」
「ほら早く起き上がって服着替えて! まったく、僕がいないからって変な格好しないでっていつも言ってるのに…!」


やめてー!お母さんそれ以上鬼にならんといてー!
「お、おい長谷部!燭台切を止めてくれ!」
しかし長谷部は何故かとても神妙な顔で、
「……なるほど…主の御心に全て沿うのが優れた部下ではないと言うことか……」
一人で頷いていてちっとも動く気配がない。おいこらへし切長谷部!


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