とうらぶ | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
大倶利伽羅


とんでもないものを見つけてしまった。


どれほどとんでもないかと言うと裏山でツチノコが見つかるとか、同田貫が皆に隠れてこっそり甘味を山ほど食ってる場面とか、秋田藤四郎が陰で「主君のさぁ、脇が臭くて同衾とかやってらんねーって感じなんだよなぁ」と言っている場面を見たような―――いやそれは絶対に全く誓ってありえない秋田は俺の癒しだだから絶対にそんなことない―――ともかくそれらに匹敵するぐらい珍しいものを俺は今見ている。


倶利伽羅の睫毛、縁まで茶色だー



真っ先に思ったことがまずそれだ。縁側の上で器用に姿勢を保ちながら眠っている倶利伽羅の膝先まで接近出来ている。普段なら10メートル離れていても「群れてくるな」と言って他人との接触を煩わしがる倶利伽羅の、こんな、こんなところまで!

「お、おぉ〜」

こんのすけから頼まれて審神者仕事の為の道具を取りに離れに来たことも忘れ、俺はそんな間抜けな声を上げていた。さすがに今ので倶利伽羅も目が覚めたか?と思ったが、まだ何の反応も返ってこない。規則正しい寝息が聞こえてくるばっかりだ。まじか、と言いたくなってきた。本当にこいつ、なんで此処まで眠っている?普段のお前なら、もうとっくに起きて「どうしてお前がここにいる!離れろ!」ぐらいは言いそうなものなのに。ちくしょう、おかげでここを離れがたいではないか。

貴重すぎる機会だ。いや、貴重だからと言ってカメラに寝顔を収めようとか、寝顔にラクガキをしてやろうとは微塵も思ってはいないし、これといってどうこうするつもりもない。だが見てはいたい。目を覚ました時に、倶利伽羅がどのような反応をするのかが気になる、とも言うだろう。


こうやってマジマジと倶利伽羅の顔を見るのでさえ初めてだった。
好奇心が勝った。試しに、徐々に顔を近づけてみる。浅黒い肌には染みも皺もニキビすらもない。元の刀を象徴するかのように切れ長な面立ち。男の俺でも思わず嫉妬するぐらい健康的なお肌だな、女が知れば羨ましがりそうだ。


「まあそれすらもお前は鬱陶しがるんだろうが」


しかねない。野郎所帯のむさ苦しい所で良かったな。刀であるお前には分からないだろうが、人間の女と言うのはしち面倒くさい生き物なんだぞ


「……いや、だが本当に綺麗な顔だな」

まだ言ってみる。段々と気分も高揚してきたような気もする。

「女的な綺麗と言うんではないな。怜悧な美しさと言うのか…気迫すら感じられる美ってやつか?」

自分がこっ恥ずかしいことを言っている自覚はある。だがそれでも倶利伽羅が起きないのをいい事に、口は止まらない。

「他の奴らも揃いも揃って美形ばかりで、平々凡々な顔つきの俺は嫌になるな。まあ毎日あれやこれと忙しいから劣等感を感じる暇さえないが…。うーん、まあ、あれだな!一日だけ誰かの顔になれるなら、倶利伽羅の顔がいいな」

結論に至りはしたが、こんなことを考えたかったわけじゃなかった。結局俺は何を言いたかったんだ?倶利伽羅の綺麗な顔を見てると忘れてしまった。……端的に言えば、見とれていたのかも知れない。


「ようし、よし」


もうこれ以上お邪魔してはならんだろう。
最後に、陽の光を浴びてポカポカとした頭を ポンと撫でる。どうだ、肉体接触したぞ、起きるか?  なんの反応もない。やれやれ、連日の疲れが溜まっていて、熟睡しているようだ。寝息や呼吸にも乱れは無い。



「主さまー!どこへいらっしゃるんですかー?こんのすけが探しておりますよー!」


母屋の方から秋田が呼ぶ声がした。 ああ、すっかり忘れていた! 今行くともマイエンジェル秋田ー!



































「 なん、 だっ、てん だよ…!」


大倶利伽羅はすぐさま後悔した。
らしくのない好奇心など、出してみるものではなかった。
寝たフリをして、主がどのような行動や反応を起こすのかを知りたがった数刻前の己を恨む。

顔の熱が引かない。言い知れぬ気持ちが胸の内で渦巻き、気持ちが悪い。
だがそれは決して不愉快などではなく、余計に大倶利伽羅を悩ませてしまっていた。



prev / next