とうらぶ | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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一期一振


!3周年企画作品

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「主、何を熱心にご覧になっているのです?」

「おお、一期か。 何って、"審神者意識アンケート調査書"だよ」
「は?」

分かる。素っ頓狂な声を上げた一期の反応はとてもよく理解できる。俺も最初にこの書類を見た時は同様に「は?」と声が出たものだ。けど書かれているタイトルは変わらない。政府から今朝方送られてきた。

「何故、そのようなものが……」
「先々月だったかに、大量に新任の審神者が実践に投入されたろ。多分そいつら向けなんだろう。全員が対象だからって、俺はもう何年この仕事やってると思ってんだか。だって見てみよろこの第一項。"審神者になってから困ったことはありませんか?"ってさ。そんなの、一つしかないだろ。女との出会いがなくなったことだろ!」
「ははは、御戯れを主」
「おい一期どういう意味だそりゃ」

胸に手をあてて優雅に笑う一期の姿は、それはそれは爽やかな王子様に見えるのだろう。女子審神者が見れば頬を染めるのかも知れない。だが残念、俺はおっさんだ。キラキラパウダーなんてまやかしが背後に見えた気がしたが気のせいだ。

「そんなことより用紙の記入だ。邪魔するなよ一期」
「心外ですな」
「どうだか。えーと、なになに……"就任後、お気に入りの刀剣はいますか"……?」
「おや、それは此方も是非とも知りたいところ」
「こんなアンケート取って、今後にどう反映する気なんだ……?」

不可解にしか思えない質問だ。"お気に入り"の刀剣とは、広義が過ぎる。それにこんなの、一概に決めてしまってもしそれが刀剣たちに知られてしまえば忠義に影響するかも知れないだろう。何なんだ、一体。

「こういうのは女の審神者に訊けばいいんだ」
「そのような事はないでしょう。知りたい物たちはたくさんいるのでは?」
「んー……じゃあ一期って書いとくか?」
「えっ」

おい、どうしてそこでそんなに真っ赤になる。急にドギマギした風になるな。冗談だって言い辛い雰囲気になったろうが。

「こんなおっさんに言われたくらいで、そんなに喜ぶなよな…」
「何を仰るのです!主にそう言われて喜ばぬ刀はいないでしょう」
「はぁ…そういうものか? 長年審神者やってても、刀の感性ってのはイマイチ把握できないな」

その後も、用紙の質問は続いた。そこで気がついたのだが、質問の内容がやけに細やかだ。具体的に言えば日々の暮らしに関する困りごとや、刀剣たちから不愉快な気持ちにさせられたことはないか、戦いに身を投じる上でつらいことはなかったか、刀剣破壊を経験したか、また経験したときに精神への負担は如何だったか、等など……
おそらく、これは女の審神者が前提とされた内容なのかも知れない。
それは致し方ないことだ。何せ現在、実践投入されている審神者の性別は、大多数が女だ。男の審神者は寧ろ珍奇な部類になる。女が審神者に選ばれる理由は諸説あるが、男が審神者に選ばれる理由は少ない。

「……回答する気がなくなるな」
「しかし重要な書面なのでは…」
「分かってるよ」

一期にせっつかれながら、何とか記入欄を埋めていく。だいぶ適当になって来たところで、ようやく終盤の設問に差し掛かる。

「やっと終われる……」
「主。今し方、こんのすけ殿がこちらを渡して来られましたが」
「なに?」
「"審神者アンケート意識調査書"で書かれた他の審神者たちの内容まとめのようですな」
「え?もう結果出てんの? 俺、今日受け取ったぞコレ」
「……どうやら、その書面は、一月ほど前に配布されたようですが」
「……………おい政府!!まーた俺のとこの本丸の時間軸計算してなかったな!ここは他の軸よりも約600時間ズレてるって言ってんだろうが!」

しかし一期に怒っても仕方が無い。色んな時間軸に本丸を構えている審神者が多いのは分かるが、いい加減キッチリしてもらいたい。
じゃあ俺が今まで記入していたこれは、全く無意味だということだ。やるんじゃなかった。

「まあでも一応まとめも見るか。えー、どれどれ………お、"お気に入りの刀剣"のところで一期の名前が結構多く上がってるぞ」
「それは光栄ですな」
「ご満悦そうだな」
「主にも選んでいただきましたので」
「言ってろ。で、理由…………"御伽噺の中の王子様みたいだから"ぁ……?ハァ〜?カユッ!!」

サブイボが立った。すごい。どこの本丸の女だこんなメルヘンなことを言ったのは。いや、女だよな…?まさか男が言ったんじゃないだろうな…?

「おうおう……一期王子にお城から連れ去ってもらえな…」
「? どういう意味でしょう?」
「どうって……そのまんまだけど」
「…ああ、"駆け落ち"なる物のことですな」
「? 違うんじゃないかそれは…、」

「主、お手をどうぞ。――私と共に生きてくださいますか?」



「……この差し出された手は? 叩けばいい?」
「重ねてくださればよろしい」
「……ほい」
「! ありがとうございます」
「……満足したか?」
「ええ。冗談のつもりでした。まさか乗っていただけるとは」
「…いや、ノったって言うか乗せただけっていうか……」


……こんなにふざける一期は珍しい。どうしたんだろうか。やはり、さっき自分が選ばれたことが余程嬉しかったのか。

ならば仕方ない。もう少しだけノってやることにしよう。


「……俺の為に、その地位と弟たちを棄てて生きてくれますか?」


「弟たちを棄てるような事は絶対にありえませぬな」
「ハハ、そう言うと思ってた」




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