千年先の雨のにおいがした | ナノ
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -

07

異様な報告が飛び込んで来たのは、日付が跨ぐかどうかといった夜遅い時分にであった。

それよりも先に筆頭リーダーの心臓を痛めつけていたのは、セルレギオス狩猟クエストへ出発した我らの団ハンターから、未だ任務達成の報告と帰還の連絡が入らないことだった。
あの者の実力からして、考えられないほど遅い。ハンター本人の帰還は時間が掛かるにしろ、任務の達成の連絡は大抵は観測班から逸早く届けられるものだ。それすらもない。

不安で一杯になりながら、寝付けていなかった筆頭リーダーが、ようやく現れたギルドの観測員の慌しい足音に気付いて大老殿に足を踏み入れたのと、大長老に向けて観測員が驚愕の報告を口から発するのとはほぼ同時であった。



「  旧砂漠エリアを担当していたネコタクメンバーと、気球観測部隊の死体が、相次いで発見されました!!」



「なに!?」


報告を受けた大長老よりも先に声を荒げた筆頭リーダーを「落ち着くのじゃ、若きハンターよ」と宥めた大長老は険しい表情を隠しきれていない。
しかしこちらもそうは行かない。
半ば観測員に詰め寄るようにして、「それはどういう事だ!旧砂漠エリアに向かっていた……ハンター全諸君らの安否のほどは!」 問われた観測員も観測結果以外のことについては言及しようもない。旧砂漠エリアを担当していた観測員たちが全滅していたため、入って来る情報が一切ないという不測の事態の対処すらまだ出来ていないのだ。


――旧砂漠エリアにてクエストを受けていたであろうどのようなハンター達のことよりも、君のことだけが気にかかる。


「……いまこの時、旧砂漠にて何かが起きていることは違えようもない事実だろうな」


大老殿の入り口には、騒ぎを聞いて駆けつけた書記官殿が立っていた。入り口で追い返されなかったのだろうか、いや今はそんなことを気にしていられない。

団長の言葉に深く頷いた大長老は、手にしていた太刀をダンッと強く床に打ち、


「急ぎギルドに電報を。当該地域に調査隊を派遣するのだ。ハンター諸氏らの協力も仰ごう。旧砂漠に今"なにが"おるのか分からぬ」
「増援部隊ということか。どうやら我らの団からは手が貸せないようだ。……いや、まだ我らにもやれることはあるな。考えを練ってこよう」



「………私も、」

「…む?」
「どうしたんだ、筆頭リーダー」


「どうか、私も派遣部隊の一員に加えていただきたい!」












激痛に悶絶する嘶きと共に、大量の鮮血が、斬りつけたセルレギオスの左目から噴出する。
 今のは、いったいなんだ。
己の手に握った武器から見たこともない軌跡が迸ったのは、見間違いではない。内部に貯蔵してある瓶内のエネルギーが一斉に放出されたようで、今は空だ。
 何であれ、狂竜セルレギオスに一矢報いれたと見ていいだろう。
勢いを殺いだ今、追撃を喰らわせるべく懐に潜り込み、刃の裏で強く顎を打つ。鞭のように撓った尾の一撃、二撃を盾で受け止め、吹っ飛ばされながらも体勢を整える。オトモが最後に吹いてくれた回復笛の恩恵は、多大にあった。全調子とは程遠いが、余裕が生まれた。

 討伐は、はっきり言って難しいだろう。
 捕獲、それも駄目だ、ポーチの中にあった道具が一式ない。
 離脱、試みはするが、それもどうか。

何にせよ、ここで死ぬことだけは真っ平ごめんである。


「――ウ、らァ、あアアア!」

斧で左翼を叩き折る。効果的な一打になってくれたようで、狂竜セルレギオスはもんどり打って砂原の崖を転がっていく。
ちょうど流砂地帯となっていた、砂の流れが狂竜セルレギオスの巨躯を下へ下へと押しやって行く。上手く立てず、砂の中をもがきながら、狂竜セルレギオスが崖下へと落ちる。旧砂漠エリアに幾つかある崖地点の中でも、ここはまだ低い方で全長1キロもないだろう。一番下に落下したとしても、あの身体ならば大したダメージはない。左翼は叩き割ったが、すぐに体勢を立てて飛び上がってくるはずだ、どうする、


「 ――ッ!!?」


急に、ハンターの体が宙に浮いた。


「な、なん――っ、お、まえ、」


二本の鉤爪で、ハンターの体を鷲掴みにして飛び去ろうとしているのは、セルレギオスだった。
今しがた崖下に落下した狂竜セルレギオスではなく、ずっと衰弱していた方のセルレギオス。よたよたとした様子で、それでも高速で眼下に砂原を置き、何処かへと向かっている。


「お、下ろせ!何をする!?」


人間の言葉が分かるとも思えなかったが、反射的にそう言うしかなかった。拘束を強引に振り解こうとしたが、もうすでに上空何百メートルかと言った地点にまで上昇していることに気付き、ここで落ちれば一溜まりもない、しかし、何故、あれほど衰弱していた様子だったくせに、何故今こうして動けている?


「俺をどこへやるつもりだ、くそ…っ!」


もし巣に持ち帰り俺を食おうとしているようであれば、地に足がついた瞬間がお前の最後だ。



セルレギオスは飛ぶ。
ぐんぐん、砂原を抜け、オアシスを飛び越え、岩肌の露出した山地の方角へと。