06
まずい。
ハンター一人ならば、まだ戦える。
手をもがれ、武器が持てなくなるまでは、死ぬ気で戦い抜いてみせる。それだけの強靭さと、意思の強さを兼ね備えている。
しかし今は、大怪我を負っている大事なオトモがいる。
これ以上彼に無茶はさせられない。
狂竜セルレギオスの意識がセルレギオスに向かっていた間にここから退避出来ていたら良かったのだが、どちらにせよオトモは自力で動けない。
「相棒、しっかりしろ。俺が抱えるから、一旦キャンプまで戻るぞ」
「にゃ…」
そろそろ支給ボックスに追加の支給品が届けられても良い頃だ。ポーチを捜索している時間も余裕などもない現状、支給品とキャンプのベッドだけが回復手段となる。
「……だんにゃさん……」
「! どうし、」
ボロボロの毛並みに包まれた小さな手が、そっとハンターの頬に寄せられた。
それは、ゾッとするほど つめたく、
「………だんにゃさん、怪我してるのかニャ……? いま……かいふく笛を………」
「ま、待て! 大丈夫だ、必要ない!動くな、傷口が…!」
ハンターの腕の中に納まったまま、自身の腰から下げていた小さな角笛を取り出すと、薄く開かれた口で咥えた。
弱々しいがしっかりとした音色が、ハンターと、辺りを 包む。
額から流れていた血が止まった。力の入らなかった足がまた動き出す。
そして、霞んでいた視界が鮮明になり、ハンターは、砂埃を立たせながら此方へと猛突進してきていた狂竜セルレギオスの姿を捉えてしまったのだ。
「…!」
察知したときには、もう遅い。
何とか突進を避けようと、ハンターは脇に向かって跳ねるように転がった。
全てがスローモーションになったかのように成されて行く。
受け身を取りつつ、ゴロゴロと砂地を転がって行き、その腕に抱いていた筈のオトモが、狂竜セルレギオスの直線上に取り残されている光景を見ながら。
あっと思った時には、オトモの小さな身体が、巨大なセルレギオスの突進を受け、空中へと高く舞い上がっていた。
待ってくれ、
やめてくれ
ゆるゆると虚空へと伸ばされた手の先で、
体勢を反転させたセルレギオスがその大きな嘴を開き、一口で アイルーの子を 丸呑みにした。
――旦那さん!
「…ぅ、あ、あああ、あああああああああああああああああああああああああアアアアあああああああああああああああああああああああああああああアアアアあああああああアアアアアアあ!!!」
我を忘れ、無我夢中で振り上げた武器――チャージアックスは、剣先に眩いオーラを放ちながら、大きな衝撃を伴って狂竜セルレギオスの頭を薙ぎ払った。