03
「お前さんは心配性だったのだなァ。 まあ 我らの団ハンターに対してのみのようだがな!」
先程の筆頭リーダーの、ハンターを慮る様子を挙げて笑った団長の言葉にも、筆頭リーダーは固い表情のまま頷くだけだった。いつも礼儀の正しい彼には珍しいことだ。それ程までに我らの団ハンターのことが心配なのか、ハンターが出立した後の出立ゲートの前から身動ぎさえしていないのが良い例か。
「…クエストに同行したかった、そんな顔をしているな」
「! いえ……あ、いや、その……、……」
少しの沈黙の後、小さく頷いた。G級の証明を持っていないのがこれほど歯痒く感じたのは初めてだ、と。
その様子は鬼気迫るものがあった。たまらず団長は声をかける。帽子を深く被りなおし、自身も出立ゲートへと視線を転じながら。
「…こう言っちゃあ何だが、我らの団ハンターは強い。並みのハンターよりも上なんじゃないかと俺は思っている。」
「理解しています。あの者の強さと、逞しさは、私も。 ですが、」
だからです。 筆頭リーダーはギリッと音がしそうなぐらい力強く拳を握り締める。
「力をつければ、それだけ多くの賞賛を手に入れます。けど、それに比例して彼への注目も大きくなる。注目が大きくなれば、多くの者が彼を頼るでしょう。それが私は、おそろしいのです。頼る者たちは数多い、しかし彼はただ一人しかいない。休息も満足に摂れていない彼がいつか、―――」
その先の言葉を 筆頭リーダーは継がなかった。
とても、継げなかったのだろう。
口元が僅かに震えているのを見逃しはしない。それと、目元に僅かな朱が浮かんでいることも。
筆頭リーダーのその様子は、まるで ハンターのことを 慕っているようでさえあった。
いまは姿の見えない彼のことを どうにか瞼の裏に描こうとしているのだろうか。
先程、団長は「母親か、女房のようだ」と筆頭リーダーを揶揄したが、それはあながち冗談でもなかったと言うことだ。
姿が見えなければ、不安になるのか
彼に何かがあれば、泣いてしまうのか
心配だけではない感情で、彼の帰還を待つのか
そのような情念 それでは余りにも 辛いのではないか。
「………我らの団ハンターの身に、何かが起きてから行動を起こすのでは遅い」
「え…?」
「何かあればすぐに駆けつけてやれるよう、我らも準備は万全にしておこうじゃないか。だろう?筆頭リーダー殿」
「…! ええ、そうですね書記官殿」
やれやれ。刹那も惜しいと言った様子で準備をしに向かった筆頭リーダーの背中を見送りながら、団長は苦笑を漏らす。
団長が知っていた筆頭リーダーと呼ばれる男は、もういないのかも知れない。
我らが見ている筆頭リーダーは、きっと"彼"が生んで育て上げたようだ。