千年先の雨のにおいがした | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

補完ストーリー3

「獰猛化ゴア・マガラ、ですか」
「そうだ」

ランサーは一つ大きく頷いたあと、手元に配った資料に目を通すよう促した。
指示を受けて資料の文字や図を事細かに確認していたリーダーは苦い表情を浮かべる。

「以前ゴア・マガラの存在が確認され討伐が成功してからというもの、別個体のゴア・マガラの発見が多くなっていたというところに来て"獰猛化"とは…」
「まだまだ調査が必要なモンスターだからね。今回は合同任務であると訊いているかな?」
「ええ。龍歴院のハンターと、でしたね」
「そう。我々は再び4人のチームで動くが、龍歴院のハンターとも協力して取り組むようだ」

ギルドハンター達の間でもかなり有名な噂が流れていた。

しばらく前から龍歴院に、いたく腕の立つハンターが着任したらしい。

その者は元々ハンターズギルドに所属しており、ギルドの紹介で龍歴院に移動することになった。
数年前までハンターズギルドに所属していた際は目立った功績は挙げていない人物だったと言われているが、近年では龍歴院を拠点にベルナ村、ココット村、ユクモ村など各地で様々な結果を残している優秀なハンターであるらしい。

多忙極まる中で小耳に挟んだ程度の話でしかそのハンターのことを訊いていなかったリーダーは「まずは直接会ってみないことには何とも」と言ってそこで話を打ち切った。

「ベルナ村への出立はまた追って連絡があるそうだ。それまでに準備を整えておこう」

ランサーは朗々とした声で、更に続ける。

「今度こそ、"彼"の手がかりが何か見つかるといいね」
「…………ええ」

 声音も口ぶりも落ちてはいるが、眼光は全く衰えていない。

"彼"が行方不明となったあの日から、様々なハンターズギルドからの極秘任務を数多くこなしながらも捜索を続けている身に、また一つ "獰猛化ゴア・マガラ"という悩みの種が振りかかってしまったことを憐れに思ってしまう。
 いつか、何もかもが落ち着いたときに、リーダーはどこかで静養を取るべきだと考えながら。



※※※




――結果から言って、獰猛化ゴア・マガラの討伐は成功に終わった。
噂に名高い龍歴院ハンターの活躍は眼を見張るものがあり、単独でゴア・マガラの捜索に向かっていた彼が狩猟成功したという報告が入った時には、あのリーダーでさえホッと胸を撫で下ろしたものだ。
龍歴院ハンターの前では終始いつものしかめっ面だったけれど、内心では心配をしていたのだろう。
 なにせ、龍歴院のハンターは、どことなく"あの人"に似ていた。



「――こんにちは、筆頭ガンナー殿、筆頭リーダー殿」

「 あら、こんにちはハンターさん」
「………君か」

噂をすればなんとやら、クエスト帰りらしき様相の龍歴院ハンターが通りがかる。
兜を外した状態で、丁寧に挨拶をする姿は様になっており好感が持てる。物腰も柔らかく、いつでも敬語を崩さない姿勢の龍歴院ハンターは、一部の女性ハンター達からも一定の人気を得ていると聞く。彼と接する者達は口をそろえて「あのハンターさんは良い人だよ」と言った。

そんな人気者な龍歴院のハンター相手にでさえ、隣に立つぶっきら棒な兄弟弟子はしかめっ面のままジッとハンターさんの顔を見ていたかと思うと、ぽつりと零す。

「……そう、君に 言っておきたいことがある。君は……」

 とある言葉を続けようとして、そして

「………いや、いい。君には関わりなきことだ」

 結局何も告げずに、去って行ってしまうのだ。



「……私は、筆頭リーダー殿に嫌われているのでしょうか?」
「フフ、そんなことないわよ」

そのせいで龍歴院ハンターが不安そうにしている姿を見せてやりたいほどだ。

「筆頭リーダー殿は私に何か問いかけようとしていませんか?」
「そうかも知れないわね」
「その内容を、貴女はご存知ではない?」
「気になる?」
「はい。何か思い悩んでいるご様子の筆頭リーダー殿の言を聞けば、何か私にも手をお貸しできることがあるやも知れませんし」


 とても真っ直ぐな言葉と目だ。
 赤い目が、煌々と輝きを湛えている。
 それは――その目の色は―――


「……貴方のそういうところが、気になるんでしょうね」
「え? 私の、どこがですか?」
「――恐らくだけれど、リーダーはこう伝えたいんだと思うわ。
『君は……、"我らの団ハンターを知っているか?"って」


行方不明となっている我らの団ハンターと、この龍歴院ハンターは、贔屓目を抜きにしても、よく似ている。
髪の色、目の色、肌の色、そして顔の造詣や、雰囲気、人となり。挙げればもっと詳細に述べられそうだ。
これは、ベルナ村を訪れ龍歴院ハンターと顔を合わせた初日から、リーダー達と話していたことだ。
聞けば、別件で同時期にベルナ村を訪れていた我らの団団長もそれに近い事を感じていたらしい。
そう、龍歴院のハンターは、ある一部の人間たちの間では別の意味で"注目人物"だった。

"彼の家族ではないか"

誰かが言った。誰もがそれを考えただろう。しかし我らの団ハンターは自分の家族や生まれ故郷の話を団長にもリーダーにも、誰にもしていない。
確かめようと言えば、龍歴院ハンターに直接窺うことだけだった。

しかし龍歴院ハンターは表情を曇らせて、申し訳無さそうに頭を下げた。

「……色んな方々からのお話には伺っておりました。ですがそれ以上の詳しいことは……。 その方が、どうかされたのでしょうか?」

その程度の認識しかないと断っているのだろう。しかしやはり気になるのか、ハンターは更に言葉を重ねてきた。

筆頭ガンナーは背後をチラリと振り返る。ここから少し離れたところで、我らの団団長と何事かを話し合っているリーダーの姿がある。

誰かが口火を切った方がいい。ならば、今ここで自分がそれを行うべきだろう。


「―― 一年ほど前に、行方不明になったのよ」


 龍歴院のハンターは、表情をキッと引き締めた。


「 詳しく、お聞かせ願えますか?」


嗚呼、こんなところまで、"あの人"にそっくりだ。

声が聴こえたのだろう。団長と話をしていたリーダーが席を外し、こちらへと近づいてくるのが見える。


聞きたがられた詳細を 懇切丁寧に語り聞かせる。
我らの団ハンターの容姿、人となり、功績、行方不明時に受注していたクエストの内容、出現モンスター、目的、日時、場所、状況など


こちらが話し終わると、龍歴院のハンターは何事か思案するような顔をした。
拳を口にあて、記憶の糸を手繰るようにして視線を地面に縫い付けている。

そして龍歴院のハンターは、筆頭リーダーと筆頭ガンナーたちが、間違いなく驚愕するであろうことを口にした。


「  恐らくですが、私はその方と一年ほど前に会ったことがあります」