千年先の雨のにおいがした | ナノ
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25

セルレギオスは二度、己の"死"を実感した。

一度目は縄張りに侵入してきた同族に首筋を噛み付かれ、頭を擡げようとした時だ。
首の骨を折られ、飛び立ち逃げる気力さえ失っていた状況下。
その窮地を脱せられた要因だったのは、一人の"人間"とアイルー種だった。
"曲がりなりにも命を救われた" 戦闘本能で動くセルレギオスもそれを理解した。
だから一度は己を助けた"人間"を救ったのだ。"アレ"と対峙していた人間を。
"アレ"はもはや、同族でもなければ生き物ではない。生きてすらいない。
そんなものと対峙し、見す見す命を差し出すこともない。ならばと巣に連れ帰った。
しかし人間は、もう一度アレに会わねばならないと訴えてきた。
セルレギオスにはまるでそれが理解が出来なかった。強者に敵わないと知れば、手を出さずにただ過ぎ去るのを待つのがいい。そうやって生きて行かなければ生き延びれないのは明白ではないか。
それでも人間はまだ何事か訴えた。話す言葉の全てが意味の分からないものだったが。
渋々、セルレギオスは人間の望みを今一度叶えて、いや、棄てて来ようと思った。
"アレ"にこの人間を差し向ければ、当面こちらへの興味は薄れるだろうと。
そうすれば自分は生き残れる。そう。そうだ。そう思っていたのだ。

"アレ"の撒き散らす瘴気に触れて自我を失うまでは。



血のにおいに誘き寄せられ、そこにはあの人間がいた。


とても美味そうで、食いでがありそうで、殺し甲斐がありそうで、


その時確かに、セルレギオスは"アレ"の心情がようく理解できた。

この人間を見ていると 体中の血が騒ぎ出す。
黒い瘴気に自我を喰われ切ったいま、
"殺さなければならない"
"でなければこちらがいつか殺される"
 そう思わせる。

己の体の、あらゆる器官や感覚が鋭敏になり持続的に続く針を刺すような痛みに身悶えそうになりながらも、セルレギオスはあのときの人間を手中に捕らえる。
人間の抵抗を感じながら。
離すまいか、と吐き捨てて。