千年先の雨のにおいがした | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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01

ある一つのクエストを依頼された。セルレギオス二頭狩猟のクエストだ。
場所は旧砂漠。
セルレギオスたちは今もその土地で争い合っているらしく、多くの旅人たちが立ち往生を強いられているため早急の討伐が必要であるらしい。
そしてそのクエストは、以前別件のクエストにてセルレギオス二頭の討伐を成功させた我らの団ハンターに任された。ハンターはそれを二つ返事で了承する。
ハンターには、困っている人がいればクエストを選り好みしたり迷っている時間などない。


クエストカウンターの竜人お姉さんからそのクエスト依頼書を受け取り、目を通していると奥の空間に大きく鎮座していた大長老が「ハンターよ」と声をかけてきた。相変わらず荘厳な声色につい身を固くして聞き返す。「何か?」

「またセルレギオスが砂漠で暴れているようだが、何か妙だとは思わないか?」
「…そうですね、妙だ、ならいつも思ってますよ。セルレギオスてのは珍しい個体なんでしょう?なのにここ最近…俺がドンドルマの一件で討伐してから顔を見せすぎだ」

今一度渡されたクエスト依頼書に目を通す。
『セルレギオス二頭の狩猟』
その文字があるだけ。
ギルドの偵察隊が見つけた、"狩猟不安定"の文字も、出現が警戒されているモンスターの情報もない。

「…此度のクエストも、十二分に用心するのだぞハンターよ。其方にこのようなことを言うのは不必要やも知れぬがな」
「いいえ、その忠告有難く受け取っておきますよ」


大長老に別れを告げる。
クエストを受注する前に、一度自宅に戻って装備を整えて来よう。

長い階段を下り、憲兵に挨拶をすると、ドンドルマの開けた広場に出てくる。
そこには我らの団のメンバー達と、筆頭ハンター達の姿。

「君か」
団長と話をしていた筆頭リーダーが気付き、駆け寄ってくる。その後ろから片手をチョイっと上げて笑う団長も。


「大老殿の方からセルレギオス討伐のクエストを任されたと聞いたが…」
情報が早い。
「ああ、うん。任された」
「……また、セルレギオスか…」
筆頭リーダーも大老と同様の難色を示した。
聡い彼も、事の異変に違和感を覚えているようだ。
だが次第に、リーダーの言葉に哀色が混じり出す。

「大老殿の者達は、短期間で一体どれほどの任務を君に任せているんだ」
「まぁ、今は色々と人手不足だからな。俺がG級に上がれたから、これまで溜まっていたクエストを消化したいんだろ」
「……君自身の強さは、私もよく理解しているつもりだ。だが…………っ!?」
顔を俯けた筆頭リーダーの背中を豪快な手が押し返す。
「ハッハッハ!筆頭リーダーは心配性だな!まるで我らの団ハンターの母親か女房のようじゃないか!」
「しょ、書記官殿!!何を仰られるのですか、私はただ……!」
「我らの団ハンター!」
「! は、はい?」

「お前さんならできる!」
「…はい」
「と、思っているが実は俺も少し気がかりでな」

最近になって奇妙なことが続くだろう。狩猟環境不安定のクエストで乱入してくるモンスターのほとんどが、狂竜化していることだ。

「…それは俺も気になっていました。天空山でも、火山地帯でも、氷海でも。出くわすモンスターはいつも狂竜ウイルスに侵された状態で出現する」
「今回のセルレギオス討伐クエストには直接は関係なさそうだが、この問題は胸に留めておくのがいいだろうな」
「そうですね」

団長の言葉に力強く頷けば、団長も強く頷き返し、いつもの調子で「なら行って来い我らの団ハンター!お前さんならできるできる!」と激励してくれた。まったく心強い方だ。


「…で、お前の方はいつまでそんな暗い顔をしてるつもりだ?俺のことが心配なのか?」
「………心配と言うよりも、不安だという気持ちの方が大きい。狩猟環境不安定ということもそうだが……」
「だが?」
「…やはり最近の君は働きすぎだ。来る日も来る日も、大老殿でG級のクエストばかりを任されているではないか。たまには他の者にクエストを譲り、休養を取るべきでは?疲れが溜まっているのではないか?」

あながち、団長が言っていた言葉は的を得ている。
筆頭リーダーの言葉は、友人としての言葉と言うよりは、より親身な立場の者が口にする言葉に近い気がした。

「…ありがとうな」
「…!……」
「セルレギオスのクエストを完了させたら、一ヶ月ほど休暇を取るようにするよ」
「…本当か?」
「ああ。クエストは他のハンターに任せて、気ままに旅行する。ユクモ…温泉だっけか?そこに行ってみたいな。お前も一緒に行かないか?」
「……………分かった。私もそれまでに別件の任務を終わらせて休暇をいただいて、駆けつける」
「おう、約束な」
「……約束、だ」


ようやく安心した顔を見せてくれた。これで心置きなく出発の準備をすることが出来る。自宅へと戻る足取りは軽い。