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「………筆頭ハンターのみなさん達、今頃ハンターさんを見つけてくださってますかね…」
本日二十五回目となる溜息を吐いて、本日十八回目となる言葉を呟いた看板嬢の顔色は、青白く染まっていた。
無意味に手元の本を適当なページで開いてみては、目も通さずに閉じてしまう。それを何度も何度も繰り返し、遂には本を膝の上から取り落としてしまったが、それにさえも気付いていない。クエストカウンターテントから下がっているカエルのぬいぐるみの顔も、心なしか落ち込んでいるようだ。そして二十六回目ともなる溜息を吐いた後、看板嬢は傍らに立っていた団長に声をかける。
「最新の連絡は、まだ入らないんでしょうか?」
「ああ、まだのようだな」
「そうですか………」
目に見えて落ち込んだ様子の看板嬢と同じくらい、団長も肩を落としている。普段ならば自信満々、威風堂々、尊厳さえ窺わせるような腕組み姿も、今ばかりは見る影もない。
キッチンの方から、すごく大きな音がした。
また、料理長が手元を狂わせ、炒飯が炒められている大鍋を引っくり返してしまったのだ。箒を持って後片付けをする料理長の肩も尻尾も、ガックリと下がっている。
我らの団キャラバンどころか、バルバレ全体が暗い空気に呑まれていた。
話を聞いたバルバレの住民たちも一様に、未だ帰ってこないハンターのことを心配しているからだ。
「………今は信じて待つしかないがなぁ」
「……そうなのですけれど……。……ぅう、駄目みたいです〜……心配で心配で心配で、なーんにも手につかない……こんな風になることは初めてなので、どうすればいいのやら……」
胸の前で組んだ両手を開いては、そこに溜息を落とす。
やがてポツリと、彼女は言う。
「……帰ってきて、くれます。 そうですよね、ハンターさん……」
信じるしかない。
団長は口を引き結んだまま、もう何も言わなかった。いつもより重みのない軽い肩も、これ以上落ちることもしない。
信じるしかない。
もう一度強く、心の中で口にする。
いつだってそうだった。待つ側である自分たちに、出立するハンターにしてやれたことは、今までも、これからも、きっとこの一点だけ。
ただひたすら不安になってしまう看板嬢の想いだって十二分に理解できる。
だからそれを止めろとも、間違っているとも決して言わない。
看板嬢が、「ハンターはきっと帰って来ると信じている」という思いに揺らぎが生じてしまっているのなら、他者である自分がそれをどうこう指摘するのは間違っているとさえ思う。だから、だからこそ。
「…………きっと無事だ、アイツは。何せ、俺が見込んだ男だからな」
自分くらいは、揺らがずに待っていようと。
相棒と共に帰って来る、彼のことを。
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