千年先の雨のにおいがした | ナノ
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15

「…!? では、君がケルビを狩り終えて我らの団ハンターとリーダーのいる場所に戻ったとき、血まみれで倒れていたリーダー殿の姿しかなかったと…!?」

「はい…!」






―――必要量の分だけケルビを狩り、食せる部分であるホワイトレバーを手早く処理し、持ち帰った場所では、頭や肩から血を流して倒れているリーダーの姿。
「リーダー!!!」
慌てて駆け寄ってみれば、彼は虫の息ではあったものの脈はあり、生きていた。
だが、抱き起こしてきたガンナーを認識すると、何よりもまず

「……ハン……タ………が……」

切れ切れに言葉を紡ぎながら、ふらふらと手を持ち上げ、指先を彷徨わせる。意識が朦朧としているのだ。

今のリーダーの言葉と、現状を見れば、我らの団ハンターがいなくなっていることと、あの、狂竜セルレギオスが追いかけてきたことが理解できた。我らの団ハンターは、奴に連れ去られたのかもしれない。リーダーが指先を彷徨わせた意味も分かる。セルレギオスがハンターを連れて飛び去った方角を指そうとしていたのだろう。

ガンナー単身では、飛び去ったモンスターのその後を追跡するほどの力はない。
何よりもまず、リーダーの手当てが必要だ。そして、筆頭ハンターたちへの報告。
リーダーをキャンプへと連れ帰り、支給品ボックスとテントに備え付けてある簡易医療道具を用いて手当てをし、報告を入れるため、ずっと走り続けていたのだ。






現地ガンナーの報告を受けた筆頭リーダーは、先程までの安堵の表情から一変、眉間に深く皺を寄せ、"激怒"の色を浮かべた。
そのよく分からない怒りが原因で、目の前に火花が散るようだった。
顔に熱が集まり、口がカラカラに渇く。悪寒のような不愉快な汗が頬を伝う。


やっと、と。 そう、思ったのに。 またしても、奴が彼を連れ去っていくという。




「…我らの団ハンター殿を保護した際、彼の身体は満身創痍でした。あんな状態のまま碌な手当ても休息も取らずに戦いを続けていただなんて、……あの者は恐ろしすぎます」


「…………」


我らの団を保護したときに現地リーダーが抱いた思いは ガンナーも同様だった。それは、あの 狂竜化状態にある巨大セルレギオスを間近で見た故に生まれた恐ろしさ。
歴戦のハンターであったリーダーですら、ガンナーが見たこともないほどの大怪我を負わされた。あんな、あんなものに、幾度となく相対してまだ尚呼吸を止めずにいる我らの団ハンターの存在は、ガンナーにとって度し難いものへと変わっていたのだ。



それを受けた筆頭リーダーは、顔を上げ、口を真一文字に結んだまま熟考する。

そしてやがて ゆっくりと、こう答えた。



「………決して、彼は、そんなことはない。至って、……彼も、…ただの人間なんだ。
……ほんの少しばかり、他人を想う気持ちの強い、至って、普通な。

だから、向かわねば。誰かのためにモンスターに挑む彼を救うことは、我らにも出来ることだ。」



その筆頭リーダーの言葉に呼応するように肩の鷹が鳴く。まるで、
「グダグダ話ていないで、早いとこアイツを捜しに行ってくれ」と団長が背を叩いたようだった。




「………ガンナー! 至急観測班と連絡を取り、付近に見える大型モンスターの情報を早急に調べてくれ!」
「ええ、分かったわ!」

「ルーキー お前は現地ガンナーと共に、行方の知れていない他の現地ハンター達の救出に向かえ」
「ハイっす! その後はどうすればイイっすか?」
「発見次第、ベースキャンプに戻りギルドに連絡。救護班を二部隊ほど寄越してもらえるよう伝えるんだ」
「リョーカイっす!」


「先輩。我々はこのまま、ガンナーからの連絡が入るまでは予定通りルートを進行して行きましょう」
「そうだね。どんな見落としもしないよう、慎重に………おや?団長の鷹の様子がおかしいね」
「? どうしたのでしょう、急に…」


キョロキョロと。首を、羽根を、視線を、忙しなく動かす。
しかしやがてゆっくりと身震いをして、ピタリと動きを止めた。

筆頭リーダーはその鷹の様子を見て、張り詰めていた息をふっと吐いた。
 もしかすれば今、この鷹は準備運動をしたのかも知れない。
 彼も、この広大な砂漠地帯から、彼を捜す事に意欲を燃やしている。
そう考えると途端に、この肩にかかる重みを頼もしく感じられた。


「――……では、行きましょう」
「ああ」

「気をつけてくださいね、リーダー」
「私も、なるべく早く合流するわ」
「…筆頭ルーキー殿、こちらです」


多くの人間たちが、それぞれの役目のために散り散りとなる。

足を踏み締めるたび、砂が上へ、下へと流れて地形を少しずつ変化させていく。














そして、誰かが通り過ぎた小高く盛り上がった砂の山
風に流されヴェールが剥がれ落ち、
誰かのポーチとギルドカードケースが、砂に埋もれるように眠っている。