14
太陽がもう一つ増えたようだ。幾らクーラードリンクを服用しているとは言っても、真昼の炎天下、足を取られる深い砂漠を横断することは、必要以上に労力を要する。一つ目の大砂漠を越えた辺りから、ルーキーがバテはじめた。立ち止まる回数が多くなり、「待ってくださいッス〜」と情けない声を上げる。逆に先輩とガンナーはいつもと同じように涼しい顔で、周囲へ視線を送り、警戒を続けていた。
「リーダー」
「どうした」
「風が運んでくれる においが変わったわ。近くに何かいるようね。気をつけて進みましょ」
「了解だ。それにもうすぐ、次の大砂漠に到着す……あっ、おい!」
肩にとまっていた団長の鷹が、不意に空高く飛翔していく。
しばらく頭上を旋回したかと思えば、進行していた方向に向かって降下した。
何かを、見つけたらしい。
その後姿を負って、我々もあとに続く。
「……あれは…っ!」
――セルレギオス。
硬い岩の上で四肢をてんでバラバラの方向に投げ出しており、頭部はなく、腹部からは中の器官が外に零れ出ている。検めることもなく、絶命しているのが分かる。それは報告にあった狂竜セルレギオスではなく、通常個体のもので、死後何日か経過しているようだった。砂漠にいたために腐敗速度も速く、他のモンスターに死肉を突かれることもなかったのだろう。
「……我らの団ハンターが討伐したものだろうか」
「……それにしては、傷口の形状が不自然です」
大方……と察しをつけたところで、ルーキーの声が飛んだ。
「あー! ちょ、まだ何処へ行くっスか鳥ー!」
団長の鷹は、まだ何かを見つけたらしい。ゆるく風に乗り、翼をはためかせながら今度は北へ。
今度こそ、どうか彼であってほしい。
だがそんな思いも願いも束の間。
鷹が見つけたのは、風が吹いては寄せて、吹いては寄せてを繰り返し、そうして出来た砂の小山に、半ば埋まるようにして倒れる二頭目のセルレギオスだった。
こちらも酷く傷だらけで、足の肉には腹を空かせたガレオスが牙を立てながら喰らいついていた。
近づいた我々に気がつき、襲い掛かってきたのを退ける。
まだ息があるやも知れない。
充分に距離を取って警戒をした上で、眼前のセルレギオスの姿を省みる。鷹は、いつの間にか肩へと戻って来ていた。
「この二頭のセルレギオスが、我らの団ハンターが請け負った本来の討伐対象だったようだな」
「ええ……しかし、このセルレギオスは妙だ。受けている傷が真新しい。血も、まだ凝固せず流血している」
まるで、先程まで、何者かと交戦したような……。
「――いたっ!! 筆頭ハンター殿!!」
「ん?」
「あれは……現地ハンターチームの…」
これまで我々が通ってきた道をなぞるようにして、此方へと駆けてくる一人の男の姿。
あれは、あちらのチームにいたガンナーの者だ。
大きく手を振りながら、一目散に走るその表情には鬼気迫るものがある。何故だろう、とても、嫌な予感がした。
「ガンナー殿。何故こちらのルートに?」
「何か火急の報せが?」
膝に手をついて、全力疾走した膝を休めているガンナーは大きく息を吐き出しながら、「はい。すぐにお知らせしようと思い、BCで待たず、こうして自ら。強走薬グレートを飲んだのは、久しぶりでした」
辿っていた別ルートからこちらまで、休まずに走り続けてきたということは、よほどの内容に違いあるまい。筆頭ランサーは、筆頭ガンナーに目配せをする。彼女は憂い顔のまま、上空を不安げに見上げた。
そしてゆっくりと、現地ガンナーが口を開く。
「まず、結論から。我々のチームは指定されたルート上で、件の狂竜セルレギオスと対峙していた、我らの団ハンター殿を発見し、保護いたしました」
「!!!」
――すっと、頭の中で巣食っていた何かが、喉を通って落ちて行く。
「……………よかった………」
堪えきれず、小さくそう零した筆頭リーダーに笑顔を向け、すぐにランサーは表情を引き締める。
「では今、彼はどちらに?」
我らの団ハンターを無事に保護出来たという連絡だけならば、現地ガンナーがここまで来る必要はない。
「…っ!……順を追って、ご説明します」
そして語るガンナーの顔は、朗報である内容と反して、地の底のように暗く。