千年先の雨のにおいがした | ナノ
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陽が昇る。我らの団ハンターの消息が絶えてから、今日で―――いや、たとえ幾ら時間が経とうとも、それは決して絶望的な数字などではない。結果として、我らの団ハンターが生きてさえいればいいのだ。 きっとリーダーも、私と同じようにそう考えていることだろう。あの仏頂面の下で、彼がどれほど心を痛めているのかは、私などには推量出来ないけれど。彼が防具を身につける。その肩に、団長の鷹が留まる。


皆の調子も良好だ。合流してきた現地ハンターの者達の顔色も良い。充分な休息を取れたようだ。
上々、恙なく任務を開始することが出来る。


「行こうか、リーダー」
「ええ」

「よォーし!俺、ちゃーんと周りに目を凝らしまくるっすよ!草の根掻き分けてでも!」
「フフ……砂漠にはあまり草木はないわよ?」

「では、何か分かり次第連絡を」
「ああ。じゃあお互い、何もかもに気をつけるとしよう」



さあ、では行こう。待つは広大な砂の海。
踏み締める砂の下に、探し人が沈んでいないことを願いながら。



















視界がグルグル回る。嗚呼、そう言えばもう何日も飯を食っていないような気がする。時間の経過が判然としないから正確な時間は分からないが、料理長の温かい飯が食べたくなってきた。ああ、目が回る。目がまわる。足はフラつかないが、腹が減った。スタミナが足りない。あとついでに血も足りない。 なんて、今このタイミングで考えたって、全部が全部どうしようもなかったりするんだけれど。



「おい この辺りでもういいよ、降ろせ ――アいだっ!」

「降ろせ」と言ったのに、落としやがったぞこのセルレギオス。くそ、こっちは色んなことが重なって満身創痍気味なのに、余計なダメージを負わせないでほしい。いや、俺の方も言葉が分かるはずないからと身体を捩ってばたついたから煩わしく思わせたのかも知れないが、どうして俺がこいつに気を遣わなきゃいけないんだ、まったく

「お前の鱗に腕が当たるんじゃないかって冷や冷やしながらの空中遊覧はもう一生したくないな」

皮肉が通じているとも勿論思っていない。が、砂地を避けて、北のオアシス方面までわざわざ俺を運搬してくれたセルレギオスは、未だ不遜な目で俺を見ている。それはまるで『本当にまた戻って来た。馬鹿なんじゃないかこいつ』とでも言いたげである。
 うるさい。どうしたってあのセルレギオスのことは放置したままではハンターズギルドに戻れないだろう。それに元はと言えば、寧ろこのセルレギオスこそが本来の討伐対象じゃないか。あの巨大狂竜セルレギオスを見た手前、勘違いを起こしそうになるがこのセルレギオスだって充分脅威となりうる存在。ああ本当に、俺の余力さえ残っていればどうなっていたか分かっているんだろうかこいつ。

ともかく、俺がセルレギオスらと相対してから、かなりの時間は経っているはずだ。そろそろハンターズギルドの観測班が俺の任務完了報告がまだ通っていないことに気付いてクエストリタイアを促すか、迎えなり援軍なりを寄越してくれるはずだ。それまでは現状、今ある武器と装備だけで粘らなければならない。




「……………それで、お前はいつまで此処にいるつもりなんだ?」


俺を運んできたセルレギオスが、じっと隣に立ったまま立ち去らないことに疑問を抱く。放り捨てたあとはさっさと飛び立って行ってしまうかと思っていただけに、殊更不思議だった。

しかし。
セルレギオスは、俺のことが気がかりでいつまでもこの場にいたのではなかった。


鱗だらけの四肢をガタガタと震わせ、低い声で鳴く。
彼方の空を一点に見上げ、頻りに、何度も何度も翼をはためかせようとするが。


飛び立とうと、セルレギオスが前足を持ち上げた時、"それ"が突如として飛来する。



――ギィアア゛アア゛ア゛!!


徐々に大きく見える影
雷鳴のような咆哮と、
迫り来る一筋の弾丸のようなそれは、
左目が潰れた "あの"セルレギオス!



「―――ッ!! クソッ、早いんだよ、再登場が!!」