千年先の雨のにおいがした | ナノ
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旧砂漠一帯を担当していたハンターズギルドの観測班が死体となって見つかってから、長く時間を空けて再び第二の観測班が派遣された。付近を徘徊する大型モンスターの陰はなく、今回の問題の中心にいる狂竜化巨大セルレギオスの姿も未だ発見されていない。
そんな、充分な警戒と観測を命じられている観測班が、ある一報を旧砂漠入りした捜索班のもとへと届けたのはつい今しがたのことだ。



「……飛竜が人間を連れ去って飛んで行く姿が見えた…!?」

「ええ、はい しかし……何ぶん、あれが件のハンターとセルレギオスであったのかは確証がないそうです。観測班は、遠くの山間を高速で飛竜が駆け抜けて行った姿を物見が一瞬だけ捉えただけですので…鳴き声も聞き取れず、申し訳ないとのことです」


簡易的な電報を読み上げた狩猟笛を持つハンターは「どうしますか?」と、
現地で編成されたハンターチームによる捜索班側のリーダーである男に次の行動を仰いだ。
「ふむ………」
顎髭を擦りながら、男は「そちらの考えを聞こうか」 そう言って、黙ったまま報告を聞いていた、筆頭ハンターたちの顔を見た。


「………観測班からの情報は検討には値するが、現状そのような事をしている時間的余裕はない。早急に、旧砂漠の該当エリアへ向かう事を 私は推したい」

視線を受けて、まず口火を切った筆頭ランサーの言葉に、筆頭リーダーは内心で頷く。
ハンターズギルドからの勅命で動いている以上、個人的な感情で動くことは許されない。けれど焦燥感ばかりが募ってしまい、今こうして立ち止まって話し合っている時間ですら惜しいと感じることを どうにか無表情の下で押し留めているに過ぎないのだ。



「……まあ、最終的に優先されるのはリーダーの意見だ。リーダー、我々はここからどう動くかね?」

ランサーに促され、リーダーは努めて冷静に提案を口にする。

「……ここからは二手にチームを分けて捜索に当たることにする。そちらのチームは、ベースキャンプから東側のルートを辿り、……我らの団ハンターが通ったとされる足取りなり、痕跡なりを見つけてほしい。我々は逆側から同様に行軍する」

「俺たちは荒地を重点的にと言うことか。しかしそちらさんの負担が大きいんじゃねえのか?そっちのルートは、大砂漠を二つ挟んでいるだろう。時間を食われすぎるんじゃないのかい?」
「まあ、でもせっかく8人、2チーム体制なんだから、固まって行動することこそ無意味だと思うッスよ〜」

間の延びたいつもの調子で意見を口にしたルーキーを見るあちら側の視線が厳しい。しかし彼が口にしたことは至極当然でもある。


「……こちらからの提案は以上だ。他に、何か意見は」
「いや、指示を貰ったなら俺たちは従うよ。出発はどうする?もう日が落ちかけてるが、夜だが出発するかい?」

「……、……」


――グッと、言葉を飲み込む。 いけない、冷静に、慎重に。


「……いや、夜が明けてからの、出立を。今夜はここまでの移動中に出来た疲れを残さないよう充分に休息を取って、明日に臨んでほしい」
「了解した」


男は物分りよく頷いて、仲間であるハンターたちと共にキャンプテントの設営をするべくこの場を後にした。
 それに続きながら、仲間のハンターたちが
「今回の捜索対象のモンスターって、どんな奴だっけ?」
「セルレギオス、だったっけ、俺戦ったことねえよ」
「戦ったどころか見たことすらないな…」
急ごしらえ的に集まってもらったようなものだ。ハンターランクなどの指定もないまま選定された者達ゆえ、セルレギオスのことをよく知らないハンターがいることも仕方ないのだろう。




「……あっちはセルレギオスだけを探すつもりみたいッスねー。いちおー、もう一人捜索対象いるんすケド」
「……そうだな。だが、仕方ないのかもしれないよ。ハンターズギルドはすでに我らの団ハンターのことは『死亡』扱いとしているからね」
「うーーん………。…ま! アノ人が死んだなんて俺はこれっぽっちも思ってないッスけどねー! だってアノ人、殺されても死ななそうなぐらいガンジョーそうだし!……って、うわわわわ!!イタイ、痛い! ったく、何するんすかこの鳥ーー!!」

「あ、あぁすまんルーキー。 こら、戻って来るんだ」


急にルーキーの顔面に向けて飛び掛り、翼をはためかせながら「キーキー!」と荒ぶる様子を見せた鳥――鷹は、ルーキーへの攻撃の手を止め、元いた筆頭リーダーの肩の上に再び舞い戻った。
不貞腐れた様子で、抗議の声をルーキーは上げる。


「我らの団ダンチョーさんの鷹ってこんな暴力的だったっすか!?チョー引っかかれた、いたい……」
「フフ……あなたの発言に、怒ったんじゃないかしら?」
「団長も口惜しげだったからな、何としてもハンター君を連れて帰りたいのだろう、彼も」





ドンドルマ出立前に、我らの団 団長が筆頭リーダーに託したのが、彼の相棒の一匹でもあるこの鷹だった。


「俺たちもアイツを探しに行きたいが、そうも行かないのが悔しくてならんよ。…だからコイツを連れて行ってやれないか?こいつは耳もいいし、頭もいい。我らの団ハンターのこともようく知っている。コイツの眼を我らの団全員の眼として、どうか一緒に連れて行ってやってほしい」

去り際には、団長は自身の帽子を深く被りこちらに表情をうかがわせはしなかった。
団長の後ろに立って、胸の前で手を組んでいる看板娘も、加工屋も、加工屋の娘も、料理長も、竜人商人も、皆一様に「どうかお願いします」と言っていた。誰も、我らの団ハンターが「死んだ」とは思っていないが、「ハンターが未だに帰還していない状態」であることへの不安を拭いきれないでいるらしい。
 それは、筆頭リーダーも、同じであった。


「必ず、彼を連れて戻って来ます。…必ず、絶対に」

「ああ……任せたぞ、筆頭リーダー」



――鷹は筆頭リーダーの肩に足をつけたまま、自身の羽を嘴で繕っている。たまにその鋭い瞳を、広大な砂漠の方へと向けている。彼には、動物には、この旧砂漠に流れている不穏な気配を感じ取れているのだろうか?




「ともかく、我々も休もうリーダー」

「ええ、そうですね」




そう、新たに生まれた約束。
必ず彼を見つけ、生きて彼らの前に帰らせてみせる。

君は死んでなどいない。
君は私が連れ帰る。