千年先の雨のにおいがした | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -

09

「おい聞いたか」


三日後の夜までには、隣国の取引相手に商品の絹や香辛料を届けなければならないと言うのに、ギルドの役員に通行止めを食らわされてから今日で早二日目だ。
「商売に支障が出る」と訴えても、門の前で憲兵は無表情のまま首を横に振るばかり。
旅団の皆からもだんだん不満の声が上がり、二進も三進も行かない状況になった頃、旅団のメンバーの一人である鍛治見習いがどこからか仕入れてきたらしい情報を口にした。


「針路地点の真ん中にある旧砂漠エリアで、巨大なセルレギオスが出現したかららしいぞ」

「なにぃ? おい、たったそれだけか? なんだよ!それならさっさとハンターの一人や二人派遣して、ちゃっちゃか討伐してくれりゃあ済む話じゃねぇか!」


気性の荒い男が吠える。周りにいた他の地へと赴く旅団の人間たちも、なんだなんだ、本当か、と会話に混ざってくる。
聴衆が増えると話し手も気分が良くなる。更に鍛治見習いはこう続けた。


「いやそれがな、ハンターはとっくに派遣していたんだそうだ。だがそのハンターが巨大セルレギオス相手に返り討ちを喰らったんじゃないか、とよ!」
「返り討ち?怖いわねぇ…」
「おいおい、じゃあそのハンターは死んだのか?」
「消息が不明なんだってよ」
「代わりのハンターを派遣すればいいじゃないか」
「それがどうやらギルドの観測員なんかも何人かやられてるみたいで、無闇やたらに手を打てない状況らしいぜ」
「ええ!?じゃあまだ此処で足止めを食らわされるの!?もうっ、いい加減にしてよ!」
「そうだそうだ!」


拳を突き上げ、白熱していく旅人たちの不満は、もう爆発寸前だ。
その様子を黙って見ていた憲兵も、旅人たちが強引に突破しようと暴動を起こさないか、今一度気を引き締めている。


「まあとにかく一刻も早く次のハンターを派遣して事態を解決させてもらわないとなぁ」
「そのセルレギオスもわざわざ多くの行路がある砂漠エリアなんかに現れないでも良かったのにね!」
「その死んだハンターってのはどうなったんだ?」
「どうなったって?」
「死体だよ。セルレギオスに食われたんかねぇ?」
「そこまでは聞いてないよ俺も。食われたんだろ、どうせ」


セルレギオスを討伐し損ねたハンターがいると言われても、商売一筋である男には「困ったなあ」と言うだけのものだ。モンスターは、ハンターが殺す。そのハンターを殺すモンスターが出てくれば、そのモンスターをハンターが殺す。そうやって大地は安寧を作り上げていくべきだ。戦う力のない男は、自分の出来ることを最大限にやって生きて行く術を見つけるしかない。今回の取引先の相手は、高名な商売人で、ここでルーツを失ってしまえば交易の利益はがくんと落ち込んでしまう。


「誰でもいいから、早いとこどうにかしてくんねぇもんかねえ」








ワイワイと騒いでいた旅団を じっと見ていた男がいた。
男は端整な顔に凄惨なまでの悲壮感を浮かばせ、同行していた男に様子を慮られるほどだった。

ただの噂話だ、誤報であるはずだ。

話題の中心にもいた「死んだハンター」のことを思う。
君は死んでなどいない。私のもとへ帰って来てくれるのだと、そう約束してくれたのだから。
けれど君がもしも帰って来られない状況にいるのであれば。
私が君を迎えに行っても、なんら問題はないだろう?




「―――ハンターズギルドから使わされた捜索班だ。話は通っていると思うが、こちらが証明書になる」

「! ええ、窺っております。どうぞ此方からお通りください」

「ありがとう」

「いえ。………どうか、よろしくお願いいたします」


敬礼をした憲兵に頷いて返す。

彼が消息を経った砂の地に、我らは足を踏み入れる。