モンハン夢 | ナノ
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秒読み


「これ うちのカミさんから」

そう言ってカンベイさんが俺に渡して来たのは、上等そうな包み紙に入った和菓子のアソートだった

「友人たちと旅行に行ってたお土産で、ジークさん達にもどうぞ だって」
「ありがとうございます!」

丁度今が午前業務の終わったお昼時なのもあって、お土産を受け取ると同時に盛大に俺の腹が鳴った。カンベイさんはニコニコと笑いながら、「お菓子で満腹になっては、いけないよ」と言い残して自分のデスクの方に帰って行く。通勤カバンからいそいそと取り出したのは、桃色の風呂敷に包まれた愛妻弁当 本当に、いつも仲の良さが伝わってくる素敵なご夫婦だ

「カンベイさん 今日は俺も弁当なんです ご一緒してもいいですか?」
「おや 珍しいね。いいとも 机、くっつけるかい?」
「業務デスクじゃなかったら、今すぐピッタリ付けるんですけどね!」

床に打ち付けてあるデスクをガタガタと揺らすと、カンベイさんは学生の時分のようだと笑った

お弁当といっても、俺のはカンベイさんのような手作りお弁当ではなくてコンビニ弁当だ。通勤時、道端で困っていたお婆さんの荷物持ちをした為に袋の中で斜めになって具材が隅に偏っている俺のコンビニ弁当 味は変わらないのでいいだろう 漬物の汁がすっかりはみ出て蓋を伝っていた

付属の割り箸を割って、最初に手を伸ばした唐揚げを口に詰め、嚥下してから、俺は世間話を持ちかける

「奥さま、どちらへ行かれてたんですか?」
「ユクモ町の方だよ 温泉が好きでね、よく行っているんだ」
「お二人でも行かれるんでしょ?」
「休みがあればね」

無遅刻無欠席の男が集っていることでも有名なこの生活環境課でも、特に代表して真面目な人だ。もっと有休を増やすなりして、伸び伸びと体を休めてもらいたいけれど、そろそろご高齢だから、と言い含めてしまうには、カンベイさんはとても意気軒昂としている。誰よりも背筋が真っ直ぐ伸びていると言ってもいい


弁当を平らげてしまったので、「お土産を開けてもいいですか?」と訊くと、どうぞと返ってくる
和柄の包み紙に包まった饅頭を手に取って頬張っていると、カンベイさんがお茶を飲みながらそう言えば、と話を振ってきた

「近々、我が弟子と共に挨拶回りをすると言っていたね」

「ええ、そうです」

カンベイさんは頷いた俺を見て、「やあ、やっとか うんうん 待ち望んでいた日がもうすぐなのだと思うと、本当に嬉しいよ」と言って目尻の皺を濃くした


カンベイさんの言う"我が弟子"……昔経営していた剣道道場の頃の生徒たちの呼び名のこと、この場合に該当するのはたった一人で、俺の婚約者ことジュリアス・ジョシュアのことだ

高校の頃からの友人で、大学時代に交際を始めた。俺は市役所勤を選び、あいつは大学の研究室に残り生物……なんとかとか言う研究者になった
お互いの生活が軌道に乗ったからもうそろそろ一緒に暮らしたいと、あいつから出た望みを叶えるために、来月入籍予定だった


「君が弟子の友人だと聞いた日も驚いたけど、まさかこんな日まで来るなんてねぇ」
「懐かしいですね、そのやり取り リーダーのあの時のどもりっぷりは俺でも笑いましたもん」
「ははは!もうじき君の伴侶になると言うのに、未だその呼び方なのかい?あの子がその肩書だったのは高校のころだろう」

リーダー 一緒に通っていた高校で生徒会長をしていたあいつの通称だ
ずっと呼んでいたから癖が抜けず、今でも偶に口から出てしまう

「君の呼びたいように呼ぶといい、って言われます」
「そうかい」

許してくれてはいるが、でも俺が名前を呼ぶと「ん、なんだろうか」と一瞬肩を揺らすので 名前で呼ばれることが嬉しいのだろうかとは思う …ああ、でも 

伴侶か 俺の
すごくいいな

「……へへ」
「…ふふ 君たち両名が揃ってこの市役所に婚姻届けを持ってくる日が、とても楽しみだ」
「市民課窓口の奴に茶化されそうです」
「茶化すだろうなぁ 君は此処でも地域でも、人気者だから」
「カンベイさんが結婚されたときも、ここに婚姻届け提出したんですか?」
「さぁ?どうだったかな」
「はぐらかしますね〜今度地域見回りに出たとき、奥様にお土産のお返し渡しがてら世間話振ろうかな」
「止してくれ 君相手にならカミさんは聞かれてないことでも話してしまうだろうから」

今夜帰ったら先回りして口止めしておかないと
そう言うカンベイさんはニコニコ笑顔だ。最近はちょっとだけ表情が難しく曇る瞬間もあったから心配はしていたんだが、この様子を見るに

「… ついて行けなくて残念ですね?」
「……今度からは俺の分の仕事を君に回しておこうかな?」
「外回り行ってきますー」
「こらこら」



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