モンハン夢 | ナノ
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我らの団ハンターと少年


「…見つけた」

整備された道を外れ、生い茂る草木を掻き分けながら森林の中を探索し数刻
奥まった天然の樹木穴の中で、捜索対象の少年は身を抱えるようにして蹲っていた。
事前の情報と容姿は一致しているが、ハンターの声がして緩慢に上げられた顔は、憐れにも傷だらけで暗闇の中からは声の主を視認出来ず、「……だれ?」とか細い声で問い掛ける。失踪からほぼ一日近い時が流れている、衰弱も見られていた。

「ハンターだ。君を助けに来た。いま引っ張り出すから、身体に手が触れるよ」

そう断ってハンターが腕を伸ばす。膝裏と背中に手を回し、こけた身体を掬い上げるように力強く抱き抱えると、少年は急な浮遊感にサッと身を強張らせたがハンターの逞しくも温かい人肌の体温に触れて、常に張り詰めらせていた緊張感が幾分溶けたように安堵の息を吐いた。


昨日、討伐クエストのため遠征していたハンターは拠点への帰路の途中、現地のギルド派遣員からの電報により近辺を通行していたある行商隊がドスゲネポス率いるランポスの群れに襲われ、救助を待っていると知り現場に急行した。

群れは積荷の食糧が目当てだったらしく、仕入れていた小型モンスターの肉や皮の匂いに釣られたのだろう酷く荒らされており、我らの団ハンターが到着した時には車や荷台は全て横転していた。

人々に被害は無かったようだが……と、ハンターは辺りを見渡す。
すると、襲われないように道を外れ木々の中に身を隠していた行商隊のリーダーが「ハンターさん!」と合流してきた。ギルドに連絡を入れたのは彼らしいが、放ったはずの伝書鷹が戻って来なくてハンターの到着を心配していたらしい。

「よかった、怪我などはありませんか?」
「ええ、幸いにもワシらよりも積荷に関心があったようで…新鮮な肉を仕入れといて助かりましたよ」

避難していた行商隊の面々が1人、2人と現場に戻って来る。車を起こさないことにはこの場から立ち去ることも出来ず、また、モンスターの追走があるなどの恐れからハンターには付近の偵察及びモンスター発見時には討伐が頼まれる。正規のクエストではないが、我らの団ハンターはお人好しな男だった。二つ返事で了承し、現場に残っていた痕跡からランポスの群れを追い詰めようと出発しようとしていたその時、青い顔をした女性がバタバタと慌ただしく駆け寄り、「息子が…!息子が、見つからなくて…!」










「そうか、あいつらが入って来られない隙間をちゃんと選んだんだな。冷静な判断が出来て偉いぞ」
「えへへ…」

ハンターに褒められて少年は嬉しそうに微笑んだ。
清潔な布を浅い川の水で浸し少年の顔を丁寧に拭き取ってやる。
母親と逸れ、飛び出した枝や葉で傷を作りながら彷徨っているうちに二頭のランポスに見つかったらしい。少年は慌てながらも土壇場の機転が功を奏したのか、ランポスの体型では入り込めない木々の根元に潜り込んで一晩を明かしていたようだ。

「ごめんな、見つけるのが遅くなって」
「ううん」

ハンターが捜索を開始して暫くと経たないうちに、問題のドスランポスの群れと遭遇したのだ。1人でも今さら手こずる筈はないが、1匹たりとて討ち漏らすわけにはいかないと応戦しているうちに少し時間が経ってしまっていた。

しかしハンターがドスランポス達を倒したと聞いた少年は顔を輝かせ、「かっこいい!」「ありがとう」と明るい声を出してくれた。

「はは、カッコいいか?」
「うん!」

少年の傷を手当てし、携行していた食料も食し終わったのを見て、ハンターは少年の身体を片手で抱き抱える。
「居心地悪いかも知れないけど、暫く我慢してくれな」
本当は背負ってやりたいが、武器を所持しているためにそれも出来ない。いざと言う時に武器が取り出しづらいのはまずいからだ。
しかし少年は高くなった視点に興奮したのか、「お父さんでもこんなことできないよ」と言ってハンターを苦笑させる。さぞ心細い思いをした筈なので、それを引きずるかと思えば案外豪胆な子だったようだ。

湿地帯を抜け、目的のポイントまでの道を戻りながら、少年はハンターにあれやこれやと質問を投げかけていた。
どうやってハンターになったのか、モンスターが怖くないのか、どうしたらそんなに身体が大きくなれるのか、どこから来たのか、どんな食べ物が好きなのか……


「んー…肉 と、お酒」
「へ〜じゃあ僕もお酒飲んだらハンターさんみたいに大きくなれる?」
「…あっ あと、野菜も好きだな」
「えーー野菜?じゃあ野菜もちゃんと食べたら大きくなる?」
「なるぞ、今にムキムキだ」
「すごい」


水辺で餌を取っていたアイルーやメラルーがハンターの存在を視認してワラワラと視線を投げかける。メラルーも向かって来る様子はないが、毛を逆立てて威嚇気味だ。ハンターから血の臭いがするためだろう。少年はそんな存在達にすら興味津々と言った様子だ。


「じゃあじゃあ、その、どんどるま?にハンターさんはお家があるの?」
「ああ。まあ家…と言うより、家族みたいな人達が今そこに留まってるんだ。だから俺もそこに帰る」
「へ〜 僕もおうちってないけど、行商隊のみんなが家族だからおんなじだね!お母さん早く会いたいな」
「絶対会わせるよ。安心してくれ」
「うんっ」


もうすっかりハンターに懐いたようで、少年はギューっと首に腕を回して抱きついてくる。加工屋の娘を思い出すな、とハンターはニコニコと笑みを溢した。
少年はまだ質問の手を止めないでいる。


「ハンターさんのなまえはなんて言うの?」
「ジークだ」
「みんなに何て呼ばれてるの?」
「んー…名前ではあんまりないかな ハンターさんとか」
「ぼくもアネスって名前なのに、みんな"チビ"って呼ぶんだ。それとおんなじ?」
「同じだな」

ハンターが賛同してやると少年は喜んだ。

「どうしてハンターになろうと思ったの?」
「昔、同い年くらいの男の子がハンターを目指してるって言ったのを聞いて興味を持ったんだ」
「お友達?」
「いいや、名前も知らないし顔も覚えてないな」
「ふ〜ん…会えたらまた会いたい?」
「んー……そうだな、会ってお礼くらいは言いたいかな。あっちは俺のこと存在すら知らないと思うけど……… お、もうそろそろ皆のいる場所に着きそうだぞ」
「えっほんと!」


湿地帯を抜け、乾いた地面と鬱蒼とした木々の道に戻って来る。
比較的舗装された見覚えのある輸送路が見えて来て、少年はそろそろだとはしゃいでハンターの腕の中できゃあきゃあと嬉しげだ。


「でも、もうハンターさんと話せなくなっちゃう?」
「お母さんも心配して待ってるしな」
「うー…また会える?」
「ドンドルマか、バルバレに来ることがあったら会えるよ」
「どんどるま、ばるばれ」
「覚えられたか?」
「どんどるま、ばるばれ…」

懐かれたものだ、とハンターは照れ臭くなった。質問責めに答えていたのも少年の恐怖が和らげばと思っていたが、存外自分にとっても楽しい時間だったなと振り返る。

暫くすると、元のように立て起こされた荷台や車が見えてきて、そこにいた人間達がハンターと少年の姿に気づきおーい!と手を振っている様子があった。
腕に抱いていた少年を肩車に切り替えてやると、大人達の姿が自分にも見えたのか大きく手を振って応えている。

「ハンターさん!ほんとにありがとう!」
「俺も嬉しいよ」
「また…どんどるまに行ってってみんなにお願いするから、また会おうね!」
「もちろんだ。俺の団のみんなと、あと面白い友人がいるんだ。きっとみんなも歓迎してくれるぞ」
「うん!」


泣き腫らした母親の女が駆け寄って来る。少年を静かに地面に下ろしてやり、再会を喜ぶ親子と仲間たちの様子を ハンターはいつまでも視界に焼き付けておきたいと願った。


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