モンハン夢 | ナノ
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ある夜


「ジュリアス」


10月ーー年柄年中と雪が降る我が故郷の村も、より一層の寒気に見舞われ、村に点在する数少ない家屋が二重窓を閉め、戸口にも灯を絶やさず、収穫の刈り入れを急ぎ、本番の冬季へ備えを見せ出す中
拠点としている本宅の灯りを最小限に落とした書斎にて ギルドに提出する調査報告書を纏めていると、同じく書斎のソファに腰掛け植物記録書を読んでいたパートナーが不意に声を上げた。名前を呼んだのだ、私の


「……何だろうか」


平静を装えていただろうか。じっと黙ったまま此方を見ている彼の瞳を見返してみるが、内心は鼓動を少し早められている。
彼が私の名前を口にしたことは、久しくなかった。彼を私の故郷の村に村付きハンターとして契約させ、住居を共にし始めてから今日まで、一度あったかどうかだろう。それ以前までの中では、あった。
彼に初めて自分のギルドカードを見せた時、こういう名前なのかと彼の声に載って聴こえて来た自分の名の音が、不思議と自分のもののように感じられなかったことを覚えている。それからは特に必要になる機会が無く、「リーダー」や「筆頭リーダー殿」と役職名のままだ。実際、私の名前を知る者は多くない。ギルドカードを交換したのも、以前チームを組んでいた3人と、師匠、そして彼だけ。名前で呼んだとしても周りが認知出来ないので無意味だろう。
二人きりの時、戯れに呼ばれたことは一、二度あった。そう、そして確かあの時にもー……


「…ジュリアス?」
「!」
「さっきからどうした? なんか、ぼんやりしてないか?」
「ぼ、ぼんやりなどしていない。大丈夫だ」
「それならいいけど」

「もう夜も更けてきたし、そろそろ寝ないか?って声かけてたのにお前上の空だったから、マジで疲れてんのかと思った」寝台まで抱えてやろうか?
ランプの灯りの向こう側で笑う彼の顔が眩しい。「け、結構だ」と上擦った声を上げると、肩を揺らしながら笑っている。

今日は一日非番…元より仕事という名目で彼が狩りに出かけることはなくなったが、モンスターの目撃情報も、村の者たちからの依頼も無く、彼は一日この家に居て今のように書斎で本を読んだり、アイルー達と戯れたり、武具の手入れをしたり、書斎に来てソファで寝転んだり、キッチンにリクエストを聞いて貰いポポシチューを食べたり、書斎に来て何をするでも無く静かに座っていたり……

「…もうこんな時間か。結局、1日では仕上がらなかった」

手元の書束をかき集めたが、まだギルドに送付することは出来ない。ラフな下書きを清書するのが苦手だと、書類業務に携わるようになって知った自分の苦手な物だった。


「お前、今日一日ずっと書斎にいたよな」
「そう…かもしれない」
「3日ぶりに我が家にいる俺のこと、もっと構ってくれてもよかったんだぞ?」
「う……」

いつの間にやら近寄って手を取られている。顔に熱が集まったのが自分でも分かり、「真っ赤だな」と指摘までされてしまう。そっとしておいてほしい。君に触れられることに自分が慣れる日など、きっと来ないのだから。

「……俺がさっきからお前の名前を呼んでた理由、言ってもいいか?」
「? あ、あぁ…」

節くれだち、重い武器を軽々と操り幾度も困難なクエストに挑みその手で全てを守ってきた彼の手が、今は壊れ物を扱うかのように、わたしを、


「…今夜一緒に寝ないかって、誘ってる」


彼の顔も、灯りではない赤に照らされていた。

返事を、しなければ。
共倒れのように真っ赤になり、頭と目が回ってしまう前に。


「……わたしも……ジーク、君と過ごし……た、い……のだが…… っ!?」


そこからはもう、灯りを頼りには出来なくなった。視界いっぱいに彼の……ジークの顔が見え、呼吸を奪われ、思考も回らない。
「ジュリ、アス」
切羽詰まったような声に呼ばれ、応と返すことも出来ず、もう何度としたように彼の首に手を回すしか出来なかった。

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