モンハン夢 | ナノ
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筆頭ルーキーとの他愛ない話


「 あれ」
「 おっ? へー!珍しいコトもあるんスねー」

多くのキャラバン隊や旅行者、又はハンターズギルドから派遣されてきたハンター達でごった返す此処バルバレは、今日も今日とて砂埃行き交うジリジリカラカラとした熱気に包まれていた。
第2の拠点であるドンドルマでの依頼が落ち着きを見せ、新しい仕事を受ける為にバルバレへ帰って来たのが2日前のこと。新しいクエストを受注し、目的地へ向かう砂上連絡船を捕まえる事が出来たのが今日の朝早い時間。
今回は大型モンスター二頭の狩猟依頼という事でいつものように入念な準備をし、キッチン長のもとで食事を済ませ、船着場にて迎えの船が来るのを他の搭乗者達と共に待っていた我らの団ハンターは、とある男の姿を認めた。筆頭ルーキーだ。

「アンタと同じ船に乗り合わせるなんて初じゃないッスか?」
「そう言えばそうだ。いつもはてんでバラバラに行動してるしな、ウチの団とそっちのチームは」

珍しいコトもあるもんだと頷いている筆頭ルーキーは、1人だ。仲間である他のチームのメンバーたちは今日は一緒ではないらしい。
優秀なハンターで構成された筆頭ハンターチーム内において「ルーキー」という呼称で呼ばれている彼はその名の示す通りまだまだ未熟なハンターで、およそ一人で行動している姿は見た事がない。いや、もしかすれば我らの団ハンターがあずかり知らぬ場所では単独任務に就くこともあるのだろうが。

「ていうかそっかー。アンタらもバルバレ入りしてたんスね〜。知ってたら探して、あの子に挨拶してたのに……」

ルーキーの言う「あの子」とは、我らの団の受付嬢のことだ。かねてより彼女に熱い好意を持っているルーキーは酷く残念そうに「うう…次会えるのはいつになるコトやら…」と泣き出しそうなほど顔を暗くしている。
何か元気づけられる言葉あるだろうかと我らの団ハンターが考えあぐねていると、連絡船が到着した。
乗り込もうとしている人々の波が一斉に動き出し、積み込もうとしている荷やガーグァ達が慌しくガタガタごとごとと振動を生み出す。

「ほら、ルーキー。俺たちも乗るぞ。受付嬢にはまた手紙を書いてやればいいじゃないか」
「え…なんでアンタ、オレがあの子に手紙送ってること知って…!?」
「これは秘密なんだが、お前から届いた手紙を彼女はすごく楽しそうに読んでるぞ」
「 ーーまっ!!!!」

マジすかーーー!?!

喜色に滲んだルーキーの叫び声がバルバレ中に木霊した気がした。もしかしたら受付嬢の耳にも届いたかも知れない。

武器と食料、携帯テントなど諸々の荷物を掴んで連絡船に乗り込むと、人の入りは7割以上と言ったところか。荷を置いて落ち着けるスペースはあるだろうかと目を向ければ、船頭の方に若干の空きがある。背後から大荷物(ルーキーは買い物が好きで、いつも手荷物が多いことで一部で有名だ)を背負ったルーキーが「ちょ…アンタ待つッス…!通して…!」と言いながら、すれ違う人々の間を謝りながら掻き分けてくる。どうやら船上でも共に過ごしたいようだ。こちらとしても話し相手が居るのは楽しい。今回はオトモアイルーにも休暇を与えたので一人での旅になるところだったから。

「こっちが空いてるみたいだぞ。ほら、荷物も貸せ」
「スマネっす…!」

フゥ、と何とか二人で船の手すり部分にまで辿り着き、背中を預け、ズルズルと座り込む。
座れてよかったと安堵していると、ルーキーが抱えてきた袋の中に手を突っ込み、「ん」と飲み水の入った水筒を差し出した。「ありがとう」お礼を言って受け取ると、ルーキーは「イイこと教えてもらったお礼ッスよ!」と楽しげだ。きっとそれが無くとも、彼はこの水筒を差し出してくれただろうが。

暫くすると砂上を行く連絡船は静かに動き出した。見送りに来た何人かのバルバレの者達が、船の上の者達に手を振っている姿が見える。そんな光景をぼうっと見ていたが、そう言えばと訊きたかったことをルーキーに訊ねるべく隣に腰かけている男に目を向ける。

「今日はルーキー1人なのか?他のみんなは?」
「そうっスよー。今回はオレ1人だけの呼び出しなんで、他のメンバーは一緒じゃない」
「珍しいんじゃないか?1人での単独クエストなんて」
「ああ、オレはクエストに向かってるわけじゃないって。ギルド本部への招集ッスよ」

ルーキーはあっけらかんと言ったが、ギルド本部への招集だなんてそうあるものでもない。我らの団ハンターはギルド付けのハンターではないが、筆頭ハンター達に課せられる任務の更新や報告などは手紙や各地のハンターズギルド支社で行うのが通例だと聞いたことがある。

「何かやらかしたのか?」

まさかそんな訳もあるまい、と笑いながら訊けばルーキーは「やってねっすよ!」と不満げだ。

「なんか…確か、今度行われる『新大陸』への大規模調査隊のメンバー選出にお前が選ばれたからではないかってリーダーが……」

『新大陸』『大規模調査隊』

その単語を耳にしても、我らの団ハンターにはピンとくるものではなかった。
それにこの口ぶりだと、ルーキーも詳細がまだ分かっていないようだ。詳しいことは本部で聞かされるのだろう。

「よく分からないが、重要そうな任務に就くってことは分かった」
「そーなんだよ!なんか年単位の任務になるみたいで……はぁ〜〜〜〜まだどうなるか分かんねッスけど、もし受けるとしたら任務前には必ずあの子に会おう…………」

己の本分と恋心を天秤にかけていじけているわけではなさそうだが、気落ちは少なからずしているらしい。

「でもルーキーだけなんだな、その調査隊メンバー?の推薦候補みたいなやつ。筆頭ガンナーとかそういう任務得意そうなイメージだけど」

優れた目を持ち、落ち着いた物腰の女性ハンターの姿を思い浮かべる。ルーキーは「いやいや」と首を振って応えた。

「皆それぞれジューヨーな任務を任されてるッスからねぇ。オレしかいなかったのかも」
「暇してたのか?」
「失礼ッスよ!!!」

心外だ、と声を荒げたルーキーの背後の砂漠で、ちょうどデルクスの群れが飛び跳ねた。「ウオッ!?」と驚いたルーキーは過ぎ去っていく群れに対してコラーー!と怒った。愉快な男だ。

しかし。はたと考える。

我らの団キャラバン面々と、筆頭ハンター達と結託してドンドルマの防衛任務に就いていたことが遠い昔のように感じる。

たまにドンドルマやバルバレで運良く顔を合わせられた時は労いの言葉をかけるが、彼らは……?彼 "はそう何度も何度も会える相手ではない。立場が違うのだから当然だが。
前に会ったのは何ヶ月前のことだったか。最後に見た彼は少し疲労の色が見え、美しく豊かな銀髪が靡く後ろ姿を見送っていた。

胸の内に僅かに生まれたこの感情を 人は寂しさと言うのだろうか。

「………」
「…」

黙り込んでしまった我らの団ハンターの姿を見て、ルーキーはやれやれと嘆息する。
こう見えても何もないが、ルーキーは人一倍周りを見て動くことが出来る男だ。空気を読み、人の流れを読み、己のやるべき事をやる。己の肉体は気配りの塊で出来ていると言っても過言じゃないぞと彼は自分を称する。

「…姐さんは今、狂竜ウイルスに汚染された新種モンスターの調査を任されてるッス」
「…! あ、そう、なのか」
「今までは発症例が見られなかったモンスターに感染の疑いがあるみたい。姐さんの調査が終わったら、またアンタに依頼が行くっスよ、絶対ね」
「ああ、任せてくれ」

狂竜ウイルス状態である大型モンスター討伐のパイオニアでもある我らの団ハンターには、その類のクエストを依頼されることが多々だ。実を言えば今我らの団ハンターが向かっているクエストの討伐対象も狂竜ウイルスに関係していた。

「ランサーとはここ暫く会えてないけど、なんでも" コーシンのキョーイクにボーサツされてるんだ "って前に連絡貰ったっすね」
「…後進の教育に忙殺か。弟子を取ったのか?ランサーは」
「弟子ってわけじゃあないみたいだけど、ランサーを慕って教えを請う奴は多いからなぁ。ランサー以外にも頼りになるセンセーは他にもいるって言うのに、みんなモグリなんだからなー」

ルーキーが得意げに語る。彼が思い浮かべているのは己が師匠のことだ。
我らの団ハンターはムズムズと自分の肩を揺する。

「そ、そうだよな。ランサーは確かに素晴らしい男だけど、師匠として仰ぐって言うならもう1人適役が……」
「で、そのリーダーは、なんだけど」


一拍おいたルーキーは、それはそれは 眩しい笑顔を浮かべる。


「 我らの団ハンターの話ばっかりしてるッス!」







「…………………… ………」
「そんな照れることないっすよ!ジジツだしー!」

何だろうかこの気恥ずかしさはと我らの団ハンターは今度は頭を抱えて膝を立て突っ伏すことになった。
確か以前、筆頭ランサーとの会話でもそのようなことをつたえられたことがある。
まさか、あれからずっと?変わらず?彼の話題の中心になっているのか?いや、幾らなんでもさすがにそれ以外のことだって話したりするだろう

「リーダー、手が空くとあんたの心配ばっかりしてるんだぜ。どこでどうしてるだろうかとか、怪我はしてないだろうかとか。そろそろ新しい情報に更新してあげてほしいんで、手紙とか書いたり、どう?」
「そ、そうだな……書くよ……」

弟子の彼がこう言うのだ、きっと何度もされている話なのだろう。手紙。確かにここ最近は送れていなかった。チャンスはあったのだが、書ける内容がないと思って。
しかし、どうやらそんな考えは杞憂な気もする。
きっとリーダーは、我らの団のハンターに関することならば、どんな話でも


「喜ぶッスよー!」
「わ、分かったって!」

" 想われている "
自覚するとこんなにも 幸せだ。


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