モンハン夢 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
君のせいだ


リーダーとルーキー、二人の乗った定期便はスムーズに目的地までの運行を果たした。海上の天気、波、風などの天候にも恵まれ、滞りなくナグリ村へと到着する。
背後に聳え立つ火山は、遠くから見ても活性化しているのが見て分かり、吹き上げられた噴煙が暗雲のように上空に立ち込め覆いかぶさっている。海へと流れ出した溶岩や熱の影響で温まった海水の上を渡り、桟橋に辿り着くとようやく地に足がつく。
ルーキーは先日訪れたようだが、リーダーにすると以前、ゴア・マガラ討伐任務の際に一度立ち寄って以来の来訪になる。相変わらず、職人たちが醸し出す独特の活気と熱気、その加工技術を目当てに足を運ぶ各地のハンターたちの往来など賑やかな様相を見せていた。
村の中を流れる溶岩から伝わって来る熱量を受け、米神に汗が滲んだ。


「こっちッスよリーダー! ここの工房の人が、新しく商売を始めたとかってー……」

慌しくルーキーがナグリ村の坂を駆け足で下りていく。
その後姿をゆっくりと追っていると、追いついた先の店の前で、何やら騒々しい声が飛び込んで来る。

「おや! アンタはこの間の筆頭ハンターさんじゃねえかい!」
「あー!この間の、工房のオッサン!」
「だぁれがオッサンだコンチクショー!ワハハ!また来たのかい、あんた!」
「うっすー!また来たっすよー!」
「そうかい!んじゃ今日こそはちゃんと買い物してってくれよぅ!金は持ってんだろうなぁ〜?」


やれやれ、どうやらまた店の者と交流を持っていたらしい。
なにか失礼なことはしてないだろうかと心配をしていると、「いいや違うっす!」とルーキーは勢いよく振り返り、バッと掌を背後に立っていたリーダーの方へと向けて得意げに笑った。


「今日は、自分のシショウがお買い物するんス!」
「ほう、こっちのオニイサンがかよぅ」
「…………」


急に流れがこちらへと傾き、いきなりのことに反応を返せず固まってしまう。
そしてようやく、「え、ええ」と頷くと工房の店主は「そうかい!」と大きく笑って大きな髭を揺らした。
「ほらリーダー!」ルーキーが背中を押して促す。
一歩、工房に足を踏み入れると村の中とはまた違う、室内に篭る熱気が感じられてきた。トンテンカン、トンテンカン、と小気味良いリズミカルな音がどこからともなく聴こえてくる。


「オニイサン、うちの工房を利用するのは初めてかい?」
「……ええ。話で伺ってはおりますが」
「そうかよぅ!ウチはな、主に鉱石を加工した装飾品がメーンの商品なんだ。でも他にも、皮で作る革製品なんかも取り扱ってる。ゆっくり見てってくれ!」


そう言われ、壁掛け式に陳列されてある商品の前へと誘導される。その後ろをニコニコした顔のルーキーが続く。元来、買い物好きであるルーキーは今この状況も楽しくて仕方がないのだろう。興味深そうに、思い思いに商品を見て回っていた。当初の目的を、よもや忘れてはいまいかと問い質したくなる。

この工房でやはり最初に目に飛び込んで来るのは、四方の壁を取り囲むようにして張り巡らされている壁にかかった装飾品の類だろう。
民間人ならば普段のアクセサリーとして使い、ハンターならば防具を身につけた際のちょっとしたワンポイントに用いる飾りとして人気があるのだと言う。全体的なデザインとしてはあまりゴテゴテしてはおらず、シンプルな枠組みの中に綺麗に加工された鉱石がはめ込まれているといった感じだ。


「………」

その壁を眺めながら、リーダーは手を顎にやって思い悩む。
確かにどれも素晴らしい品であることは明白だ。しかし、これを贈り物とし、彼に渡すのだと思うとやはりいまいちピンと来ない。大体にして疎いのだ。人に贈り物を渡すという行為そのものが未知なる行いである。よもや自分がこのような事で悩む日が来るなど想像すらしていなかった。

何とはなしに、腕に嵌めるタイプの装身具を手に取ってみる。
そして次に、これが、彼の腕に嵌められている様子を 頭の中で思い描いてみる。
………気恥ずかしい。それがまず最初に感じたことだ。
目敏くその様子を見つけた工房の店主が「イイのあったのかい?」と問いかけて来た為、慌てて品物を元あった位置に戻す。ワタワタといった様子が面白かったのか、髭を揺らしながら「まあゆっくり決めてくれや」と言って笑った。


「…………… ルーキー ちゃんと探してくれているのか」
「も、モチロンっすよ!めっちゃ目を回してるっす!!」
「……目は回さないでいい」


そう言いながらもルーキーは次々と首飾りや指輪を手に取ってみては、「う〜〜ん〜〜あのコに似合いそうなのはコッチ……いや、こっちか……」と唸り声を上げている。やはり完全にあいつの目的が逸れてしまっている。

……しかし、その様子を少し興味深く見ている自分にも問題があるだろうとリーダーは思った。
誰かに、何かを、好意を持って贈るという過程は、やはりルーキーのように心が逸るものなのだろうか。
それは自分の場合も、当てはまっているかと疑問に思ってみる。

心は逸っている。彼は喜んでくれるかと不安に思い、悩んでみたりしている。
それと同時に、きっと彼ならば本当に、何を贈っても「ありがとう」と言ってくれるだろうと。その時にするであろう表情までもが簡単に脳裏に思い浮かべることが出来てしまう、そんな自分が少々恐ろしくもあり不思議でもあった。


「…………」
「リ〜ダ〜!!」
「!! ……な、なんだ」

遠くの方から、ルーキーが手招きしている。何かの商品を見つけたらしい。
意味もなく咳払いをし、そちらに近づく。
その一画は鉱石類の加工品ではなく、先に聞いていたような、革製品が陳列されていた。


「前に来た時はちょうど品切れで見れてなかったッスけど、この革製のベルトお洒落っす!」
「どれ……」
「手触りイイな〜これ!自分用に買いたいくらいっすね……あー!こっちの額宛てもカッコイー!」
「………ルーキー、自分用を見繕うのは後にしてくれないか」
「ごめんなさいっすー!」


悪びれた様子はまるでない。あれこれと目移りしては次々に手に取って細かく見ていくルーキーの眼は真剣そのものだ。余程買い物を楽しみにしていたのか。
そこへ、やはり様子が気になるのか、店主が再び声をかけて来た。

「革製品で何か買おうって考えてるんなら、ちょうどいいのがあるぜお二人さん」
「何スか!?」
「……ルーキー」
「今朝方出来上がったばっかりなんだが、ハンターさん御用達!ハンターナイフを入れるベルト付きの鞘袋さ!」

そう言って店主が取り出したのは、真新しい鞘袋。ベルトから提げる形のそれは、従来のハンターが一般的に使っている物よりも革が厚く、耐熱仕様にもなっているらしい。また傷がつき難く、ちょっとやそっとのことではベルトが切れる心配はなく、長期に渡っての使用を見越した作りになっているのだと店主は熱く語ってくれた。
店主の熱弁が店の外にまで届いたのか、何やら店の入り口の方が少し騒がしい。


「自信作なんだぜ!あんまりに出来がイイから売っちまうのが勿体無いくらいってな、ワハハ!」

「うお〜!イイっすよコレ!この手触り!何の皮なんすか〜?」
「そいつは言えねぇなぁ! なんつってな!」
「ハハハ!店主もお茶目サンっすね〜!」

賑やかな者達はさておき、実際に手に取って確かめてみたがなるほど確かにこれは良い品だ。作りも言うようにしっかりとしているし、材料が上質であるため、簡素であるが高級感と言うのだろうか、それを感じられる。色もシンプルに纏められているが、どんな防具とも浮かずに合わせられるようにしているようだ。

店主はどうやら我々が「自分用」のものを買いに来ているのだと思っているようだが、こちらは贈り物を選びに来ている。
果たしてこれは、彼に贈ったとして気に入ってもらえるだろうか。そもそも、彼のハンターナイフ周りの事情はどうなっていただろう。困窮しているような様子は見たことは無いが、新しく贈って不要になるようなものでもない。ハンター職に就いてから変えていないのなら多少なりとも磨耗はしているはずだ。


「…………店主 こちらをいただけるだろうか」

「おっ!気に入ってくれたのかいオニイサン!」
「それに決めたんスねリーダー!いいな〜それ!」
「ああ」
「いいぜいいぜ、オニイサンみたいな人に貰われるってんならおれっちも嬉しいさ!」


髭を揺らしながら笑う店主に品物の代金を支払う。自分用以外で何かに金を使うのはとても久しぶりなような気がした。

支払を済ませているその間も、ルーキーは装飾品の壁をジロジロと見てはあれこれと唸っている。好意を持っている者に何を贈ろうかあれほど悩んで悩んで悩み抜いている時間が、楽しいものなのかも知れない。生憎、自分にはまだよく分からないが。


「じゃあこれが商品だな。どうする、持ち帰りやすいように何かに入れるかい?」
「……ああ、それならば何か、贈答用にしてもらえたりは……」




「 よう、どうしたんだ筆頭リーダー 誰かに贈り物か?」




「!?!! な、あっ、…!? き、君!なぜここにいる!?」
「あー!アンタじゃんか!おひさー」
「おう、お久。 何故って、俺ナグリ村の人の依頼で、クエストに来てたんだけど。言ってなかったっけ?」


キョトンとした顔で、手を振って応える男――我らの団ハンターは確かに防具に身を包み、武器を背負ったままの格好で音もなくリーダーの背後に立っていた。

「さっきこの工房の前を通りかかろうとしたらさ、なんか聞き覚えのある大きな声が聴こえてきたから覗いてみたんだ。まさか、お前までいるとは思わなかったけどな」
「な、あ、そ……」
「それで、こんなところで何を買ってたんだ? ……おお!もしかして、ハンターナイフ用の鞘袋か?」
「……!!」
「いいよなーそれ 俺も気になってたんだ」


我らの団ハンターの突然の登場に今だ驚きと硬直状態から抜け出せないでいるリーダーを置き、あれやこれやとハンターは話しかけていた。相手の反応が無くても構う様子はない。余程、リーダーがこのような場所にいることが珍しいようだ。
そしてまた、本当に鞘袋が気になっていたらしく、リーダーの手に抱えられているそれを覗き込もうと顔を近づけてくる。


「!!」
「……? どうして今顔を背けたんだ?」
「な、な、何でもない!驚いただけだ!」
「? そっか」


どうする、どうする、どうする!
筆頭リーダーの脳内はいまその言葉を何度も何度も繰り返すだけ。突発事項に対処できない、そんなバカなこと!

慌てふためいているリーダーの背中を 誰かがちょんちょんと小突く。チラリと視線を流せば、ルーキーが拳を握り、しきりに口を動かして何事か伝えたがっていた。

 が、ん、ば っす よ !

やけに片目をぎこちなく瞑ってみせる。ウィンクのつもりなのだろうが、出来ていない。


しかし、そうだ。これは違う、自分用に購入した物ではない。
彼に、
目の前にいる彼に、渡そうと購入したものじゃないか


「こ………!」
「ん? どうした?」
「こ………れ、を…………」
「これが何だ?」


――受け取って、くれないか


「受け、と………く……」
「……… ああ、もしかして!」
「…?」

「それを自分に付けてほしいのか?」

「!?」
「背中側につけるから、自分じゃ中々身につけづらいもんな。いいぞ、貸してみろって」

違う違うちがう! 完全なる勘違い、間違いなく誤解だ!
差し出されている手と、任せろというような笑顔がまたこちらの焦りと羞恥を掻き立てる。碌に言葉を紡げないからこうなった、よく分かっている!分かってはいるが、そうではない!


「ち、違うんだ!」
「え 違うのか?」
「こ、れは、君に!」
「………え おれ? 俺に?」
「そう!そうだ!それ以外の用途も、意味もない!君に贈るために買ったものだ!」


半ば吐き棄てるように、そして強引に手の内にあったものを彼の腕の中へと些か乱暴に押し付ける。
自分でしたその態度に後悔が生まれたが、直後それは霧散する。


「……え、マジで? 俺にくれんの?  うっわ!嬉しい!ありがとなリーダー!」

「う……!」
「まさかなんか貰えるとか思ってなかった!マジで嬉しい! 大切にするよ」


――何だろうか。いま、胸を駆け巡っていくこの、感覚は。

ある種の達成感のような、渡した側であるはずなのに幸福感のような、喜びのような、むず痒さは一体。

どうにも胸がそれらで一杯で、上手く言葉が紡げない状態が続いている。どうにか、「そう、か」とだけ返すことが出来た。背後からルーキーが両拳を握ってグッドサインを送って来る。


「え、でもこれなんでだ? 何のプレゼント?」
「……こ、この間、ピアスを受け取ったことへのお礼を、と……」
「ああなんだ、そんなこと。あれは俺の自己満だったのに」


「や、でも本当に嬉しい。ビックリだ。ありがと」


……ああ、やはりどうしてだろう。
達成感と幸福感とむず痒さと気恥ずかしさと、

あと、
顔を覆ってこの場から逃げ出したくて、たまらない。

君の喜ぶ顔を ずっと見ていたいのに、見ていられないんだ。





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