モンハン夢 | ナノ
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!3周年企画作品
!これの続き

―――

始まりは、筆頭ルーキーの"何気ない一言"だった。



「リーダー! そのピアス、どうしたんスか!?」


個人任務に出かけていたルーキーが久方ぶりに復興作業を続けるドンドルマへと合流し、作業指揮を執っていたリーダーの耳から下げられていた真新しいピアスを目敏く見つけた。
弟子に問いかけられたリーダーは幾分、困ったような、言いよどむような表情を見せた後、無意味に咳払いを零し、「彼から、貰った」と一言。リーダーの言う「彼」がどの人物のことを指す言葉であるのか理解しているルーキーは、パァっと顔を明るくさせる。

「プレゼントされたってコトっすか!」
「ああ」
「うわぁ〜マジっすかいいなあー!」

それが彼――我らの団ハンターの手作りであること、以前失くしたピアスのことを気にかけ、それの後継になればと贈られたものだということを聞き出したルーキーはしきりに頷いていた。「あの人も案外、気が利くトコあるんだな〜」としたり顔だ。

 誰かにこれを指摘されると、存外気分が良い。

リーダーはほんの少しだけ笑みを浮かべ、
そろそろ昼下がりだ昼飯を取るかとしたところで、「あ、じゃあ」とルーキーが手をポンと叩く。


「やっぱリーダーも、そのお返しとかしちゃおうって考えたりしてるッすか?」







「……お、…かえ、し……?」

「? お返しっすよ。お礼ッス、お礼!」
「お、お礼……」
「?」
「……や、やはり、そうすることが良いのか」
「え、だって好意には報いなきゃダメでしょ? それに、自分だけ貰いっぱなしっての、なんだかムズムズしないッスか?自分はするっす!あー、恩受けたまんまだー返さないとーって」


胸を張ってそう主張する弟子の姿はなぜだか普段よりも数倍大きく見えていた。ルーキーの言葉がリーダーの頭に深く伸し掛かってくる。心なしか、耳から下がっているピアスにも重みが増したような気さえしていた。
"お返し"
そう、確かにそれをまるで考えなかったわけではない。贈り物を貰ったその日の夜、就寝前に外しテーブルの上に置いたそれを見つめながら、お礼をしなければと考えた。しかしその日はいつもより重労働が続き、疲労困憊ですぐに睡眠が訪れてしまった。起床してからも忙しい日々が続き、いつしか脳の片隅に追いやってしまっていたのだろう。指摘され、ようやく思い出す。彼から贈り物をされてから、早一週間は経過していた。


「………返礼をする」
やけに重々しい声が、至極シンプルな言葉を紡ぐ。
それを受け、ルーキーは楽しそうに拳を握った。
「そうッス!それがれ…れ…礼儀だと思うっすよ!」
「そうだな」

不肖の弟子だと思っていたが、こういった部分では自分よりも経験は豊富だろうとリーダーは考える。
何故なら、「誰かから贈り物を受け取り」、「それに対してお礼を返す」など、かつて経験したことがないからだ。とてもではないが、一人で解決できるとは思えない。やはり協力者がいるだろう。
最も声をかけやすく、頼りに想っている人物には今回頼れない。

「……ルーキー 今回のことに関して、いくつか相談したい事柄がある」
「水臭いッスよリーダー!自分がなんでも相談訊くっす!」
「………ああ」

ドンドルマの大通りに、元気な弟子の声が響き渡る。通行人たちの好奇の視線を浴びながら、リーダーは眉間に皺を寄せた。心なしか頭も痛い気がする。こいつに頼って大丈夫だろうかと少しだけ不安に思いながら。




※※※




「やっぱりぃ、物を貰ったんなら、こっちも物で返すべきだと思う!」
「そういうものか。言葉や、行動で返すのではなく」
「それが一番分かりやすいし、手っ取り早い気がするっす! あと、楽チン」
「ふむ……」

相談のために大通りから他の者達で賑わうアリーナ内の酒場に移動した二人。
得意げに熱弁するルーキーの言葉は多少強引だが説得力はあるような気がした。メモを持参していなかったことを悔い、「物品でお礼か」とリーダーは言葉を反芻する。

これまでの人生、一度もそんなことを考えたことすらない。


「……何を、贈ればよいのだろう」
「うーん、やっぱり本人が欲しがってるモノがベターっすよね。でもあの人、なに欲しいんだろ……」
「………」
「本人に直接訊いてみるッすか?」
「それは出来ん。彼は先日からクエストに発っている。戻りは五日後の予定だと伺っている」
「ん〜〜カンジンな時に〜〜 じゃあ、我らの団のトコの団長さんかぁ、それかあのコに訊いてみたりとか〜〜」

"あのコ"と口にしたところで露骨に顔をデレデレさせたルーキー
しかしリーダーはそんなルーキーの様子に意識を向けられず、顎に拳を当てて「それも駄目だ」と否定した。

「どうしてっすか!あの人たちならさっき広場で手伝いしてるトコ見たからいるっすよ」
「……いや……その……何故かあまり、こう……大事には……」
「 ――ああ!あんまし皆に知られたくないってコトっすね!」
「……そう捉えてくれて構わん。出来るだけ内密に頼む」
「リョーカイっす! へへ、じゃあ自分の肩に責任が乗ってるってコトっすね!うーん、責任重大ッスー!!」
「……静かにしないか」

責任重大だというのに楽しげな様子の、今のところの唯一の相談相手にホッとする。

ルーキーはその後も、得意げに自分の経験談を踏まえながら話して聞かせた。

「なんだか自分があのコに宝玉を贈ったときのことを思い出すッス。喜んでくれてたな〜あのコ」
「……ハンター同士の間での素材類の譲渡はご法度だ。それに…… こう言っては何だが、彼にモンスターの素材などを渡しても、喜びはしない気がするのは私の思い違いだろうか」
「あー…確かに、あの人なら腐らせるほど余ってそうッス。ブナンに考えるッス」

無難。
それが一番難しい気がしてならない。
思わず額に手をついてしまう。そんなリーダーの姿を見て、慌て始めたルーキーは「で、でも!」と声を上げた。

「あの人なら、リーダーが渡すモノなら何でも大喜びしそうなところあるッス!」
「………本当にか…? いや、そのような事は……」
「あー!それじゃあいつまで経っても話が前に進まない! こうなったら直接、お店に行ってから考えるっすよ!直に品物を手に取ってウンウン唸るほうがまだ効率的だ!」

もっともらしいことを言う。そう言われればそのような感じがしてくるので、余程自分はいま困った状態にあるのだろうと客観的に己を鑑みてリーダーはそう思った。
しかし、先ほど「あまり周りには知られたくない」と言ったばかりだった。
ドンドルマの雑貨屋などを見て回れば、すぐに街全体にその様子が知れ渡ってしまいそうだ。それに武器屋の女店主。彼女は以前のプレゼントの顛末を知っている。きっと声をかけてくるだろう。そうなった場合、上手く対処できる自信がない。こうなってくると、どうにも自分がとても情けない生き物のように思えてならなかった。


「……ルーキー」
「なんすか?」
「今は、頼れるのはお前だけだ」
「うは、嬉しいッスー!! フフンわーかってるっす、ちゃんと幾つか贈り物に最適っぽいやつの目星は頭の中でつけてたっすよ。泥舟に乗った気で任せてください!」
「それを言うなら大船だ。――何処へ行こうとしている?」
「実はこの間の個人任務で行っていたナグリ村で、ちょっと気になるモノを商品に陳列してたんすよ工房が。そん時は時間がなくてすぐに出発しちゃってんでよく見れなかったっすけど、何でもナグリ村近くの火山で純度の良い、綺麗なマカライト鉱石が大量に見つかったとかで、それを加工したアクセサリーがいま若い女性ハンターを中心に流行ってるとか何とか……」

マカライト鉱石。彼が贈ってくれたピアスにもあしらわれているものだ。
以前はその硬度が重要視され、武器や防具に用いられ加工されることがメジャーな流用方法だったが、最近は純度の高いマカライト鉱石に見られる、深い青色を湛えた石の部分を装身具に使用することが、現在のトレンドの一端となっていると言う。また、一部の地域ではお守りとしても扱われ、戦いに赴く者に渡すこととしても知られているようだった。

「――と、まあ、とりあえずは百聞一見に如かず!早速ナグリ村に行きましょうよリーダー!」
「待て、ドンドルマでの作業指示の任があるんだ、そう簡単に……」

「 話は聞かせてもらったよ、二人とも」

「!?」
「あ、センパイ!いつからそこに!」
「つい先ほどだよ。詳しい事情は分からないが、暫くドンドルマを留守にするのだろう?なら戻って来るまでは私が後任を勤めよう」

いつも手にしているバベルは自室にでも置いてきたのか、今は比較的軽装姿のランサーが二人の背後でにこやかに立っていた。大方、喉を潤しに飲み物をいただきに来ていたんだろう。
有り難い申し出だった。しかし素直に受け取ることは叶わない性格なのがリーダーである。
ランサーはそう思っていた。しかし、実際のリーダーはランサーの予想とは少しだけ違っていたようだ。


「……では、少しの間お願いします先輩」
「……おや はは、ああ勿論。任せてくれたまえよ」

珍しいね、という言葉を飲み込む。そんなことは、本人が一番よく分かっているんだろう。

「詳しくは聞かないけれど、ガンナーには会わない方がいいだろうな」
「どうしてッスか?」
「彼女なら君たち二人の顔を見ただけで、全ての事情を察してしまいそうだからさ」













―――かくして、リーダーとルーキーの二人は、ドンドルマから出ている定期便に乗り込み一路ナグリ村を目指す。
目的地に着くまでの間も、二人は喧々諤々と論議を交し合った。
議題の中心となったのは、いずれも"我らの団ハンター"が多々だった。



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