モンハン夢 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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黄金色


砂を駆ける砂上船に乗り込み、意気揚々と戻って来たバルバレを通り抜け、今回の目的物のある遺跡平原へと二人が到着したのは昼過ぎを迎えてからだった。
それなりの距離の船旅をした後にも関わらず、我らの団ハンターは鼻歌混じりに設営されているベースキャンプの支給品BOXから、必要もないだろうに地図を取り出し見慣れた図面に眼を走らせている。
反面、筆頭リーダーはと言えば、こちらもまた心なしか浮き足立っているようだった。ハンターズギルドから受けた指令以外の普通のクエストにこうして誰かと共に行くのは久方ぶりなのだ。最後に同行したのが、己の師匠となる存在とであったので、尚更。


「 さて、雑貨屋の店主から頼まれてる薬草は、此処から出てすぐのエリア1で採集出来る量で充分事足りるだろうから、楽勝もいいところだな。増して、今回は二人ペアなことだし、仮にエリア1だけじゃ足りなくてもすぐに終わらせられるな」
「そうだな。幸いにしてギルドの気球観測部隊からも大型モンスターの姿は発見されていないようだし、何の問題もないはずだ」
「おし、行こうぜ」
「ああ」


頷きあって立ち上がる。何となくいつもの狩りの癖で、愛用武器の調子を見てしまう。


ベースキャンプからエリア1に通じる細長い一本道を下る。
左手に見える小規模な池で悠々と泳ぐ魚たち。チチチ、と鳴く鳥の声。
それ以外は、岩場の間を通り抜ける風の音がし、それに乗って草木の揺れる音しか聴こえない。

いつ此処へきても、この場所はとても穏やかだ。
この平原地帯を抜ければ、高低差の激しい立地と渓谷が待っているとは思えないほどに。


そんな道を ハンターは今日、二人で歩いている。
オトモのアイルーとではなく、彼と。


「…………何か?」
「――ん。 え? なんだ?」
「君が視線を送っていただろう。私の顔に何かついているのか?」
「 ああ、すまん。そんな事はない。お前の顔を見てただけだよ」
「………何のために?」
「え、そりゃお前………。…見たかったからだよ、何となく」
「そ…う言う、ものか」
「ああ、そうそう、そういうもんだ」
「そうか。…興味深いな。いや、理解が難しいと言うべきか……」


実際に、ハンターは不思議な感覚で一杯だった。
何となく、リーダーとはこうして肩を並べてフィールドを探索することになるとは、あまり想像していない光景であった。理由を問われると上手く答えられないが。

きっと筆頭ハンターに在籍し、ゴア・マガラの存在を追っていた時にもこんな風に遺跡平原を彼も渡り歩いていたんだろう。今のように、黄金の平原を歩きながら。

ベースキャンプを抜けて到着したこの色彩の空間内に立つ彼の真っ青な姿がどうしてだか眼に焼きついて離れない。初めて見る光景だからだろうか。物珍しさから、そうなってしまうんだろうか。分からない。


「―――君。 どうした。クエストはもう始まっているんだ、集中しろ」
「………薬草採取クエなのに?」
「薬草採取のクエストでも、だ」


やれやれ。嘆息したリーダーはそのままハンターを置いてスタスタと歩いて行く。


エリア1に到着して早々、途中、食事中のアプトノスの親子と擦れ違う。
その子どもが鼻をひくつかせている様子を見て、ハンターは「よし」と声を発した。
静かにアプトノスの後ろを歩きながら、やがて親子が平原のとある一箇所で立ち止まり、長い首をもたげて地面をつつく仕草を見せる。
その親子達の背後にしゃがみ込み、隙を窺っていると、リーダーが覗き込むようにして問いかけて来た。


「何をしているんだ?」
「アプトノスが探り当てた薬草は普通の薬草よりも旨味が増す」
「そうなのか?」
「……ような気が俺はしてるから、いつも薬草を採取するときはアプトノスが選んだものを失敬するようにしている」
「……なるほど」

草を食んでいたアプトノスの一頭が、話していた俺たちの存在に気がついて振り向いた。
グオゥ、と短く鳴いたが、俺が手を立てて「ごめんな。ちょっとだけ、餌を分けてくれるか?」と言えば理解したのか、敵意がないと察したのか、『仕方ない』と言わんばかりに大きな身体を横にずらしてスペースを作ってくれた。無言で食事を再開した親子の横から手を伸ばし、最低限の量を確保する。

「……君は、採取クエストの時でさえもモンスターと自ら関わって行くのか?」
「いや、こんな事そうそうないって。いつもはオトモが見つけて来てくれることの方が多いかな」
「そうか。……そう言えば、そのオトモアイルー殿は今日はどうしたんだ?」
「確か筆頭ランサーのところへ遊びに……や、顔を見せに行くって言ってたような」
「彼は先輩に本当によく懐いているようだな」
「本当にな。でもまあいいじゃないか。あいつの槍の師匠なんだ、慕ってて当然だろ。会いたくて自分から会いに行ってるあいつを見てると微笑ましいさ」
「………」

エリア1で採れるだけの薬草を回収し終え、あとまだ少し足りないから次のエリアに向かう。あらかじめ用意していた小袋に薬草を詰めて歩き出すと、横をついて来ていたリーダーが、顎に指をかけながら、妙に神妙そうに話しかけて来た。


「……君は、誰かに会いたくなるような時はないか」
「 誰かに? 会いたく…?」

「私は、時たまだが、師匠にお会いしたくなる時がある。それは元気そうなお顔を見て安心がしたいという気持ちと、自分の不甲斐なさを諌めてほしい時が主だった理由だが、……君には、そう言った者は 誰かいないのだろうか」

問いかけるリーダーの眼はいつになく真剣だ。

どうして突然そんなことを訊く、とは思わない。
彼が彼なりに、自分のことを心配してくれているからの発言なのだと理解しているからだ。

リーダーはいつもそうだ。
クエストに行くハンターを クエストから帰って来たハンターを いつも心配している。
「言葉が足りない」「無口」「ぶっきらぼう」だと評されることの多い彼なりの、最大限の友愛の証でもある。

おそらくだが、リーダーは足りていないのかも知れない。
幾ら言葉を並べ、意識を傾けても、連日のように高難度のクエストへと赴く我らの団ハンターの身を心配しきれていない。


「 のんびり穏やかな採取クエ中にするような話じゃないな?」
「……こういう機会だからこそ訊ねてみたかった。君とこういった時間を取ることは中々難しいから……」

確かに最近は、大老殿のクエスト消化に追われるばかりで、防衛後のドンドルマの後処理や街の修繕やらに手を貸せていなかった。マイルームにさえ殆ど帰っていない。

リーダーが心配をし、心労を溜めてしまうのも、無理ないわけだ。

だがしかし、だ。


「俺は、"誰かに会いに行きたくなる"時はない」
「……そう なのか」
「ああ」


「なんせ、向こうから会いに来てくれるからな」

ハンターの言葉に、眼を真ん丸く開けパチクリと瞬きをするリーダー。

「俺が自分でも気付かない、無意識の内に溜め込んでいた疲れとか、ストレスなんかがピークに達して破裂する!っていうタイミングを見計らったみたいに、
お前や、団の皆が、俺に言ってくれるんだ。 "大丈夫か?"、"無理するなよ" 団長なら"飲みに行こう!"、料理長なら"飯を食いに来い"、お嬢なら"お話を聞かせてください"、そしてお前がえらく遠回しに"最近無理が続いてるようだからそろそろ休んでもらおうか"ってな」

いつもそれに気がついていた。有り難く思っていた。けれどどこか本心ではなかった。
自覚しないまま、それが「必要」だと思っていなかったのかも知れない。
理解し自覚して、初めて思う。
それを「必要」だと思えていなかったこれまでの心理は、人間としてかなり"危うい"ものだったんだろう。

そのことに今、なんとなくだが気がつくことができた。きっかけを持ち出してくれたのはリーダーだが。


「………私の言い分は遠回しだったのか」
「おい、そこからか? こう言っちゃなんだが、お前はいつも遠回しというか、肝心なことを上手く言葉に出来ていないんだ。……って、俺が偉そうに言えたモンでもないけどな」
「そ、そうか……善処しよう…」




「……ああそうだ」
「?」

「俺もたまに 長期のクエストに行ってる時、顔が見たくなる奴がいる」
「……そうか。やはり君にもそう言った者がいてもおかしくはな、」
「なかなか戻らない俺のことが心配になって、泣いてやしねぇかなって」
「……?」
「そう思うと、ああ早く帰ってやろうって、頑張れる」
「…、…大切に思っているのだな、その者のことを」


「……ああ、大切だ。とっても」


「……そうか」



その者が、少しばかりうらやましいな。 小さな声が金色の野を駆け巡る風によって運ばれる。けれど隣に立つ者のもとへは、しっかりとその声は届いている。
ハンターは己の心の中で小さく、隣に立つ者に初めて悪態を吐いた。ばか、全く分かってねぇ、と。


何とも形容の難しい空気は、さすがの遺跡平原の風でも押し流してはくれないみたいだ。
どうか、残りの薬草を全て採取し終えた頃には、元の流れに戻っていてくれよと、ハンターはほんの少し赤い顔を隣の男の眼から隠しながら、そう願うしかなかった。


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