モンハン夢 | ナノ
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暮れなずむ


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―――

数日前にクエストが完了し、つい昨日の夜にドンドルマへと帰って来た自分のもとに、ルームサービスのアイルーがおずおずと留守中に届いたとされる手紙を渡してきた。
今回のクエスト依頼者でもあった、わがままな第三王女、のお付きの者だと言う男からの礼状だ。
曰く、
前略 ハンター様のご尽力により受け取りました、上質な金獅子の毛皮で作られた外套を王女様はいたく気に入られたようで大変お喜びになられております。あの様子ですと、向こう一週間は気まぐれを起こさずにいてくれるかと思われます。ハンター様、此度のクエスト受領ならびに完遂、誠に有難う御座いました。また機会に恵まれましたら、その時もよろしくお願いいたします
丁寧に封をされた質のいい用紙から滲み出る、「王女様の我侭にいつもいつも付き合ってくれてありがとう助かる」と言った思いが伝わって来るようで、常日頃から王女に無理難題を押し付けられているであろうお付きの人たちの方がする苦労こそ甚大だろう。
そういう点では、王女の押し付けて来るクエスト内容など、ハンターをしている自分にとっては然程の問題ではない。要は、自分はただ指定されたモンスターを狩り、必要な素材を集めるだけでいい。ハンターがモンスターたちと、どんな風に命のやり取りをしているかなど敢えて伝えることでもないと思っている。自分が賭けた命の分だけ、何処かの誰かが救われているのなら、ハンター冥利に尽きると言うものだ。



が、しかし。
自分はそれで構わないと思っているのだが、やはり"彼"はそれを良しとはしてくれないらしい。


自宅のマイルームから出て一歩 家の前で陣取っていたと思しき彼は、朝の挨拶もそこそこに、いつものように眉を寄せに寄せたしかめっ面を浮かべ「いい加減にしないか」そう怒った。その様子が可笑しくて、ついつい俺は笑ってしまう。


「………何も可笑しなことは言っていないつもりだが」
「 ああ、そうだな。悪い悪い」
不可解だと言いたげに、ほんの少しだけ口元を歪めた彼――友人である筆頭リーダー殿は、ゴホンとひとつ咳払いをして場の空気を入れ替えを試みる。
「…………書記官殿から聞いた。君は最近、またも大老殿のクエストばかりを受注しているようだな」
「クエストを受けられる資格を持つハンターが今は少なくて、てんてこ舞いならしいんだよ。手伝いたいじゃないか。………こんな会話を、前もお前としたような気がするな」
「そのような気がするのなら、少しはこちらの意も汲んで貰えないか。最近の君は、難度の高い依頼ばかり受けている。休養を取ることも疎かにしていると聞いているが?」
「……そう言えば、お前も最近はハンターズギルドに戻ってそっちの調査を受けたり、ドンドルマに戻って来てはこっちで防衛と探索任務をこなしてと、あっちこっち行き来しまくってるんだってな?そっちこそちゃんと休み取れてるのか? クエスト出立前にお前の姿がこっちにないと、どうも後ろ髪引かれながら出発するから気がかりなんだ」
「……………………わ、たしのことは二の次で構わない。……少なくとも、君よりかは充分に休息を取れている」

おっと、墓穴を掘ったようだ。筆頭リーダーの目つきが胡乱になる。さすがに今回はそう簡単に話を流させてくれないらしい。

彼の言うことは正論、ご尤もというやつだ。
クエストを完了させ、帰って来るとまた新しいクエストの依頼が出来ていて、しかも緊急性の高いものが多くすぐに出発して現地に向かわなければならないものが多い。
まあ中には、闘技場での賭け事や、別のハンター達から横流しにされてきたクエストやらが多く、そういうものにはまあ多少の辟易をするのだが。

「それで?つまりお前は何を言いたいんだ」
「合間を見つけては休んでくれと言うことだ!何も、君ばかりが連続してクエストに駆り出されることはない!」


彼の眉間の皺が更に深くなる。
こんな表情をさせてしまっているのは自分なんだと思うと、申し訳なさが心に生まれてくる。


俺は、人の助けになることが好きだ。俺の生き甲斐だと言っても過言ではない。
住んでいた村をモンスターに襲われ、家と家族を失い彷徨っていたまだ小さかった俺のことを助けてくれた見ず知らずの人たちから貰った優しさと救いの手を 自分も誰かに差し伸べられたらと、そう思って就いたハンターと言う職業。これが自分にとって天職で、モンスターの存在によって人々が被っている問題を自分が解決してやれ、それで相手が喜んでくれるなら何も苦ではないんだ。

だけれど、人々の助けになりたくて生きている俺を見て、こいつが胸を痛め、顔を暗くさせてしまうことこそ、俺の本意ではない。
出来ることならば彼の言うようにしてやりたいし、別にクエストに向かうことを強情に貫き通すほどのものでも、ないのだ、が。




「おっとお? ハンターさんに、筆頭リーダーさんがた!」


「!!」
「 ああ、おはようございます、店主」
「……おはようございます」

俺たちの間に突如として割って入って来た声の主は、ドンドルマ唯一の雑貨屋の主人だった。「おう、おはようさん!」と快活に、手を振って駆け寄ってくる。


「珍しいねえ、お二人さん。喧嘩かい?」

「けっ…!?」
「いや、そんな事ないですよ。 それより、どうしたんです?店番はいいんですか?」
「おう、実は今からハンターさんとこの緑のお嬢さんのところへ行こうとしててな」
「お嬢のところに? もしかして、何かクエスト依頼ですか?」
「おっ!さすがハンターさん、察しがいいねえ! ついさっき中央広場で筆頭ルーキーさんに会って同じ話をしたら、『あの子に会いに行くなんて、つまりは逢引っすね!?』なーんて絡まれちまってなあ!」
「…! あいつは全く…… ……申し訳ない。後ほど、私の方からもきつく言い聞かせておきます」
「いやなに、そこまでの事じゃねえよう」

ワハハと腹を揺らしながら笑い、雑貨屋の店主は更に大きく手を振った。確かに、彼の手には、クエスト依頼文書らしきものが握られていた。
 もしかして、何か問題が起きたのだろうか。
俺は先ほどまでの筆頭リーダーとのやり取りを完全に頭の外に追いやりながら、雑貨屋店主を引き止めてクエストの詳細を聞き出す。

「何かあったんですか? もしかして、商品の流通経路上に大型モンスターが巣を作ったとか、立ち往生してるとか。俺で良ければ話を聞きま…」
「! 君はまた…! さっきの私の言葉を もう忘れてしまったのか!?」
「違う、そんな事はないって!ちょっと話を聞いてみようとしてるだけだろ」
「それはもう既に君の中では、"首を突っ込んでいる状態"と呼んで相違ないだろう! 君がそうやって街の人から話や相談事を聞いて、断ったことがあるか!?」
「ぐ……そ、れは、だな………まあ、あっただろそんなことも、」
「主張を遮るようで申し訳ないが、私の口から言わせてもらおう。なかった。一度もだ」
「……………そうだな」

「なんだなんだ? やっぱり喧嘩してたのかい?」

ムスッと押し黙ってしまった筆頭リーダーが、ここまでこんな言動をしているのは、はっきり言ってとても珍しい。と言うより初めて見るだろう。
こいつも、まず"人々のために"動く男だ。困っている人がいれば率先して手を貸すように動いている。まあ生来の口下手さが災いして人との対応に困っている様子も見るが、本質的には俺と似ているのだ。
そんなこいつが、目の前にいる「困っている状態」の店主を前にして、ここまで俺に「このクエストを受けることは控えろ」と言っている。余程、こいつの中の俺に対する、何かこう、心労のようなものが蓄積していたんだろうか。


「………喧嘩ってほどじゃないんです、彼はただ、俺の心配をしてくれているだけですから」
「…、…」
「心配?……ああ、なるほどな。俺たちも最近のハンターさんは働き者過ぎだって、街の皆で話していたよ。 けどよ、安心してくれって言うのも妙だが、俺の頼みたいことってのは大老殿に送られるような難しいモンじゃないさ」
「難しくないというと、指定モンスター一頭だけの狩猟とか、捕獲クエとかですか?」
「……待ってくれ。君の中の"難しくない"という基準はどうなっている」

驚いた声で俺の肩を掴んで来た筆頭リーダー
だが雑貨屋の店主は「違う違う!もっと簡単さ!」と言って、持っていたクエスト依頼書を広げて見せてきた。ついつい、そこに書かれた文字を 反射的に眼で追う。


「えー、と…なになに…… 『遺跡平原に生えている薬草10個の採取』……え、採取クエですか?」

「そうさぁ! うちを利用してった流れの旅人に聞いたんだ。遺跡平原の薬草を使って作ったお茶がめちゃくちゃ美味いってよう! オレも最近リンゴばっかりの主食を気にし始めてて、健康を目的とした食べ物を食に取り入れてみようと思ってな!」
「なるほど」

筆頭リーダーが深く頷く。「私も一度口にしたことがありますが、あれは中々の物でした」そして雑貨屋に太鼓判を押し、店主の機嫌を良くさせた。

「どうだいハンターさん!ひとつ受けてもらっちゃあくれねぇか!」


「え、っと……」


どうしてだか、俺は言葉を詰まらせてしまう。
何と言えばいいんだろうか、この感情を。
"拍子抜け"? いやまさか。人の願いの大小に抜けるも抜けないもあるものか。


そうして返事が遅れた俺の肩にポンと柔らかく手を置いた筆頭リーダー。
見れば、先ほどとは打って変わった穏やかな顔つきをしていた。


「このクエストを君は受けるべきだ。遺跡平原と言えば、君のホームグラウンドのようなフィールドでもあるのだし」
「……ああ」

「それに、これも立派な"クエスト"だ。君を頼り持って来られたものだ。そうだろう?」
「…そうだな。 店主、俺で良ければ、受けますよこのクエスト」

「そいつは有り難いぜぇ!恩に着るよ、ハンターさん」
「いや」




その後店主はクエスト依頼書をお嬢のもとへ持ち込み、正式なクエストとして認可されたあと、改めて俺がその依頼書を手に取って参加の意を伝える。

依頼書の参加ハンター項目のところに自分の名前を記入していると、隣に立っていた筆頭リーダーがお嬢から予備の羽根ペンを受け取っていた。

「? 何だ?」
「…いや、その。 ……私もこのクエストに、良ければ同行させてはもらえないだろうか」
「えっ?」
「っ だ、駄目か…?」
「い、いやいや、駄目じゃないぞ。驚いただけだ。初めてじゃないか?」

記入の終わった依頼書を横に渡し、自分の書いた、ガララアジャラがのたうち回っているような汚い名前の下に、筆頭リーダーの形の良くバランスも取れた綺麗な名前が書かれていくのを半ば呆然とした気持ちで眺めていた。
 そう言えば、こいつの本名のフルネームを初めて眼にしている。ギルドカードに書かれているのはファーストネームだけだ。なぜかそれを凝視してしまう。

書かれた二人分の名前にお嬢は楽しそうにしながら、「はい!承りました」と言って確認の判を押した。いつもなら、採取のクエストに俺が行こうとしてもここまでテンションを高くさせないのに、今回はやけに機嫌がいい。どうしてだろう?


依頼発行書を受け取り、お嬢のクエストカウンターを離れた後、からかい混じりに筆頭リーダーの肩にガッと腕を回して引き寄せた。体勢を崩してもつれそうになった様子を見て、更に笑いながら。


「なんだなんだ?どういう風の吹き回しだ」
「…どう、という物でもない。今はギルドからの次の指令が下りるまで待機するしかなくて、時間を持て余していたからに過ぎない」
「本当か〜?」
「……本当だっ」
「分かった、そう言うことにしとかせてもらうよ。 じゃあまあ簡単なクエストだし、装備も変更したりしないでそのまま出発でいいだろ?」
「ああ」
「じゃあ料理長のところで料理食ってから行くか! ほら、行こうぜ!」
「む…! そ、そう引っ張らないでくれ…!」












「お?お嬢、今日はやけにウキウキしてるじゃないか!どうしたどうした?何かいいことでもあったのか!」
「うふふ、聞いてください団長さん!ハンターさんが、採取クエにお出かけになられたんです!」
「  そうか!あいつが採取クエにか!」
「ええ、そうです!採取クエに!」
「ははは、そうかそうか!いや〜よかった、よかった!」
「はい、よかったよかった!」




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