「お帰り」
「………た、だいま」
ビックリした。
玄関のドアを開けたらすぐ前に人が立っていたからだ。
しかもそれが、両腕を組み、眉間に皺を寄せて立っていた同居人の恋人であるから尚更だ。
すぐに脳が、「おれ何かしたっけ」と疑問を浮かべた。
自分はたった今、村周辺の見回りから帰って来たところ。
その際に出迎えをしてくれることの多いこいつが、どうして今日はこんなに"不機嫌"そうなのか分からない。いつも無表情と言うか、険しい顔をしていると称されはするが、"理由もなしに"こんな表情をするようなやつではないのだ。
だとすれば、少なからず理由が存在するはず。それが分からない。こわい。
雪塗れになった武器の雪を払い落とし玄関先に立て掛け、胴防具を脱いでいる最中もずっと腕を組んだままジッと見つめて来ているのが分かる。でも理由は分からない。こわい。
「…………あのー…」
「何か?――早く防具を外して体を乾かすんだ。風邪を引いてしまう」
「あ、ハイ」
心配はしてくれる、優しい。 いや違う、そうじゃない。
「……なあ、なんでそんな怒ってんだ?」
「……? 誰がだ?」
「え、お前だよ。ブスっとしてんじゃん、なんか」
「………なに…?」
なんだ、その反応は。思っていたのと違う。
本人はそう指摘されて心外なのか、眼を丸くさせたまま首を傾げている。怪訝、といった表情だ。
それに何だか、さっきと比べてどことなくソワソワとし始めていた。
ジロジロと俺の頭の上から爪先へと視線を動かし、何かを待っている。
不思議に思いながらも胴防具を脱ぎ終わり、続いて手甲を取ろうとしたところで、体に強い衝撃。
「……………」
「………」
「……えっと……どうかした?」
抱きつかれた。それも、こう、強い感じで。
防具の下に身につけていたインナーはじっとりと汗を掻いており、お世辞にも抱きついていて良い感じはしないだろう。それなのに、背中に回されている腕の力は強い。
俺はどうすればいいのか分からず、手甲も着けたままなので抱きしめ返すのも憚られる。
普段から遠慮がちで、恥ずかしがりやで、よく眼を回しているこいつにすればとても珍しい行動だった。
だからつい、どうかしたのかと訊いてしまう。でも答えは返って来なかった。ギュッと俺の胸板に顔を押し付けたまま、沈黙している。
……いや? これは黙っていると言うより、
「………おい?」
「……………」
「……おい、リーダーさん?」
「………」
「か、固まってる……!」
硬直してる! 抱きついて来た時の体勢から微動だにしてない!
「な、なんだ!? 何でだ!?」
「……、……」
「俺が見回りに出てたのが寂しかったのか!?」
「………、…」
「そうだな、最近ちょっとその時間が多くてなかなか家にいられなかったよ、ごめんな!? だから寂しくなったってことだなそうだな!?」
「……、……、…」
「それで甘えてみたら思いの他恥ずかしくなったってことでいいんだよな!? なあ、いい加減に顔上げてくれよリーダー! 俺まで恥ずかしくなって来るだろ!!」
prev / next