モンハン夢 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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とある少年たちの平行線


「行商長! こっちの木箱は隣の荷車に乗せますかー?」


「おおそうだ!悪いなあ、坊主!」
「了解ー!」


少年は元気よく返事を返し、壷や陶磁器などが入った重たい木箱を ガチャガチャと音を立てながら軽々と抱えて身軽に走り回る。荷車の上から上へ、台の上から上へ、あるいは大勢の人の間を縫うようにして、行商隊の準備を手伝っていた。

行方不明の弟を探すため、色々なキャラバンや行商隊を転々とし、諸国を渡り歩く旅を始め、かれこれ九年。
少年は現在十五歳。同い年の人間の少年よりも体つきは日々の生活をする上で逞しくなって行き、どこか幼さを残しながらも少年から青年へと変遷する、精悍な顔つきをしている。大きな木箱を難なく抱える両腕も均整の取れた筋肉が身についており、ここ一年ほどお世話になっている行商隊の長は少年のことをいたく気に入って、遠慮なく仕事を与えたり、世話を焼いていた。
それにも笑顔で応え、道行く客人となる者たちとも朗らかに接客し、過去の壮絶な経験を微塵も感じさせない持ち前の「対人を思い遣る」性格が、魅力的だと絶賛である。



現在、少年が身を寄せる行商隊はとある国の関所で通行止めを食らっている最中であった。
次の目的地である隣国は、民間の旅行客一人ひとりに通行許可が下りる時間が長くかかっていた。都市や大国とは違い管理統制の行き届いてない小国ではまま見られることだった。
なので行商隊も大人しく待機をしながら、ここでも旅の路銀を稼ぐチャンスだと、こうして簡易的な店を 他の旅行者たちを相手に開いているのだ。


そしてようやく。先ほど、通行許可の下りる順番が回って来ようとしていた。

広げていた品物を片付け、暖簾を下ろし、丁重に箱の中へと戻しながら、ポポが引く御車の幌内に積んでいく作業を 他のメンバーと共に少年はこなしていく。

この行商隊には、リーダーとなる行商長、リーダーの奥さんである女将さん、気の大らかな竜人族の青年、そして少年という計四名の小規模な隊で、最近になって身重であることが判明した女将の分の仕事を 竜人族の青年と、少年とが肩代わりをしている。
勿論、青年も少年も、仕事が増えても何ら苦とは感じない。奥さんのために、どうか隣国で商売をしばらく落ち着けて、丈夫な子どもを生んで欲しいと二人で笑い合った。


「ニイさーん、これで最後の箱ですー」
「おお、ありがとうな〜 大丈夫だったかい?重たかったんじゃないのか?」
「平気ですよ、これくらい!」


荷台の上に整然と木箱が積まれている。ニイさんと呼ばれた青年と、二人で手分けして行い存外早くに出立準備が整った。



「や〜、坊主がいてくれて大助かりだよ。ウチのカミさんの代わりによく働いてくれてるぜ」
「ありがとうございます。女将さん、今眠ってますか?」
「おう。あの幌ん中でグースカ寝てたぜ。はあ、アイツを寝台にまで運ぶ方が、商品入った木箱運ぶより骨が折れた」
「はは!確かに女将さん、だんだん腹が大きくなってきてますもんね」
「子どもの重みが追加されとるとは言え、なんだかなあ」

苦笑まじりに行商長は頭を掻いている。その表情からは隠しきれない喜色が窺え、少年も気持ちをほころばせた。

順番待ちをしていた他の旅行客らがどんどん動き出して関所の検問へと向かって行く。まだあともう少し、待機時間がある。


「おっとそうだ坊主。ちょっといいか」
「なんですか、行商長」
「この水差しを カミさんのとこまで持っていってくれるか? 確か寝台横に置いてあった奴はもう切らしてたと思うんでな」
「いいですよ。すぐに持って行きますね」

行商長から透明な水の入った水差しを渡された少年は、パタパタと足音を立ててすぐ隣の幌荷車の中へと駆けて行く。

その後姿を見送り、懐に持っていたパイプを咥えた行商長は、

「はあ。しっかし、早まったかねえ次のターゲット」
そう言って浅い溜息をこぼす。
「ん?どういうことですか?」
頭に巻いていたバンダナを解いて一息吐いていた青年が問いかける。

「これから向かう国のことさ。人口は少ないけど色んな職人が住んでる文化国だって噂に聞いて、遥々目指して来てみたはいいが、何でも最近この辺りの土地で飛竜種の目撃情報が相次いで見られたらしいんだよ」
「飛竜種というと……大型モンスターですか」
「ああ……タイミングが悪いよなァ。大型モンスターの目撃情報なんかが出回られちゃあ、国に訪れる人間の数が減るし、商品の流通ルートも狭められちまう。寒いけど比較的平穏な地域だと聞いてたんだがな」

行商長はがっくりと肩を落とした。話に付き合っていた青年も、ううーんと腕を組んで渋い表情を浮かべる。

「参りましたねぇそれは」
「やっぱりなあ 安全に行商するんだってんなら、ハンターズギルドのあった前の大きな国で暫く定住しておくべきだったのかもな。ウチのやつだってそうすりゃあマトモな場所で子を産んでれてたかも知れねえのに……」
「そうですなあ。まあ次にいく国でだって、もしかしたらハンターがいるかもですし…」







「―――失礼」






「お?」
「ん? どうしたんだい、きみ」


あれこれと話し合っていた行商長と青年に、遠慮がちに声がかけられる。
声のした方へ振り向くと、

銀色の豊かな髪に、形良く整えられた眉と、意思の強い光を宿す青い眼を持つ、一人の少年が姿勢よく立っていた。


「――唐突に声をおかけして、申し訳ありません」

銀髪の少年は腰を曲げ、礼儀正しくお辞儀をする。二人は慌てて「こりゃご丁寧に」と頭を下げた。
どうしてだか、この少年から醸し出されている雰囲気が二人をそうさせていたのだ。

「お二方の会話が行きがけに聞こえてきて、ひとつ、お尋ねしたいことがありまして」








「女将さん、気持ち良さそうに寝てたし、起こすのもしのびないよなあ」

空の水差しを持ったまま、少年はこっそりと音を立てないように荷車から出てくる。ひらりと地上に降り立ち、行商長に報告を入れようと足を向けたところで、行商長と青年の他に、もう一人誰かが立っているのが見えた。


「? 誰だ、あいつ」


ここでは会話の内容が聞き取りづらい。何だろう、お客だろうかと思い、少年は足音を極力立てないよう抜き足で三人に近づく。
見たところ、自分と同い年ぐらいの少年のようだ。






「おう、なんだ?何でも訊いてくれや」
「…それでは。先ほど、お二方は"ハンターズギルドのある国"から旅をして来たと、仰っていましたね?」
「そうだよ。大きな国でね。人もハンターもたくさんいたんだ。」
「………。 その、迷惑でなければ、その国までの道順を 此方の地図に記してはいただけないでしょうか」

そう言うと銀髪の少年は、羽織っていた外套の懐から折りたたまれた地図を取り出した。
これがまた古く、年季の入った地図で記載されてある周辺諸国の地名やなんやらの殆どが旧名のものだ。

「おいおいお前さん、これはアレか? 爺さんや婆さんから譲ってもらった地図かい?」
「えっ。……はい、その通りです。よくお分かりで」

銀髪の少年は素直な反応をし、眼を真ん丸くさせている。


何となく三人の邪魔をするわけにはいかないと気を回し、積まれた荷物の脇からそのやり取りを見ていた少年は、

「……なんだあいつ」
と苦笑した。
 変わったやつだなあ、親はどこの商人だろうか。




「大体で結構ですので……」
「いや、そいつは構わないぜ。任せとけ」
「ありがとうございます」

銀髪の少年はまた深くお辞儀をした。「よせやい」と行商長が頭を掻く。

「それで?お前さんの使う足は、ガーグァか、ポポか?御者は人間か?もしアイルーなら、あいつらは結構ガタガタの山道でもグングン速度を速めて行くから慣れてない道だと苦労するぞ」
「あ、いえ、アイルーはその……。…………いえ、車は使いません。自分の足で向かいます」
「なに!?それでも行けんこともないが、大変だぞ?お連れの人間とかは何て言ってんだ」
「連れはいません。私一人だけの旅ですので、ご心配なく」


―――1人だけで 旅を


そう告げた少年の眼は、厳しく眇められている。顔つきも、さっきよりも数段大人びたようでさえある。


「……お前さんはこの国に行って、何を?」

行商長が訊ねる。
銀髪の少年は、迷いなくこう言った。



「ハンターになるためです」





つい、ぼうっと口を開けていたことにも気がつかなかった。そして、銀髪の少年のことを凝視していたことも。持っていた水差しの存在すら忘れ。


 ハンター


何故だかその言葉の響きが、ひどく頭に焼きつく。


ふと、銀髪の少年が視線を動かした。そしてその眼が、荷物の隣で立っていた少年へと向けられる。


真っ青な空のような目と、瞬間、かち合う。
一瞥されただけだったのか、観察されただけだったのかは分からない。
ただ、少年の方は、銀髪の少年の眼を凝視していたことは確かだった。





それから。行商長は手早く、しかし詳細に道順を地図へと書き示してやり、銀髪の少年は深々と礼を言って去って行った。本当に、一人きりで、自分の足で旅をするらしい。


「……だがまあ、あの年でハンターを志すくらいなんだ。足腰の鍛えは充分なんだろうな」
「変わった子でしたね」


「……行商長」
「おう坊主 脇からずっと見てたみてぇだな。アイツの様子はどうだった?」
「あ、はい、ぐっすりと眠ってて……。……あの、行商長」
「んー?なんだ?」

「ハンターって、なんですか?」






少年はこの時、世界にはそのような職種を生業として生きる者達がいることを知る。
ただ、そう。それは「衝撃」ではなく、寧ろ「印象」と呼ぶのが相応しかった。

印象的だった。何もかもが。何よりも、ハンターという職種があることが。




















そしてそれから年月が過ぎ、もう幾度目かも数え切れないほどの人間たちのもとを渡り歩き、人々の助けをしながら、人々に助けられ、生きてきた青年は、生きる術を更につけ、より多くの人間たちの助けとなるために「ハンター」を志す。

図らずしもそれは、
彼にハンターと言う存在を認識させた、もはや顔も、髪の色さえも覚えていない、かつての少年がハンターを志したのと同じ理由を掲げたのであった。




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