モンハン夢 | ナノ
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そのA


しかし、雪山草と、雑貨屋の主人が貸してくれた地図を離すまいと、堅く身体で抱え込むような体勢でいたことが功を奏したのか、

大きな衝撃が体中を奔ることもなく、
また、崖下へ一直線に落下せずに枯れた木々に身を何度か打たれ衝撃が緩和されたことと、落ちて積もった柔らかな雪がクッションの役目を果たしてくれたお陰で驚いた事に大した怪我は負わずに済んだのだ。


己の身に起きた予想外の運の良さに、つい困惑してしまう。

このような事は初めてだった。



「………」


…多少の違和感が左の膝に感じるが、独力で下山できない程ではない。

ここはどの辺りだろうか、と辺りの景色を眺め回し、遠くの方で煙が立ち上っているのが見て取れた。
あちらが村のある方角か、それなりに距離がある。だが、日没までには戻れるだろういや戻らねばならない。




一歩踏み出したその先に、ガウシカの子どもと、その親が寄り添うようにして倒れていた。すでに事切れているのが見て取れる。
もう一頭いたはずだが、付近に姿はない。










「! それでは…!」

「そうなの、お薬分けて貰えたのよう!」


夕刻前に村へと帰って来た私に、出迎えてくれた雑貨屋の主人が言った内容はこうだ。



「あらっ!お帰りなさい坊ちゃん!よかったわぁ、どこも怪我してない?」
「ええ。それより、此方が雪山草なのですが確認を…」
「ああそう、その事なんですけどねえ坊ちゃん。坊ちゃんが出て行った後で、わたし村の皆さんに余っている薬がないか訊いて回ってみたんです。そしたらね、村長さんの家に一つだけ!予備として備蓄しておいた薬が残ってたのよ!」
「それは本当ですか!」
「そう、事情を話してお願いしたら快く分けてくださったの。ああでも坊ちゃんが採ってきてくださった雪山草も、しっかり薬として生まれ変わらせますからね。有り難く思ってるんですよ」
「はい、そのような事ならば心配には及びません。全く気にしていませんし、それよりもその薬の方は…」
「はいはい、此方に用意してあったの。本当はすぐにハンターさんのところへお運びした方がいいかしらとも思ったのだけど……やっぱり、自分の手でお薬渡したいですよねえ、坊ちゃん?」
「? ……いえ…?そのようなことは…… ??」
「……それなら別に構いやしないですよ。 さ、このお薬を早いとこハンターさんに持って行ってあげてくださいな」
「有難うございます。助かりました」



逸る気持ちが顔に出てでもしたのだろうか、
雑貨屋の主人は終始わたしの顔を見ながら微笑んでいたような気がしてならない。








自宅の玄関を開けると、待っていたようにルームが駆けてきた。


「お帰りなさいませ主人さま!」
「ああ。彼の様子は?」
「キッチンの作った料理をすべて食べたあと、横にニャりました。ずっと眠っていたかどうかは分かりませんが、今は起きている筈ですニャ」
「そうか」


彼の容態が悪化していないことに安心してホッと一息吐く。

身につけていた防寒具を脱ぎ、室内用の衣服に着替えた後、いただいた薬と水の張ったコップをトレイに乗せ、寝室のドアをノックする。
「入るぞ」と声をかけて入室すると、室内に置かれてあるベッドの上で肩まで布団を被っていた彼が「ははっ」と、なぜか笑った。



「? なんだ…?」
「いや、やっと顔見せに来たなと思ってな」
「すまない、何かあったのか?」
「いいや、別に? でも薬、貰いに行ってくれてた割には随分と帰りが遅かったな?」
「ああ、それは……」


「……いや 特筆して、君に話して聞かせるような事があったわけではない。」
「……そうか? まあお前がそう言うんなら、それでいいぜ俺は」


「じゃ、薬 もらえるか?」
ベッドサイドに背中を預け、起き上がった彼は病人だというのに、何故だかとても柔和な笑みを浮かべている。
何やら全て見透かされているような気がするが、エヘンと咳払いをして、差し出されていたその手にコップと薬を手渡した。


「…ってこれ、苦いヤツじゃないかー?」
「その通りだ。効能も確かだ、安心して服用するといい」
「いやそうじゃなくてだな……。ぐ……」

観念し、意を決して水と共に薬を喉へ流し込んだ彼はしばらく渋い顔をしていた。
熱はまだあるのかと額に手を置いてみたが、「お前の手、冷たいな」と言われ、彼が熱いのか自分の手が冷たいのか分からなかった。


空になったコップと薬の入っていた容器を片付け、部屋に備え付けてある暖炉の火を少し大きくする。汗を掻いたと言うので代わりの寝間着を用意し、ついでに床に散らかっていた物を片付ける。その間中、彼はぼうっと、何も言わず私の方を見ていた。たまにあることだ。


「では夜食が出来上がるまでもう暫く休んでいるといい」
「 おお、そうする」
「何かあれば、呼んでくれ。私は隣室にいる」
「……んー」
「…? 他に何かあるのか?」
「いや」
「? そうか」


トレイを持って部屋を出る。
その私の背中に、



「左足。ちゃんと医者に診てもらうんだぞ」

 じゃあしばらくおやすみなー。




彼の声と同時に扉が閉まる。

そして私は、廊下で立ち竦む。



「……………何故、気付かれたのだ…」


隠すつもりはなかった。あえて言う必要もなかったが。


……夜食の前に、医者を訪ねに行こう。
でなければ、きっと彼はまた夜食の席で指摘してくるに違いないのだ。



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