モンハン夢 | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
別世界


今考えてみると、私が故郷の村に帰って来てから、何か用があって雪山地帯をまともに歩くのは初めてだった。
なるほど、だから地図を見ながら道を歩いても、ふとした時に景色が迷子になりやすいのか。

雪山を歩く際、注意すべき点の一つは「方向感覚の喪失」だが、この場所はより顕著だ。何せ、目印となる物がない。辺りは一面雪だらけ。遠くに見える景色も、連なる雪山以外何もない。本当にこのような場所に雪山草も生えているのだろうかと不信に思うほど、緑がない。しかしその問題は山の中腹を過ぎた辺りから解消した。

徐々に草木が顔を見せ始める。

ガウシカの親子が地を蹴り、食物を求めて彷徨っている姿が見えた。毛皮と、ホワイトレバーを獲って帰ろうかとも普段なら考えただろうが、今日は余計なことをしている時間はない。早急に目当ての品を持ち帰り、薬を作って貰わなければならない。







鼻先に痺れが来た。そろそろ一本目のホットドリンクの効果が切れる頃だろう。
ようやく、地図に印が入ったポイントまで来れた。存外遠い。村の住民たちの足で、モンスターの眼を避けてここまでやって来ることは、想像以上に過酷なことだったのだ。


「…………あれか」


雪山の山頂付近。吹き荒ぶ風に流された雪が、流れるように下へ下へと落ちて行く崖の端で、雪山草が寄り添うようにして生えていた。
雑貨屋の主人が渡してくれた地図のポイントからは、少し離れている。通常、あのように危険性の高い場所に成っているのではないが、今回は運が少し悪かったのかも知れない。

ここまで来るのに、すでに数時間経っている。
まだ昼過ぎだとは言え、彼が風邪を引いてからすでに少なくない時間は過ぎているのだ。陽はあまり照っていないが、雪山の雪が溶け雪崩が起きる心配もある。手早く済ませてしまおう。




「……これだけあれば足りるだろうか…」


群生している植物を根こそぎ持ち帰ってしまうことはタブーである。
必要数だけ持ち帰る、だがしかし、心配から、薬の材料として多いに越した事はない、などと考えてしまった。


「……………む、」


そんな事を考えながら手を拱いていると、背後から雪を踏み締めるサクッという音がした。それも複数。
背後を振り返り音の正体を確認すると、そこにいたのは三頭のガウシカ。先ほど擦れ違ったガウシカの親子だ。


三頭の中でも体の大きなガウシカが一歩前に出て、頭を振り、角を揺らして威嚇の体勢を取っている。やけに様子に落ち着きが無い。どうやら気が立っているようだった。

通常ならば、ガウシカはガウシカ同士で力の誇示や対決をして気性を荒れさせるモンスターだが、この親子間で争って気を立たせている風には見えない。グゥ、グゥと唸り声を上げながら、前足で地を蹴り突進の構えを見せる。


「………………」


―――どうする。
この時期のガウシカは繁殖期でもなく人をむやみやたらと襲うことはない。このような事態を全く想定しなかったワケではないが、やはりナイフだけでも携行するべきだった。これでは、彼の間の抜けた部分を諌められない。

だが、今こうして目の前に立ち塞がっているのは大型モンスターではなく、小型モンスターのガウシカだ。
丸腰の状態の一般人では確かに警戒するに値するモンスターではあるが、元ハンターでもある自分が慌てふためかなければならない程ではない。考慮すべきは、私のいる側が崖の際であることだろうか。



『グル、ル、ルゥ…!』


ガウシカの唸り声が一段と低くなった。向かってくる―――



「―――ッ、あ !?」

『グルゥ!』
『ク――』



――瞬間 何が起こったのか分からなかった。
ただ、立っていた足元が崩れ、柔らかだった雪が怒涛の勢いをつけて自分の体を崖の下へ落とし込もうとしていることを冷静な頭がそう判断した。

ガラガラガラ、ドドドドと大きな音を立てながら雪崩ていく雪の中に、ガウシカの親子達が飲み込まれて行ったのが見える。


それは私も例に漏れず、押し流されていく勢いに抗いきれずに足を滑らせた。





prev / next