モンハン夢 | ナノ
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看板嬢は印象に残らない


砂上船を駆り、デルクスの群れを突っ切って、じきに背の高い風車と垂れ幕の下がったキャラバンテントが見えてくる。久方ぶりに、バルバレへ帰って来れた。
下船準備を整えるため、手荷物を纏め、武器を肩から下げる。衝撃少なく船着場へと到着し、慣れ親しんだ砂と風のにおいがまず鼻をついてきた。今回の戦利品である飛竜の尻尾と大きな爪を運搬してくれているハンターズギルドの手伝いの男たちの姿を見送り、バルバレの通りへ向けて歩き出す。

現れてくる店先からは、
「おっハンターさんじゃないかい!おかえりさん!」
「お帰りなさい、ハンターさん。元気そうでよかった」
「おぉ、戻ったかハンターさん。待ち侘びていたぞ」
「今回の武勇も、また酒の席で聞かせてくれよ!」
と、ハンターの帰りを労ってくれるバルバレのみんな。その声一つひとつに「ただいま」と返すこのやり取りも相俟って、生きて返ってこれた充足感に満たされる。


「――戻ってきたか、我らの団ハンター!」

そして人の往来の多いメインストリートでは、我らの団団長が両手を広げ、いつものように笑顔で出迎えてくれた。

「ただいま戻りました、団長」
「うん、無事なようで安心したぞ!」

アプトノスが荷を引く御車が横切る。戦果であるモンスターの素材やらを一足先に自宅へと届けてくれるそうだ。
足元で、何かが裾を引っ張る。プーギーだ。
「お。お前なんで外にいるんだ?」
プギュウ、と鳴いて鼻を摺り寄せてくるので、抱き上げて頬ずりを返す。
「お前さんの声が聞こえたからじゃないのか? 何せ、こうしてお前さんがバルバレに帰って来るのは半年ぶりだろう。俺たちでさえ、二ヶ月前にはここに戻っていたからな」

――そう。俺は半年の間、とある地方にまで赴き、その土地で暴れていた飛竜種の討伐任務に出ていた。通常のクエストならば一ヶ月ほどしか掛からないが、今回のクエストは大型モンスターの連続狩猟を依頼されていたので、全てのモンスターを狩り終える頃には半年が過ぎていたのだ。
その間、我らの団が、また団長の思いつきで 何やら別地方へと旅に出ていたことを三ヶ月くらい経った頃にもらった手紙で知った。

「どちらへ行かれていたんでしたっけ?」
「えぇと、相棒と加工屋の娘、それと竜人商人のじいさんはココット村で待っていてもらって、俺はお嬢を連れてベルナ村まで行っていたんだ。コックは確かずっとバルバレで店を開いてたんだったかな?」
「ベルナ村っていうと……ああ、確か龍歴院がある」
「そうだ。そこにちぃと用事があったんでな。……ああそうそう。俺のところはもういいから、お嬢に会いに行ってやれ。お前さんが帰って来るのをワクワクしながら待っていたぞ」
「そうですか、行ってみます」

プーギーはいつまでも浮いたままは嫌らしい。じたばたと手足を動かしたので、そっと地面に下ろしてやる。「家に帰ってろよ、ガーグァ荷車に踏まれると危ないぞ」そういうと、プーギーは素直に、おしりを振りながら家に帰っていった。やれやれ、俺のいない間に、誰かが餌を奮発してやっていたようだ。また丸々とした気がする。



― ― ―




「  あ!ハンターさん!おかえりなさい」
「ああ、ただいま」

クエストカウンター用のテントでは、看板嬢が確かにソワソワとした様子で待っていてくれた。

「ようやく顔を見せに来てくれましたね。もう、私がどれほど、『ハンターさん 飛竜たちと過ごしたドキドキの六ヶ月☆〜爆発と粉塵を添えて〜』なんてお土産話を聞かせてもらえることを楽しみにしていたか!」

いや、待っていてくれたのは俺ではなく土産話の方だったか。

「それはまた追々話してあげるけどさ、それよりも君の土産話も聞かせてくれよ」
「? 私の、ですか?」

看板嬢は眼鏡の奥にある丸い瞳をキョトンとさせ、首を傾げる。

「団長と一緒に、ベルナ村へ行ってたんだろう?そこでの話、ネタなら沢山あるんじゃないのか?」
「ネタ…ですか。うむむ、そう言われると困りましたね…」

ベルナ村での滞在は、楽しくなかったのか?と訊けば、とんでもない!と両手を振って否定した。だが看板嬢は、ベルナ村にいたときの話をどう伝えればいいか迷った様子である。 しかし暫くすると、「ああ、そうです!お話、あります!」と手を打った。そう、なんでもいいから聞きたいのだ。俺のいなかった間のことを。

「ハンターさん、知ってます?"ディノバルド"というモンスターのこと!」
「…いや、知らないな。そっちの地方に棲息してる大型種か?」
「ええ、そうです。何でもディノバルドの尻尾は鋭利な刃物のようになっていて、その尻尾を主体とした攻撃を繰り出してくるえげつないモンスターなのだとか……。あ、私も見たことはないんですが、龍歴院のハンターさんが教えてくれました」
「龍歴院のハンター?」

龍歴院のハンターというのは、聞いたことは無かった。

「その龍歴院のハンターと、話をしたのか?」
「はい。私の超☆メモ帳のページを潤沢にするために、いくつかクエストをお願いしたりもしました。快く引き受けていてくれたような気がします、はい」
「へー、それはそれは……」

看板嬢の出したクエストのことだ、きっとえげつない内容だったのではないだろうか。見たことも無いその同輩に、若干の同情が生まれた。

「腕の立つハンターなのか?」
「だと思います。私の超☆メモ帳をご覧になってくれた龍歴院の方が、褒めてました。"彼は凄いハンターだよ。私はモンスターよりも、彼のことを調べてみたい"って」
「へぇ……」

長話になりそうだ。今さらだが、立ち話もなんなのでアイルーキッチンの方から椅子を拝借し、ズリズリと引き摺って看板嬢の前に自分も腰掛ける。
椅子に座った俺を見て、看板嬢はなぜか嬉しそうにした。そしてまた意気揚々と話を再開する。

「なかなか評価の高いハンターなんだな」
「もうすでに幾つか功績を挙げているようですよ。獰猛化したモンスターの討伐に一役買っているとかなんとか」
「君からの印象はどうなんだ?」

なんでもない話題のつもりだった。なのに看板嬢は目を瞬かせ、「印象?」と鸚鵡返し。

「誰のですか?」
「え、その龍歴院のハンターのだよ。話したんだろ?」
「ええ、しました。なかなか興味深いことを色々と教えてくれました」
「じゃあ印象とか、生まれたんじゃないのか?」
「印象、ですか」
「人当たり良さそうだなーとか、早口だなーとか、目が忙しなく動いてるなーとか、色々さ」




――すると彼女は、「うふふ」と声を上げて笑った。
とても楽しそうに、俺の両目を見つめ返してくる。


「そうですね、正直に申しますと」
「ああ」
「龍歴院のハンターさんへの印象は、ありません」
「……ええ?」
「すみません。私、どうも昔から人相手に印象などをあまり抱いたことがないもので…」


まあ、モンスター好きである彼女らしいと言えば彼女らしいのか。彼女の口から語られるハンターの印象を、少し聞いてみたかったような気はするけれど――



「……でもですね、」――彼女は言う。



「私の中にある、 初対面の見ず知らずの人のために、山のように巨大なモンスターの背に単身飛び移って、大切な帽子を取り戻して来てくれた、パンツ一丁のとてもお人好しな方へ抱いた最初の印象が大きすぎて、他の方が霞んでしまうんですよ」



「……なら、仕方ないよなぁ」
「ええ、仕方ないです。本当に。うふふ」

……とても恥ずかしい過去だが、そうもキラキラとした顔で言われてしまえば、俺はぐうの音も出ない。まったく、彼女は変わっている。





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