確かに、酒をあまり呑まないリーダーに「もっと飲め!」と勧めていたのは自分だった。
固辞されたわけでも、強く拒否されるわけでもなかった為に、調子に乗ってどんどん酒を注いだグラスをリーダーに渡していた。
いや、うん、反省はしてます。本当です。
「……おーい、聞こえてるかー?もしもしー?…筆頭リーダーさーん?」
「………………ぅ゛うん…」
見事なまでに酔い潰れてしまった筆頭リーダーを 飲ませたものの役目ということで介抱を任じられた俺は、ぐだぐだと酒場の席で寝そうになっていた彼を背中に背負って自宅にまで帰って来ていた。
筆頭リーダーは酔うと酒乱になるでもなく、泣き上戸や笑い上戸になることもなく、ただ顔をこれでもかと真っ赤にさせてぼーっとする。新しい発見だったが、有益な情報かどうかは判断を保留にするところだ。
眉間の皺が取れた柔らかな目つきで、何故か一点を集中的に凝視する。何かがそこにいるとかあるとか、そんなことはない。
帰るまでの道中、夜気に当てられても酔いが醒めない様子のリーダーをとりあえず、ルームサービスが綺麗に整えてくれていたベッドの上に寝かせ、一旦外に出て料理長からコップに水を入れてもらう。
「私の料理が美味し過ぎたせいで酔っ払ったニャルね。罪深いコックニャる、私」
「いや、それは違う」
前足で顎を殴られた。辛うじて水の張ったコップを零さないように踏み止まれた。
「そうそう。旦那、筆頭のとこのランサーから伝言ニャル。『彼をよろしく頼んだよ』とのことニャルよ」
「その筆頭ランサーは今?」
「団長との呑み比べ勝負中ニャル。状況は団長の上に暗雲が立ち込めてる感じニャル。因みに竜人商人と賭けてるニャル。両方ともランサーに賭けたから、こっちも勝負になってないニャルがね」
「そっか。じゃあ俺は団長に賭けとくよ」
「倍率1000倍くらいニャルね。結果を楽しみにしとくニャル」
自宅に戻るとリーダーはベッドの上でさっきと変わらない様子で、ピクリとも動いていない。
身体を横にして、目を閉じている。寝てはいないと思うが、どうだろうか。
「おーい、水持って来たぞ、飲むか?」
「………… ………」
「…………」
「……」
…駄目だ、返答がない。
もしかして、此処で寝るつもりではいないよな?
調子が回復したら、筆頭ハンターたちの使っているキャラバンテントにまで送る算段だったんだが、このままだとベッドを占領されそうな気がする。
いや、それは強引に飲ませた側の罪として承諾しても良いにせよ、ここで寝られると色々困る。
「お前のその長い足がベッドからはみ出てるだろ、寝ちゃ駄目だ、起きろ」
「…………」
「ここはお前の使ってるベッドの上じゃないぞ、俺んだ、それでもいいのか?」
「…………」
「……俺を床に寝させる気かー?俺、明日の午後からクエストに出発しなきゃならんのだがー?」
「………れ、は……だ…」
お、やっと反応が。
ぼそぼそ言った言葉を繋げると、「それはだめだ」か?
「うん、そうそう、だめだろ?床で寝ると次の日からだバッキバキになるからな」
「……、…」
目を閉じたまま、小さく頷いた。こっちの声は聞こえているし理解出来ているらしい。
「けど今そのベッドをお前が占領しちまってるんだよー」
「……」
「気分が良くなったんなら、起きて自分とこのテントに戻った方が、お前も寝やすいんじゃないのか?」
「……」
え、なぜここで首を横に振った? ここ否定するようなところだったか?
「……このまま此処で寝るつもりか?」
「……」
「…俺のベッドだぞ? いいのか?」
「…、…」
「……俺さー、床で寝るの嫌なんだけど」
「……」
「………」
「……俺もベッドに並んで寝ていいか?」
「………あぁ……」
「えっ」
「―――あっ!? ち、ちがっ!い、今のは違う!間違えた!あ、あの!そんっ、なつもりでは!その、し、失礼する!!」
筆頭リーダーは、さっきまでのまどろみようが嘘のように一瞬で覚醒すると慌しくうちを出て行った。
外から料理長が「筆頭リーダー!?どうしてそんニャに慌ててるニャるか、んなアー!!危ないニャそっちは軒先ニャ!!……あー」と騒いでいる声が聞こえてくる。おいどうしたんだ何が起きてんだ外は。
でももう少し待ってくれ、俺も俺でちょっとそれどころじゃない
「…俺は俺で一体なにを口走ってたんだバカか!!?気持ち悪かったよなアレ絶対! よ、酔ってんだなおれも、そうだ、あ、水飲もうそうだ水、……って間違えたこれクーラードリンクだ!!!」
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