モンハン夢 | ナノ
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筆頭リーダーのピアスは二代目である


駄目だ、人並みの経験を持たない私ごときの頭では、この問題に対する解決策が思いつかない。
来る日も。来る日も。
彼はいったい、足しげく何処へ通っていると言うのだ。武器を担いで、身体や顔に幾つもの傷をつけて、誰にも行き先を伝えないで。たった一人でどこへ。

書記官殿が言う。
「我らの団ハンターは今日もコソコソしていたなぁ。 …ああそうか分かったぞ、あれだ、コレが出来たんだ!いやきっとそうだろう、ハハハいやぁ、あいつもまさかそんななァ。ハッハッハ!」

コレ、とは、なんだ。
書記官殿が立てられた小指にも意味はあったのか。わたしには分からない。その場で意味を伺えばよかったのだろうが、その『コレ』というのには、彼が身体をボロボロにさせなければならない必要性があると言うのだろうか? あれほど傷だらけになってまでも? もしもそうであるならば、わたしはその『コレ』とやらを絶対に容認することは出来ない。

そして彼は今日もふらりとどこかへ行ってしまう。昨日の傷も未だ完治しないまま。


もう駄目だ、限界だ。
これ以上状況が変わらず、悪化してしまうなら、かくなる上は、この拳を使って強引にでも彼を引き止めることも辞さない。

いいやそうするしかない。わたしはこういう状況の際に、掛けるべき上手い言葉を知らない。

来る日も。来る日も。

君がそうやってわたしと目線さえ合わせてくれなくなってから、胸に飛来したなにかが重たくて仕方ないのだ。



― ― ―


「あら、ハンターさん今お帰り? 今日新しく仕入れた武器があるんだけど見ていかない?」
「ただいま戻りましたー。あー、じゃあまた後で来ます」

ドンドルマ城門前 通りの武器屋の女店主に声をかける、疲れた様子の男のもとへ、一目散に歩き出す。脳内で何度もシュミレートした言葉をかけるため。

「やっと戻ってきたのか君…! 疲れているところすまないが少し私から話が、」

「 あ! 丁度いいところで会えたな!こっちからお前を訊ねに行こうとした手間が省けた!」

「…………え?」
「お前に渡したい物があるんだ。ちょっと待ってくれ、確かポーチの中に…」

予想立てしていた展開とは随分異なる方向に状況が進行していた。
少し待てと言って目の前に突き出されている掌にはまた小さな傷が幾つも増えている。それも踏まえた上で言及しようとした矢先に、彼の「お、あったあった!」の声が重なった。
無骨な彼の手が私の手を取り、「これお前にやろうと思って」ぎゅっと握らせてきたのは


「………ピアス…?」

青い玉に、色鮮やかな小振りの羽が揺れている。それを二つ。

「………こ、これは…?なぜ、私にこれを……」
「だってお前が前までつけてた耳飾りさ、この前のクシャルダオラ戦中に落ちて無くしてしまったって言ってたよな?」

確かに言った。話題のストックが非常に少ないために、とても小さなことであったが話の種になれればと以前彼の前で零したことがある。

「前のやつはハンターズギルドからの特別支給品だったみたいだから同じのは無理だったんだけどさ、無くしたって言ってたとき、ちょっとお前悲しそうな顔してただろ? だから代わりになる別のピアスをプレゼントしてやろうと思って」
「そ…それは…! いや、だがこのピアスと、今までの君の不可解な行動にどんな関連性が…」
「あ、それ俺の手作りなんだよな」
「な!?」

「あら、ハンターさんたら器用なのね〜!」


……そうだ、そう言えばここは、まだ武器屋の前だった。

私の掌の上で転がっている二つのピアスをしげしげと眺めた女店主は賞賛した。曰く、「お店で売ってるものかと思って話聞いてたわよ〜」


「ありがとうございます。…あーでも、この青い玉はマカライト鉱石なんだけど、これはさすがに加工屋にやってもらったんだ。こっそりとな、他言無用でって頼んで。いやぁ、あんなに大きな手でこんな粒によく加工出来るもんだよなー」
「それじゃあ他の部分はハンターさんが?」
「まあ、そうですね」

説明を受けて、改めて品を見る。
青い玉は寸分の歪みはなく、綺麗な球型で金具が取り付けられており、その下で羽根が揺れている。

「…………この羽根は?」
「この辺りの山に棲息してるんだけど中々人の前には姿を見せない野鳥がいてさ、そいつの羽根がこれまた綺麗でな。だからその野鳥の羽を使ってやろうと思い立ったはいいがそれを用意するのが一番大変だったのなんの…」

何日も何日も巣を見つけては張り込みの繰り返しだったんだぜ。あ、この傷とかは全部木の枝で引っ掛けたり、足滑らせて岩に強く打ったときとかに出来た傷だから心配しなくていいぞ。全然痛くないから!


慌てて早口で申し立ててきたところを見ると、その傷のせいで私が心を痛めている、ということを勘付いているのだろう。まったくもってその通りだ。だが


「………、………」
「………あー……… …気に入らなかったか?」
「! ま、まさか!!」
「だよな、よかった」


 まさか、まさか 
連日のようにコソコソと動き回っていた彼が、私に物を贈るための行動だったなんて、私には到底予想できなかった。

彼が言ったように、以前私がつけていたのは、私が筆頭ハンターという役職に就いた際にハンターズギルドから与えられた装備品である。
あれを失くしたと気付いた時、「仕方ない」と割り切っていた自分と、ほんの少し落胆に似た気持ちを抱いた自分がいた。

彼が贈ってくれたこのピアスは、以前のものと形が酷似している。敢えて似せるように作ったのだろう。見本や図面も無かったはずなのに、なぜここまで似せられたのか疑問に思う。

余程、あのピアスのことを ずっと見ていたのかもしれないな。




「………ありがとう 本当に。……様々なことを嬉しく感じている。君が私の様子を慮ってくれていたことも、君が手ずから作ってくれたことも、それを私に贈ってくれたことも」
「…はは、そんな言われると照れるな」
「得難い物を得た、そんな気分ですらある」
「大袈裟だな」
「ふふ、筆頭リーダーさんほんとに嬉しそう。 ね、それ今ここで付けちゃわない?」
「えっ…い、今ここでですか?」
「おーそれいいな! 正直俺も、実際にお前がつけてるところを見ないと製作者としては安心出来ないって言うか…」
「…そうか。ならば」


やけに期待した様子の二人の眼が私に注がれる。
特に彼からの目線には「わくわく」と言ったもので、どうにも面映い。


そう手間もかからず、すんなりと付けることの出来た具合を見て、彼はまた「おー!」と一段と嬉しそうな声を上げるのだった。


「よかった、バッチリみたいだな」
「あらほんと〜! なんだか雰囲気があるわよねぇ、それ」
「……フフ」
「? なにが可笑しいんだ?」


ここに来るまでに自分が成そうとしていたことが全て空振りに終わったことが、何故だかとても愉快になっていた。私は君を殴らずに済んだようで、それも嬉しい。傷を作っていたことは承服できないが、危険なことをしていたのでは無かったので一安心といったところだった。




「いや、君の行動について予想を立てていたのを思い出したんだ」
「はは、そんな怪しいこと考えられてたのか?俺」
「ああ。 そう、確か書記官殿は君に『コレ』が出来たのだと言っていたな」
「コ……!?」
「!? 大丈夫か、なぜいきなり咳き込む!?」
「ゴホッ、いや、おま、お前が、変なこと言うから…!あ、いや、団長か言ってたのは、うん」
「何なのだ? 『コレ』とは一体なにを意味している言葉なんだ!?」



「……あながち外れた言葉じゃないんじゃないの?ハンターさん?」
「お、女将さん!!」



………ようやく晴れたと思っていた胸の内に、また新たな「何か」が飛来したのを感じる。
分からない。私が『コレ』の意味するものさえ知っていれば、このようなことには…!





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