モンハン夢 | ナノ
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きみへ


二十余年になる。
立派なハンターとなる為に故郷を出て、一度も帰らずにいる今日で、ちょうど。
目を閉じれば今でも鮮明に思い出せる。一面の雪、体を刺す冷徹な風、温かな心を持った人々、モンスターの襲撃から身を隠し、慎ましく生きる我が故郷。

"帰りたい"とは、無情ではあるが一瞬も考えたことはない。ハンターになる為の毎日は辛く苦しい日々ばかりではあったが、そのどれもを自分は独りで乗り越えることが出来た。何にも頼らず、誰にも手を借りず、他の屈強な者達と遅れを取らぬように鍛錬を重ね、
その結果は チームのリーダーを任されるほどの実力を持つハンターの身分と、他者との関係構築に対する苦手意識の芽生えだ。

だが最後の問題も、十年前に既に克服している。

縁合ってチームを組んだ姉弟子、先輩、ルーキーの三人と交換したギルドカード 大切な品である為今日びまで大切に保管していたがすっかり色褪せてしまっている。いずれも更新は数ヶ月前からされてはいない。三人ともそれぞれが、慌しく毎日を送っているのだから当然だろう。


ああ、だが、
懐かしい。
思えばあのドンドルマでの任務から、もう十年になるのか。

故郷のことを思い偲んでいた時よりも感傷的になった自分に、自嘲染みた笑いが生まれた。
あの頃は愛武器の双剣を持ち、第一線でギルドに従事していたが今ではすっかり机と椅子が相棒だ。先輩…引退された筆頭ランサーが携わっていたモンスターの研究内容を自分が引き継いだが、この仕事はこの仕事で自分に合っているとも感じている。何ら苦ではない。今の研究が、やがては未来に生きる人々の助けとなるのだと思えば、意欲は泉のように湧き出てくる。

しかし、ハンターとしてモンスターの狩りを行っていた日々が恋しくはないと言えば、それは嘘になるのだろう。
作業机の上に積み上げられた分厚い資料集の間に手をやって、埋もれてしまっていた小さなケースを救い出す。
中に入っているのは、これもまた一枚のギルドカード。けれど先の三枚と大きく違っている点は、そのギルドカードの最終更新日にある。明記されている日付は、十年前のものだ。


我知らぬ内に、書かれている名前の文字を愛おしげに撫でてしまっている。
彼は今、どうしているのだろうか。


生涯唯一と言っても過言ではない、たった一人の大切な友人のことを考えてしまった。もう私の頭は、暫く彼のことしか考えなくなってしまう。
我らの団と共にドンドルマ防衛及び復興の任務を終え、それぞれの新たな任務へと出立する前に顔を合わせて以来、一度も会ってはいないのだ。






「……では、我らの団も別の地へとまた旅立つと言うことか」
「ああ。団長が、新しいお宝の情報を酒場で聞いたって騒いでるんだ。他の皆もすげぇ乗り気。いつものことだけどな」
「そうか。なにせ君がいるのだ。彼らは行こうと思えば、何処へとも行けるのだろうな」
「…まあな〜」
「………ともかく、我らの団の旅路に幸多からんことを。君にも、武運を祈る。新しい土地でも、身体などを壊さぬように」
「お前もな。無茶するなよ。 あ、落ち着いたら手紙でも書こうか」
「て、手紙?」
「団長の鷹に持たせれば手紙のやり取りだって出来るだろ。うん、だな、決まりだ。手紙書くよ、手紙」
「…そ、そうか 了解、した。であるならば私も返報を打とう。……伝えるようなことがあれば、の話だが」
「何でもいいんだよ書く内容なんて。楽しみにしてるからな」
「…君がそう言うのであれば。」
「おう」




――手紙を書く? フフ、笑えるな。
彼が手紙を書くこと自体を忘れてしまっていたのか、
手紙を届ける手段がやはり無かったのか、
それとも手紙を書きはしたが私の許へまで届かなかったのか、
いずれにせよ君からの手紙なんて、一通も貰った覚えがない。
最初の一年間、ずっとソワソワと待っていた私の姿を「愉快だ」と笑っていた先輩の顔が思い出される。


月日が経つというのは早いものだ。お陰で、私の方は彼への手紙に書ける内容がとても充実した。今なら紙の束を丸々消費できる気さえしている。




「………私から書いてみれば、彼も返事をくれるだろう」

こちらから手紙を届ける術は幾らでもある。ギルドの力をフルに活用すれば、どんな僻地にいようが安否を確かめられるのだから。
途端に、楽しくなってきた。仕事を放棄しサボタージュしてしまっているが気付かれなければいい話だ。
読んでいた資料を脇に押しやり、机の引き出しから新しい筆紙とペンを取り出す。
書き出しはこうだ




「我が信愛なる友人殿へ――」




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