ディーノ長編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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06

ケイド・イェーガー君は修理工兼発明家であるらしい。
『墓場の風』が使用していた昆虫型の小型カメラを巧みに操って見せた腕前に、思わず「ほう」と感嘆の声が出た。

「巧いものだね」
「仕組みさえ理解出来れば、あとはこっちのもんだからな」

ケイドはジークに敬語を使うことを諦めたようだ。ジークも、別に使って欲しいわけではないし話したいように話してくれれば良かった。

娘のテッサが、操縦に奮闘している父親に呆れたように声をかける。

「…それで? 口座にお金はあったの?」
「いや、止められてた」
「ダメじゃん……」

金、か。
決して貧乏だったわけではないが、自宅を棄てて逃げ出した際に荷物らしい荷物はほぼ持ち出せなかったので今のジークも文無し状態になっていた。

そこでケイドが打ち出した案が




「……万引き、か」

仕方あるまい。背に腹は変えられないと言う。

「必要なものだけを盗ってくればいい。その間に俺はCIA本部に侵入する手立てがないかを見つけ出す。」

ケイドはそう言っていたが、果たしてそう容易く行くものなのだろうか。

「私は何をすればいいかな?お嬢さん、ボーイ」
「じゃあ品物の物色なんかはオレらがやります。ジークさんは、店員の…女性店員とかの眼を惹き付けておいてくれれば良い」
「なるほど。それならば私にも出来そうだ。ちゃんと店員たちを引き止めておくよ」

≪!≫
「…ディーノ、ガタっとしないでくれ。大丈夫だから」
≪し、してねェよこのアングラー野郎!≫
「……思いっきり反応してるじゃないか」

ちくしょう、楽しげに笑いやがって…。

≪ ディーノ≫
≪ なんだよオプティマス まさかアンタまでオレをからかいに来たんで?≫
≪いや。 明日、ケイドが向かうCIAの偵察任務へ、同行しろ≫
≪ は?オレが、このヒューマンと?≫
「この、とは何だ このとは」
≪お前のステルス能力を使えば、他の人間にバレずに行動することが可能だろう≫
≪……まあ、そりゃあそれがウリなんでね≫
≪くれぐれも索敵レーダーには気をつけろ≫
≪……了解しやしたよ、司令官≫


なんだ 寧ろ隠れてジークの後を付いて行くつもりだったのに。
だがオプティマスからの命令ならば仕方が無い。ディーノは足元にいた男へと視線をやった。名前は何だったか、それさえも曖昧である。


≪………≫
「…よろしくな、"赤い恋人"」
≪誰が赤いこいび…っ!≫

「駄目だろうディーノ ちゃんとケイド君と仲良くしなさい。 "素直に"、"優しく"、接するんだぞ?」

≪…!…〜っ!≫
「おぉ、静かになったな」
「ディーノの扱いなら任せてくれ給え。ケイド君も、もしディーノが素直に言うことを聞かない場合には私の名前を出してくれて結構だからね」
「なるほど、そいつはイイことを聞いたな」


≪…おいジーク あんま他のヒューマンと絡んでんじゃねぇ!≫

「そっちか」










分かっちゃいたが、案の定ディーノの機嫌が悪い。
テッサとシェーンがジークを連れてスーパーに向かった後からずっと黙ったままだ。
CIA社を見渡せる都合の良い高台へと上がってくるまでの道すがら、淡々と最適ルートを割り出してくれて導いてくれたのは本当に有り難い。ケイド一人ではもっと時間がかかっていた筈だ。


「…透明になるなんて凄い能力だな」
≪………まあな≫

ケイドが双眼鏡を構えてCIAの入り口や内部を観察している間も、ディーノはステルス化したままで武器を持ち、周囲の警戒を続けてくれているようだから、途中で嫌になって任務を放棄したりすることはないだろう。
だが、透明化している相手に話しかけると言うのも、なかなか体験できない奇妙なことだ。


「………」
≪……≫

なら試しに。

「…ジークとはいつから一緒に暮らしていたんだ?」
≪!≫

お、反応してくれた。僅かに身動ぎをしたような駆動音が聞こえた。

≪…どうしてそれをお前に言わなきゃならねぇ。そっちに集中しろ≫
「少し気張りすぎて眼が疲れたから、休憩だ。世間話に付き合うくらいイイだろ」
≪……≫





≪最初は、割りとクレイジーな奴だった≫
「想像できないな、あのジークからは」
≪ずっと乗っていた愛車だとかいうフェラーリのことをそ、れ、は、まあ愛してたみたいでなぁ!≫
「フェ、フェラーリが愛車……なんだそれ…」
≪思い返してもメモリーが焼け焦げそうなぐらいムカつくぜ…!≫
「お、おい、落ち着け!」




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