ディーノ長編 | ナノ
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01

恋人のたっての希望により、私はようやくスマートホンを購入した。

今まで家に備え付けてある電話しか持っていなかった為に、他者との連絡が取りにくいという場面に幾度も見舞われたことはあった。だが元来、そう言った電気機器に頓着を持たない性格であったので、いつも購入を先送りにしていたのだ。

だが先々月、私の恋人であるディーノから注文が来た。
ほぼクレームのような内容ではあったが、要約すると≪不便だから俺と通信を取りやすい機械を買え≫とのことだった。
四六時中ディーノと共にいることは多いが、それでも一人フラフラと買い物に出かけることのある私を ディーノが心配してくれたからだと思いたい。
ともかく私は恋人のその一言で重い腰を上げた。
スマートホン。
初期の携帯電話で時代が止まっている私には、トランスフォーマー以上に難解な生き物のように、見えたものだ。


前置きが長くなったが、そろそろ本題に移ろう。ああだがその前に、もう一つだけ。
ともかくスマートホンと言うものは凄かった。
軍役時代の古い知人達らとも連絡が取れるようになり、様々な情報を仕入れやすくなったのは事実。
良いニュースも、そして

悪いニュースも分け隔てなく私の耳に届くようになったのだ。










月が出ていない真っ暗闇の日を選んだかのように、"彼ら"はやって来た。
海辺に連なる閑静な住宅街の真っ只中だと言うのに、物々しい重武装姿が悪目立ちしている。
最新の重火器を携帯した兵士の数は一個隊、二個隊……大勢だ。上空には軍用ヘリが旋回しており、家の前後左右全てを武装車が取り囲んでいる。
俗に言う『ピンチ』という奴か?
まったく、こんなジジイを狙うだけで、おっかないことだ。




「こちらに住んでいるMr.ジーク殿でよろしいかな?」
「ああそうだよ。やけに大所帯のお客様だね」
「我々は"モノ探し"をしておりましてね。ご協力よろしいですかな?"元軍隊長殿"?」


私の素性は既に把握済みで此処に来たのだろう。ならば隠す必要もない。「なにかな?」穏やかに聞き返してみたが、相手方は厳しい声色のままだった。



「事情を知っている方なので、率直に、単刀直入に聞きましょう。 "トランスフォーマー"を出せ。今すぐにだ」


出せ、とはまた。
軍用車に積み込んである熱探知機のサーモグラフィ値に反応が無いからと言って、あまりにも横柄な態度ではないか。一先ず、人に物事を尋ねる時に銃は構えない方がいい。


「…君達のことは噂に聞いていたよ。"墓場の風"と言うのだろう? オートボット狩りを行っていると言う、悪徳集団だ」


そこで初めて、目の前の男の表情に変化が起きた。忌々しいものを見るかのような目だ。


「…一応、我々の存在はシークレット扱いなのだが…さすがジーク"殿"だな。色んなお仲間がいるようだ」
「スマートホンが、偉大なだけだよ」
「………」


銃口を向けられる。やれやれ、やはり怒らせてしまったようだ。


「10秒以内に答えてもらおう。オートボット・ディーノを 何処へやった。」
「言わないさ」
「死ぬつもりで?」
「恋人を売るような真似は出来ない」
「…イかれ野郎め。人間のくせに、エイリアンなんぞを恋人にするなんてな」
「…カチンときたなその発言は」


周囲にいた兵士たちが一斉射撃の構えを見せる。懐かしい光景とも言えるし、昔感じたことのある空気がヒシヒシと伝わってくる。殺気に溢れた、不穏な空気だ。


「あくまで教えないつもりか」
「最後に必ず勝つのは、いつだって愛の方なのでね」
「…撃て!!」




―― 銃弾が、私の身体を 貫くことは無かった。




「うわああああぁぁああああ!!!」

其処彼処から断末魔が上がる。赤い血も同様に。


暗闇に生じて姿を表した赤色のボディ。
カチカチとカッターソードを鳴らしながら、"彼"は苛立っていた。


「……私は君に なるべく遠くに逃げなさい、と言ったのだが?」
≪ジークを置いてきた事に気付いたから迎えに来てやったんだろ、バカ≫



置いて行ってもらいたかったと言うべきか、囮になるつもりだったのだが。だが、彼も私の思惑には気付いていたから、こうして戻って来てくれたのだろう。



ディーノは暗闇に隠れるように動きながら、一帯を取り囲んでいた兵士たちの息の根を次々に止めて行く。彼の自慢の武器が人間の身体を引き裂き、腕のブラスターが武器を、車を、吹き飛ばす。


「…っ!くそっ、また人間を殺したなエイリアンめ」
≪ハァ? …おいヒューマン、勘違いするな。 オレにとってジーク以外のヒューマンのことなんざ、端からどうだって良いんだぜ。四年前も、今もな≫


≪逃げるぞジーク≫
ディーノの手が私の身体を掴んで内部へと押し込み、素早くビークルモードへと変形し海沿いの道に躍り出る。
後ろからは周りの住宅への被害など省みないつもりなのか、手当たり次第に銃撃を飛ばしてくる"墓場の風"の追撃があったが、ディーノは減速することもなく、私一人を乗せたままひたすらに爆走している。


「…よく奴らに位置を勘付かれなかったな」
≪簡単な話だ。奴らの索敵レーダー外でステルス化して背後を取っただけだ。変な虫の小型機に勘付かれないようにすんのは骨が折れたけどな≫






――四年前、ディセプティコンの侵略からシカゴを救った筈のオートボット達は今、人類に命を狙われている。
対オートボットの実働部隊まで結成されたらしい。軍仲間たちから聞かされた話よりも、だいぶ事は大きく進んでいた。



私は、ディーノを守る。それこそが今の私の、唯一の願いになっていた。




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