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▼ 他愛のないこと

ふと考える。この"世界"にエイプリルフールの文化はあるのかと。

しかしクリスマスも正月も無かったから、おそらく四月馬鹿もないのだろう。元はヨーロッパの方で生まれた文化が、異世界であるここにまで及んでいるわけがない。
それでなくとも「嘘を吐いて楽しむ」なんてのは、あまりよろしくない行いだと俺は思っていた。
俺が会社に勤務していた頃、若い子達が休み時間の際にエイプリルフールだと言うことで軽い冗談を言って来たことがある。「駅前のラーメン屋さんで一杯100円セール中らしいですよ」「部長が奥さんと離婚するって噂があるんです」は少々判断に困ったりもしたし、「ナマエさん来週から出張らしいですよ」も驚かされたが、中でも特に女の子たちが俺に告白をして来るのには参らされた。
何せ冗談なのか本気なのかが分からないのだ。
「ずっと前から憧れていました」だなんてどう返事をして良いか困ってしまう。後からネタばらしをしてくれるのはいいが、益のないことをするとウンザリしていた。

なので、俺はこの世界にエイプリルフールという文化が無くて良かったと思っている。
だがまあ同じ日付になり、話題に出すぐらいには良いかとローや、ハートのみんなにエイプリルフールのことを教えてみたんだ。ちょっとした話のタネで。
それがまさかそんなに反応を示してくれるとは思ってもみなかったんだよ。




「実は俺、海賊王の息子なんだ」

「すんませんキャプテン…おれ、今日限りでこの船を降ります」

「食料庫がネズミにやられて今日の飯は海水しかない」


コックの吐いた嘘に「そんな嘘はやめろぉお!」と賑やかに笑っているシャチ君たちは楽しそうだからまた咎められない。
こんなに楽しんでもらいたくてした話ではなかった。飛び交う実しやかな嘘に騙されることはないが、さすがにどうなんだそれは…と苦く感じる物もある。

慌てて俺は隣で座って話を聞いていたローに助けを求める。が、ローはローで別の事の方へと意識が反応をしていたらしい。



「嘘でもナマエに告白をした女なんざ、絶対に許せねぇな…」

「…あのな、ロー それはもう過去の事だし、冗談だったんだ。なのにその顔はどう言うことだ。眉間の皺が大変なことになってるじゃないか」


嫉妬をしてくれたらしいのは嬉しいが、話の中の彼女たちに向ける憎悪のそれが半端ではない。
ローは自分で嘘を吐いて楽しむタイプには思えなかったが、周りが言うことに関しては咎める子だと思っていたのに、仲間たちの無法ぶりにも関心を持っていなかった。
狙われているのは俺一人だ。


「ナマエに俺は嘘なんか吐かないからな。そこんところちゃんと分かってんだろうな」

「わ、分かっているから、ゆ、ゆさ、揺さぶるのはやめろ、ロー」



「前方に海獣の群れー!!」と見張り番からの声


「物騒な嘘つくなってばー!」シャチ君がからかう。焦った声が返って来る。
「嘘じゃねーよバカ野郎!前見てみろ!!」
どうやら本当らしい。慌てた様子でみんなは持ち場に着き、海獣の群れへの突撃を避けるべく動き出す。


「あぁ…やはり教えたことによる弊害が出そうだな…」

「弊害にはなってねぇだろ。あいつらはナマエの世界の話を聞くのが好きな奴らが多い。どうせそれも分かった上で楽しんでるだろうさ」

「キャプテンにそう言って貰えると心も穏やかになるな。……嘘ではないよな?」

「……だからっ」


俺の話をちゃんと聞け!

細い腕を振り上げてローは怒りを露わにする。すまない、冗談だと言っても今のローには逆効果だろう。


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