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億越えルーキー二人と、相当の実力を兼ね備えている海賊たちが束になってかかってもバーソロミュー・くまは難なく全てを相手にしていた。彼の掌から繰り出される摩訶不思議な能力は、ナマエの中にある知識や見解や言葉だけでは説明も理解も出来ない。
ただ、隣に立って心配してくれているジャンバールの気遣わしげな顔と、とても怒っているローの顔だけがナマエの眼に映っていた。 いや、ローに関しては意図的に"見ていた"のだ。 でなければ、彼を見ていないと、自分の存在が酷く朧気になってしまいそうで怖かった。
「ぐ――っ!」
「 ロー!!」
バーソロミュー・くまの掌によって刀ごと後ろに弾き飛ばされたローがナマエの近くに倒れこもうとしたところへ、我に返ったナマエが素早く下に回りこみ受け止める。
反対側では、ユースタス・キッドも吹っ飛ばされているところだ。ローの脇に駆け寄って来たシャチやペンギン、ベポ、そしてローを抱えているナマエを無表情で見つめていたバーソロミュー・くまは、「…時間だ」と口を開く。
「…元々、"此方"はおれの役割ではなかったが、ナマエの様子を見たかった為に寄り道をしたに過ぎない」
「……、…」
「…おれには別に、会わねばならない男がいる。 さらばだ、ナマエ」
「…!」
誰も彼を止める者はいなかった。文字通りパッと消えてしまったバーソロミュー・くまを引き止めることはしない。ローも苦汁を舐めさせられたような表情をしていたがそれ以上の怒りを見せることはなく、ナマエの腕の中から素早く立ち上がり「船へ戻るぞ」と号令をかける。
その険しい眼が、ナマエを見つめる。 何か、言わなくては。そんな気に駆られた
「……ロー、俺はあの男が言っていたようなことは何も覚え、」
「…喋んな」
「!」
「それ以上、おれの知らないお前の話なんかしてみろ。今ここでバラバラにして、頭部だけ持って帰っておれの部屋にオブジェクトとして飾ってやるからな」
「……分かったよ」
他人の話すナマエの様子なんてものを ローは聞きたくないようだ。そんなことに価値が見出せないのだろう。
なかなか船着場にまで姿を現さない船長たちを心配したクルー達から、心配の連絡がローの電伝虫に入って来る。そうだ、急いでこのシャボンディ諸島から出なければ。島のあちこちに乱立しているヤルキマン・マングローブの間を縫うようにして、怒号や喚声が上がっているのが聞こえた。
島を取り囲んでいる海軍の数は今この時にも増えている。
「ユースタス海賊団の奴らもいつの間にかいないなぁ…。キャプテン、早く行きましょう」
「こっちのGRを抜けて行けば船着場も近いです」
「あぁ。ナマエ、走れるだろ?」
「勿論。俺はさっき何もやっていなかったからな」
つい自嘲めいた言葉になってしまったことに大人気ない、と思ったが、
キョトンとした表情のローに何でもないような言葉で諌められてしまう
「 ナマエはさっき、自分の在り方についてを思考してただろ?」
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